アイドルネッサンスとはいかに作られたのか
※ この記事は2019/2/24にアメーバブログで公開したものと同じものです。
ちょうど1年前の2018/2/24。アイドルネッサンスが解散した。
アイドルネッサンスとはいかに作られたのか。メンバ選出から育成、トータルデザインについて思うところを書いていきたい。
なお、出典が明示できていないものや、強引過ぎるこじつけが多いので、そういうのが苦手な方は読まないことをオススメする。
1. グループ結成:優れた結成日、5月4日
2014/5/4にそれまでのアイドルネッサンス候補生から選ばれた7人が正式にメンバとなった。
アイドルには○周年ライブという結成日を祝うライブが必ずと言っていいほどある。
もしもこの結成日を普通の土日などにしてしまうと、1年後、2年後の同じ日が休日である保証は無く、その前後の土日でライブが開催される可能性が高く○周年ライブの日付が毎年変わってしまう。
一方で、結成日を祝日とした場合には毎年必ず休日であるため、毎年同じ日にライブを行える。
これは、ファンの予定を押さえるという意味では大きい。
また、5/4という日は5/3と5/5の祝日に挟まれているという理由のみで休日になっており、意味を持たない祝日で他のイベントとも重なりづらいためよりファンの予定を押さえやすい。
今後アイドルを結成する場合には5/4を結成日とすることをお勧めしたくなるほど優れた結成日であると言える。
2. メンバ選出:時間をかけて見極めた「おぼこい」メンバ
アイドルネッサンスのメンバは「SMA TEENS AUDITION 『HuAHuA』2013」に参加した少女を集めて結成された。
上記のHPを見ると「【募集ジャンル】モデル、タレント、俳優、ボーカリスト、ダンサー、声優など(なんでもOK)」とあり、アイドルという文字が無いことから、選出されたメンバは明確にはアイドル志望では無かったことが分かる。
実際にオーディション映像でも「アイドル」という言葉を発しているメンバはいない。
元々アイドル志望では無いメンバのアイドルは特に珍しいことでは無く、例えばスターダストのももいろクローバーなどは女優レッスンの一環でアイドルを始めたことは有名な話だ。
元々アイドルを集めたオーディションで集まった少女たちでは無いということはメリデメ両方あるが、一番のメリットはアイドル志望にとらわれない幅広い人材から選べることだと思う。
例えば、アイドルらしい振る舞いを嫌がる石野理子さんなどはアイドルのオーディションだったら応募していなかったのではないか。
そんな幅広いオーディション参加者からSMA運営が個別に「アイドルやってみませんか?」と声をかけたということだが、雑誌のインタビューで運営チーフマネージャの照井氏は「おぼこい」子を集めたと語っていた。これに関してはアイドルネッサンスのトータルプロデュースにも関わる理由だと思うので後で述べる。
一方で、一番のデメリットはアイドル志望では無いのでモチベーションの維持が困難な場合があるということか。
モチベーションの維持ができないとグループ解散に及ぶこともあり、アイドルネッサンスの解散もこのあたりのことが少なからず影響していた可能性はある。
さて、アイドルネッサンスメンバの選出は、上記で集めてきたメンバ(最初は13人、最終的には10人)を半年間かけて更に絞り込むという気の長いオーディションを通して行われた。
SMAという余裕のある会社だからこそできることで、また彼らが40周年を記念してアイドルグループを結成することへの意気込みがコストのかけ方からもよく分かる。
10人から7人への選出について新人公演の座談会で照井氏は「長期にわたって見てきたので色々あるが、一番は歌とダンス、振付の呑み込みの早さ」と語った。
この「色々あるが」にはメンバのキャラクタ、特に運営が求めるアイドルネッサンスというグループ色に合ったかどうかというのが含まれているのではないかと思う。
ではアイドルネッサンスのグループ色とは何だったのか。
3. コンセプト:イタコとしてのアイドルネッサンス
橋本愛といった女優や木村カエラといったアーティストが所属している大手事務所Sony Music Artistsがオーディションで集めた子でアイドルを始める。
この美女達の文字列とアイドルネッサンスメンバを見比べた場合にルックスのギャップは正直ある。突出したルックスを持つ子ではなく、どちらかというと垢抜けないビジュアルの子が多い。
