藤井風が歌う「君が代」/東京2020オリンピックSIDE:A
世界一やさしい君が代を聴いた。
信じられないくらいやさしい歌声に、胸の奥から熱いかたまりがこみあげてきて、思わず心臓あたりをぎゅっと握りしめていた。
勇ましく士気を高めるような国歌が多いなかで、もともと君が代は静謐を湛えた歌だ。でも、風さんが歌う君が代はさらに上をいく。
母が腕に抱く子のために歌う子守歌のように、どこまでもやさしかった。力みなど、一切感じられなかった。
もしかしたら、レコーディングスタジオで録音したものではなく、何気なく口ずさんだ音源を採用したんじゃないかと思うほど、構えたところがない。
こんな風に歌われた国歌が、かつてあっただろうか。風さんの手にかかれば、国歌すら極上の音楽になってしまう。
まったく、この感動をどうしたらいいものか…。
映画のところどころで聴こえてくるピアノにも、一音目で心を持っていかれる。負けた選手の後ろ姿に、さもすれば強張りそうになる気持ちをふわっとほぐしてくれる。
「わかってるよ」
そう言われている気がした。
「見ていたよ」
そう受け入れてもらえた気がした。
映画に登場した選手や関係者たちにこそ、ピアノにのせたそんな風さんの愛が届けばいいなと願った。
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