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読書の轍

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わたしになにかしらの轍を残していった書物たち。
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#光文社古典新訳文庫

人間喜劇は釈迦の「一切皆苦」につながる〜バルザック 『ゴリオ爺さん』

人間喜劇は釈迦の「一切皆苦」につながる〜バルザック 『ゴリオ爺さん』

バルザックといえば、一日に何十杯もコーヒーを飲むくらいしか知らなかったけれど

『ゴリオ爺さん』

いやー、おもしろかった。

前半、半分くらいまでは登場人物たちの説明でかなり退屈なんだけれど(苦痛なくらいに)、その儀礼を過ぎてしまえば、あとは怒涛の展開でページを繰る指がとまらない。

このさき、どうなってしまうんだろう?

という、ジェットコースター的なハラハラ、ドキドキ感で、後半は一気に読み進

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口述筆記のライブ感をギャンブルの疾走感とからめて〜ドストエフスキー 『賭博者』

口述筆記のライブ感をギャンブルの疾走感とからめて〜ドストエフスキー 『賭博者』

最近はドストエフスキーをつづけて読んでいる。

ロシア文学は登場人物の名前がおぼえにくくて(長いし)苦手なんだけれども、本作品はそのへんをいくぶんか気遣ってくれているようで、、いや、気の所為だろう。

ギャンブル(ルーレット)という、ライブ感あふれ、疾走感と共ににつむがれるストーリー展開のおかげもあるけれど

冒頭(1/3くらいまでか)の読みにくさ(名前のおぼえにくさとは別に、そうしたものはある)

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正座もの〜フォークナー 『八月の光』

正座もの〜フォークナー 『八月の光』

まだ7割くらいまでしか読んでいないけれど、とんでもない名作、作家に出会ってしまったかもしれない。

すくなくとも自分のこれまでの(けっして多いとはいえないが)読書体験でいえば、とくにアメリカ文学においては超絶、最高峰といえるのではないか。

その作家はフォークナー。

作品は『八月の光』。

こうした小説は日本人には絶対書けない(無理やりひっぱってくるとしたら、思いつくのは高橋和巳の『邪宗門』か)

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ひとは絶望とショックからしか学ばない〜ナボコフ 『絶望』

ひとは絶望とショックからしか学ばない〜ナボコフ 『絶望』

古典文学(厳密な「古典」以外も含まれるけれど)渉猟の旅はつづく。

今回はナボコフの『絶望』。

絶望という言葉は嫌いではない。

というか、好きだ。

なにごとも、すくなくとも新しい何かは絶望からしか生まれないと思っている。

広中平祐氏(数学のノーベル賞ともいわれる「フィールズ賞」受賞の)の名言である

のように。

ナボコフといえば「ロリコン」の語源になった『ロリータ』で知られる、ロシア出身

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学校で学んだのはラテン語と、うそをつくことだけだった〜ヘッセ 『車輪の下で』

学校で学んだのはラテン語と、うそをつくことだけだった〜ヘッセ 『車輪の下で』

ヘルマン・ヘッセといえば『車輪の下』。

でもそれは世界的にみると特殊なことのようで、たとえばドイツ本国と比べると日本での同書の売上は10倍(1972年〜82年の10年間の比較)だとか。

読むとわかるけれど、本書には随所に教育制度や学校に対する(学校や教師だけにとどまらず、社会機構もふくめて)批判がみられる。

これはヘッセみずからの体験からくるものでもあり、それだけに痛切に説得力をもって訴えか

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マンのハードルが高いなら、まずはエロス三部作を読めばいいじゃない〜トーマス・マン 『ヴェネツィアに死す』

マンのハードルが高いなら、まずはエロス三部作を読めばいいじゃない〜トーマス・マン 『ヴェネツィアに死す』

「エロス三部作」から始めるトーマス・マン(この呼称は翻訳家の岸 美光氏による恣意的なものだそう)。

なぜこの三作からというと、トーマス・マンが敬遠されがちというか、ハードルが高く感じられる様々な面がかなり軽減されていること。

短編や中編であったり(マンは難解なうえに長編がスタンダードだったりするので)

ストーリー自体はきわめてシンプルでわかりやすかったり(140文字でいけるくらい)