これはもちろん垢抜けない「おぼこい」子を集めた運営の意図的なものであった。
では、なぜ「おぼこい」子達を集めたのか。
それは「名曲ルネッサンス」というコンセプトをトータルデザインし、アイドルネッサンスを名曲を口寄せで語らせるイタコとしてプロデュースするためである。
そのために白い衣装を来て、おぼこい子達をメンバとし、握手会では無くお見送り会という特典会を行い、「性の匂い」を感じさせる要素を徹底的に排除している。
そして、最もイタコに求められるもの、つまり、ルックス、パーソナリティ共に(実際はどうかは別として)乙女性が高く見えることが重要であったのだろう。
何色にも染まる白い衣装とありのままを素直に受け入れ乙女性が高いメンバがあってこそ、過去の偉大な名曲をよりコンセプチュアルに表現できると考えたのだ。
そうまでして作り上げたコンセプトがあるからこそ、デビュー曲「17才」で「覚えてしまったABC」と歌わせることが、より倒錯した想いを受け手に与え背徳感を内在したえも言われぬ魅力を醸し出していた。
4. 育成
4-1. 音楽集団としてのプロ意識を叩きこむ運営
おぼこいメンバを運営がどのように育成したか。それは音楽を魅せる集団=アイドルネッサンスを目指していたと思われる。
分かりやすい例では毎年5月4日に開催された○周年ライブが顕著で、余計な演出を入れずほぼライブのみで構成された公演となっており、お客さんを楽しませる手段として(良くも悪くも)音楽でという方針だった。
これは他の部分にも出ており、例えば新人公演千秋楽でメンバが夏休みの作文を発表する際に感極まってしまうと、運営スタッフがカンペで「泣くな」と出すなど、ライブにおける余計な演出、特に感動の押し売りについては意識して排除していたように思う。
個人的にも、全てをさらけ出して嗚咽するように泣いてしまうより、耐えて耐えてそれでもこぼれ落ちてしまう一粒にグッとくるタイプなので、そういう意味でもこの方針は歓迎していた。
ライブで魅せることを意識しているのは、照井氏が座談会で語っていた「良い歌を歌っているねと言われたい」というシンプルな想いから来ていると思われる。
ダンスにもストイックさを求めてか、同じく座談会で照井氏が「ダンスの先生は厳しい人にしている。時々我々も怒られる」と語った臼井比呂子氏に厳しく鍛えられ、その結果として一体感のある熱量高いフォーメーションダンスが形成された。
プロフェッショナルとしての育成も、「受けた仕事を全力でこなす」という観点で力を入れていたように思う。
例えば、新人公演のブログや愛踊祭のブログは真剣に取り組まないグループもある中で、アイドルネッサンスは毎回クソ真面目に更新していた。
そこまで意味のあるブログかは正直分からないため手を抜くことは間違いでは無い中での毎回更新を考えると、効果よりも受けた仕事をちゃんとやるという育成の面がかなりあったのではないかと思う。
また、ライブで地方に行っても日帰りだったり、泊まりであっても2日目は帰京後にレッスンがある場合が多く、地方で普通に楽しむ余裕は少なかったように見えた。
このあたりも運営のプロ意識付けが過剰に働いていたと感じる。
4-2. 照井氏の長い目
時間軸での育成を考えた時はどうか。
照井氏は座談会で「急な成長や集客を求めていない。長く活動していきたい。」と語っており、半年間という長いオーディション期間も含めると、長い目でそれこそ5年以上の単位で成長を見守ることを考えていたと思う。
それが、1年目に予想以上の成長や注目を集めたことで内外からより早く売れることを期待され、それがプレッシャーとなり結果的に解散を早めてしまったようにも思える。これは照井氏にとっても思わぬ誤算だったのではないだろうか。
座談会で「Baseball Bearとの共演を考えているか?」という質問に対して「失礼なので呼ばれるようになったら」と回答していたのが実現しかけていたことを考えると何とも言えない気持ちになる。
4-3.SMAという会社を生かした育成
アイドルネッサンスのカバーした楽曲は、アーティストの隠れた名曲的なものが多い。
それらの曲をただ歌わせるのではなく、例えば以下動画で歌詞を朗読させているように、彼女たちなりに解釈させた上で表現するということに拘っていた。
