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文学こそ最高の教養である〜光文社古典新訳文庫

今年のベスト3(もちろん、私的な)には入るであろう一冊が『文学こそ最高の教養である』。

あまりに面白く、深く、また古典文学の各作品を舞台にさまざまな歴史、エピソードを縦断できる読書体験は稀有といってもいいすぎではない。

最近すっかり古典(文学)がマイブームなのだけれど(おそまきながら)「古典」となると翻訳が古くて(今の時代には)硬かったり、理解しにくかったりというハードルがある。

ましてやわたしのような「にわか」レベルでは、そのような古い、硬い翻訳は正直キツイし、なにより楽しめなかったりする。

そこで素晴らしくいい仕事をしてくれているのが、光文社古典新訳文庫シリーズ

そして、前述した『文学こそ最高の教養である』は、そのシリーズを立案、企画した編集者が、実際に本シリーズの作品を新訳された翻訳者の方々と対談形式で、作品について、翻訳について、翻訳者ならではの(古典文学に対する深い理解と愛情をもって)経験と視点でもってぞんぶんに語ってくれる娯楽性もあわせもつ好著なのである。

この対談は紀伊國屋書店との合同企画、イベントとして開催されたものなので(現在は例の馬鹿げた感染症騒ぎの関係で休止中)、会場に足を運んだ参加者もときに対談に加わり、そんなこともあってただの1対1の対談ではうまれない臨場感が、これまた場の濃密さを生んでいる。

もちろん、紀伊國屋書店、光文社古典新訳文庫の最終的(ビジネスにおける)なゴールは書籍を購入してもらうことで、だから本書で紹介している作品は同シリーズなんだけれども、必要に応じて他の出版社から出ているものでも読者のためになると判断すればグイグイと紹介しているのも好感。

ひたすらに古典文学に対する愛、触れる喜びを感じさせてくれる好著。

そのぶん深く、濃いので、一読ではもちろんすくいきれず、今は3周め。それでもおもしろい。

ざっくり紹介すると

●フランス文学編
└ アヴェ・プレヴォ
└ マルセル・プルースト

●ドイツ文学編
└ トーマス・マン
└ ショーペンハウアー

●英米文学編
└ ダニエル・デフォー
└ オルダス・ハクスリー

●ロシア文学編
└ ウラジーミル・ナボコフ
└ ドストエフスキー

●日本文学/アフリカ文学/ギリシャ哲学編
└ 鴨長明
└ チヌエ・アチェベ
└ プラトン

とわかれていて、それぞれの編で数作を紹介しつつ、関連する書籍等にも言及している。いい具合に(翻訳者の古典愛を強く感じる)話が縦横無尽にとぶ様がまた楽しい。

光文社古典新訳文庫は文庫としては、けっこうな値がするのだけれど(内容からいったら当たり前で、それに異を唱えるつもりは毛頭ない)ありがたいことに、Kindle Unlimitedの読み放題対象のものも少なくなく、目下はそのあたりをグイグイと渉猟している。

あらためて「国」を意識して読んでみると、これほどまでに個性があり、違うのかと、いまさらながら深く感じ入って、そういう意味でも古典文学は最近のわたしにとってとても啓蒙的な存在。

たとえば、フランス文学でプレヴォの『マノン・レスコー』やフローベールの『三つの物語』を読んでから、アメリカ文学でメルヴィルの『書記バートルビー』や『漂流船』を読むと、「あぁ、こんなに違うんだ」と。

もちろん、光文社古典新訳文庫ですべての古典文学を網羅はできないけれど、ありがたい存在として楽しませてもらいつつ、他の古典作品もと、どんどん楽しくなってきた。

はっきりいって、この価値と魅力に気づくと、もう一生分(それでも読みきれない)の「読むべき」本は決まっているっていう。

いや、ほんとに古典(文学に限らず)の力、存在って偉大。

おかげで流行ものの書籍に散財しなくなったし(そのうちにも価値、魅力的なものはあり、それらは読むけれど)無駄な(ただの消費の)読書は激減したのがすばらしくありがたい。

次はナボコフ(『ロリータ』で知られている)とロブ=グリエを読みたくてうずうずしている今日このごろ。


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