エロス

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300年以上も昔に書かれ、これまで100カ国以上の言語に翻訳された世界的ベストセラー〜デフォー 『ロビンソン・クルーソー』

300年以上も昔に書かれ、これまで100カ国以上の言語に翻訳された世界的ベストセラー〜デフォー 『ロビンソン・クルーソー』

難破、漂流、無人島とくれば『ロビンソン・クルーソー』。

昨今でもそうなのかは知らないけれど、多くの子どもたち、昔子どもだったおとなたちが、簡略化、編集された版や漫画版など、なにかしらに触れ、ざっくりとでも話の大筋は知っているだろう。

最低でも、乗っていた船が難破、遭難して無人島へ。

そこでとても長い間(28年)孤独に暮らすというもの。

*これもKindle Unlimitedなら「読み放題

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『ボヴァリー夫人』のハードルが高いなら、短編集を読めばいいじゃない〜フローベール 『三つの物語』

『ボヴァリー夫人』のハードルが高いなら、短編集を読めばいいじゃない〜フローベール 『三つの物語』

フローベールといえば『ボヴァリー夫人』や『感情教育』といった長編作品で知られる作家だけれども

正直いって、まだ古典にそれほど慣れ親しんでいない読者には、かなりハードルが高い(なにより、長い)。

だったら、短編、中編を読めばいいじゃない、というのは先日の投稿とおなじロジック。

フローベールの短編集には『三つの物語』(Kindle Unlimited 読み放題対象)というすばらしい作品があるのだ

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『白鯨』のハードルが高いなら、短編・中編を読めばいいじゃない〜メルヴィル 『書記バートルビー/漂流船』

『白鯨』のハードルが高いなら、短編・中編を読めばいいじゃない〜メルヴィル 『書記バートルビー/漂流船』

メルヴィル(ハーマン・メルヴィル)といえば『白鯨』
(これまたKindle Unlimited「読み放題」対象)

しかし、かなりの長編であることや冗長、難解でなかなか読破できないという声も多い。

だったらまずは短編や中編に触れてみるのが吉。

いやー、これは読みやすいとか関係なく、シンプル、ストレートに面白い。
(interestingという意味で)

『書記バートルビー』は、いわゆる不条理も

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ファム・ファタルといえば〜プレヴォ 『マノン・レスコー』

ファム・ファタルといえば〜プレヴォ 『マノン・レスコー』

ファム・ファタル(宿命の女、運命の女)といえば「マノン・レスコー」がまっさきに思い浮かぶ。

本作を読むまではマノン・レスコー自体、実際はどんなもの(ひと)なのかは知らなかったけれど、なんとなく「ファム・ファタルといえば、マノン・レスコーだよね」的な。

ファム・ファタルは「悪女」と訳されたり理解されていたりすることが多いけれど、もっと抽象度の高い概念、呼称で

宿命や運命を左右する女

といった

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古典文学が楽しめるようになってうれしい、たのしい、しかも読み放題で

古典文学が楽しめるようになってうれしい、たのしい、しかも読み放題で

古典文学(いまのところは西洋)マイブームが好調。

まさかこの俺が古典文学を楽しめるようになるとは、数ヶ月前まではまったく思ってもみなかった。

もちろん、そうとは知らず(意識せず)そうした「古典文学」を読み、慣れ親しむことは、これまでもあったけれど(たとえば、幼少時に読んだ「里見八犬伝」や「小公子」、「小公女」などなど)

こうして意識して(古典文学を読むんだ、と)っていうのは人生はじめてなわけ

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文学こそ最高の教養である〜光文社古典新訳文庫

文学こそ最高の教養である〜光文社古典新訳文庫

今年のベスト3(もちろん、私的な)には入るであろう一冊が『文学こそ最高の教養である』。

あまりに面白く、深く、また古典文学の各作品を舞台にさまざまな歴史、エピソードを縦断できる読書体験は稀有といってもいいすぎではない。

最近すっかり古典(文学)がマイブームなのだけれど(おそまきながら)「古典」となると翻訳が古くて(今の時代には)硬かったり、理解しにくかったりというハードルがある。

ましてやわ

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