また、音楽実験室 新世界でのイベントでは、アコースティックライブとハイエンドオーディオでのアルバム試聴という一風変わった取り組みがあった。
特にハイエンドオーディオの試聴では、メンバに音を聞かせた感想を言わせ、石野理子が「艶のある音」と鍛えられた耳と音楽センスで語っていたのに対し、南端まいなが彼女独特のセンスで「ピカピカの泥団子」と評し、彼女達に少しでも音楽の多様性を感じて欲しいという照井氏の想いが迸っていた。
音楽以外の面でも、本人たちにクリスマス・バレンタイン・浴衣・海といったテーマで短編動画を監督・女優として撮影させ公開するといった、SMAという女優も所属している事務所ならではの育成も見られた。
SMAという舞台を使って、彼女達の可能性を少しでも引き出そうとする想いが前面に出ていたのを感じた。
全体としては、当初は照井氏を中心に長い時間をかけてメンバの様々な可能性を引き出す方針としていたのが、途中から売れること(解散のメッセージにもあったブレイクスルー)が求められるようになり、結果的に解散ということになってしまった感じか。
アイドルネッサンス運営は、プロモーション下手だしヲタの統制もできてないしワンマンのキャパも分かってないしオリジナル曲出すのも遅かったしと決してアイドル運営として突出して優れた手腕を持っているわけでは無いと思う。
しかし、「音楽が好きだ!」「良い歌を届けたい!」という音楽バカ的な想いはビシビシ伝わってきていた。
そんな運営と彼らが愛情たっぷりに育てたアイドルネッサンスだから好きになれたんだなと思う。
5. デザイン:変態的特異点・中野潤
アイドルネッサンスの存在を語る上で欠かすことができないのが、衣装やロゴ、HPのデザインや写真・動画撮影、編集を担当したブロックバスター・中野潤の存在だ。
一貫した白い衣装、昭和レトロ風なフォントのロゴ、いつどこで何があるか一目で分かる洗練されたHP、毎日アップロードされる動画と、アイドルネッサンスを象徴するイメージをデザインしていた。
これらには、元々ハロプロのヲタクであった中野氏が考える偏執的なまでのフェティシズムが散りばめられており、特に以下が特徴的だ。
・オリジナル曲で長袖になっても臍は意地でも見せる白セーラー。
・動画で執拗に映し続ける、石野理子さんの脚、百岡古宵さんのおデコ。副産物としての石野さん「手をかざせ」動画。
・白眉となった「MVを初めて見るメンバ」シリーズ。
SMAという大手事務所だからこそデザインワークを外注出来た側面はあるが、アイドル運営の在り方に一石を投じた存在だった。
また、彼は常にビデオカメラを回していたが、未公開分についてはいつか見たい。
特に、@JAM EXPO2014の運動会などは公式動画でもアイドルより目立って写っているくらい頑張って撮影していたので、是非ともどこかで公開して欲しい。もしくはこっそりDMください。
6. 行き過ぎた真摯:ヲタクとの距離感
アイドルネッサンス運営のヲタクに対する態度は、必要以上に真摯なものだった印象がある。
例えば、「T-Palette Records感謝祭2014」においてアイドルネッサンスのT-Palette Records所属が発表された際に、ヲタクから「何故定期公演で発表しないのか?」という不満や、「今後握手会などがあるのではないか?」という不安がTwitter上で上がった。
これに対し、次のライブである橋本佳奈生誕企画のイベント後にわざわざ照井氏が時間をとってヲタクに説明し質疑応答に応えた。
自主公演の度にアンケートを取っていたのも印象的で、初めてアイドルグループをやる上でヲタクの意見をできるだけ聞きたいという想いを実践していたように見える。
一方で、ヲタクに対して基本的に性善説で接していたようにも感じる。
彼らの主催ライブでは基本的にライブ中の禁止事項は無く、多少荒れたところで統制を効かせるということは無かった。
過剰な統制は現場を無味乾燥なものにする一方で、集客を伸ばす上で非常に重要なライトヲタクの「ヲタクがひどすぎてライブに行く気が失せた」という意見がSNS上でも見られたことから、もう少しヲタクへの接し方を変えれば違った未来があったかもしれない。
他にも、「SNSや指差しで分かる人間性」、「アーティストの少しマイナーな選曲」「新メンバの選出」など思うことは色々あるので、機会を見てまた書きたい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?