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『白鯨』のハードルが高いなら、短編・中編を読めばいいじゃない〜メルヴィル 『書記バートルビー/漂流船』

メルヴィル(ハーマン・メルヴィル)といえば『白鯨
(これまたKindle Unlimited「読み放題」対象)

しかし、かなりの長編であることや冗長、難解でなかなか読破できないという声も多い。

だったらまずは短編や中編に触れてみるのが吉。

いやー、これは読みやすいとか関係なく、シンプル、ストレートに面白い。
(interestingという意味で)

『書記バートルビー』は、いわゆる不条理もの。

不条理ものというとカフカがよく知られているけれど、カフカより親しみやすく、とっつきやすい。(メルヴィルのほうがずっと古いので、むしろ彼のほうが「不条理もの」の先駆けといえる)

かといって、わるい意味でのわかりやすさ、読みやすさではなく、コンパクトにまとめられていながらも、濃厚、重厚で「灰色の脳細胞」をおもいきり刺激してくれる。

『書記バートルビー』は、滑稽さや、ある種「ギャグ」のような要素も盛り込まれていて、それらが作品の不条理の度合いをより不気味に盛り上げている。

そしてその差配のバランスが絶妙。

ここまで描けるひとが、その才能が、生前はほとんど評価されなかったということに愕然とする。(いまでは「国際メルヴィル学会」なるものまであるほどなのに)

ハーマン・メルヴィル
Herman Melville
Wikipediaより

中編の『漂流船』は、タイトルのまんま、漂流していたとある船と、それを救出しようとする別の船の船長のスリル味(むしろホラー的な)あふれる救出劇なんだけど、表現手法は叙述ミステリに近く、そういう意味でも楽しめる。(ということは、再読したほうがより堪能できるということ)

どちらの作品にもいえることなんだけれど、なにが起きているのか、どう展開していくのかまったく読めない(ま、ふつう小説ってそういうもんだろうけど)

じつに居心地のわるい宙ぶらりん感覚。

ハラハラやドキドキとはまた違う、なんともいえない「すわりのわるさ」が通奏低音に流れていて、その居心地のわるさが逆に作品世界を強固に、魅力的に構築している。

こうして最近「古典文学」を意識して読み、楽しんでいるけれど、これまで国や地域をそれほど意識したことがなかった。

メルヴィルはアメリカ文学のひとだけど、『マノン・レスコー』のプレヴォとは(もちろん)まったくちがっていて、そういうある種のお国柄というか、地域性、文化を背景とした(作家性とは別の)「描かれるもの」や「描き方」の違いも堪能できておもしろい。

メルヴィル作品は前述の『白鯨』のほか、最晩年に書かれた『ビリー・バッド』なんかもKindle Unlimited「読み放題」対象なのがとってもありがたく、楽しみ。

『白鯨』はコミック版もあるので(これもKindle Unlimited「読み放題」対象作品)これでざっくりとゲシュタルトを自分のなかに構築してから本編にいどむのもよさそう。


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