歌舞伎初心者が感じた「歌舞伎」
2023年12月、自分でもどうしたのってくらい歌舞伎を見た。
歌舞伎を初めて見たのは「刀剣乱舞歌舞伎」。そう、2023年7月。一年も経たずに「南座花形歌舞伎は右近さんと隼人さんか…二回は見たいな…」とか言って実行している。
妹から「すっかり歌舞伎沼の人ですね」と言われた。そうですね。
初心者として「歌舞伎怖くないよ!!」と思った備忘録文章を残しておこうと思う。
なんか難しそう
そんな貴方に歌舞伎は優しい。イヤホンガイドをレンタルすれば、リアルタイムで解説してくれる。
解説は多岐にわたる。今出ている役者の名前と屋号、話の解説、謎の動きの解説、時代背景や歌舞伎の型の説明、音楽の意味や歌詞の意味。進行に合わせて解説者がリアルタイムで解説してくれる。
常に「あれはこういう意味なんだよ」と識者が解説してくれる。「え、今のなに?」と思う暇もないくらい丁寧。片方の耳で解説を聞きながらもう片方の耳で歌舞伎の音曲を聴く。忙しい。でも、イヤホンガイドがあると「なんかよく分からない歌と舞」が「男に惚れた女が身の上を語る様子」になるので、レンタルした方がいい。
ドレスコードあるんでしょ?服持ってないよ
何を着てもいいから、おめかししてるだけです。
気合いの入った格好からカジュアルな人までいる。「なんかやってるから来た」なんて歌舞伎座で言いたいわね…
私は着物を着ることが多いが、「きっちりと着物を着る理由にしてる」だけで、特に意味はない。帯がめくれてたりきっちり着られてないときは直されるが、私だってスカートの裾がベルトに引っかかっている人がいたら「スカートめくれてますよ」と囁いてから直すのをお手伝いするだろう。たびたび直されるが、「え、一人で着たの!?」「素敵なお着物ね」「楽しみましょうね」と名も知らぬ着物マダムにお世話になっている。いつもいつも本当にありがとうございます……
観劇ファッションの基本「背中をつけられない服は着ない」「後ろの人が邪魔になるような髪型にしない」を守ればどんな服でも大丈夫。
初心者向けってある?
そんな貴方に新作歌舞伎。
「今」「人気のある作品が歌舞伎になる」ので、周りは「歌舞伎を初めて見に来る」人が多い。私もきっかけは「新作歌舞伎刀剣乱舞」だった。
古典歌舞伎や歌舞伎十八番を見たが、江戸時代からずっとあるものもあるけど、「牢をやぶってイセエビとボタンが舞い踊り、ボタンで埋まった御輿の上で見得を切って終わる」とか、いったい何が起こっているのか分からないまま終わる。古典歌舞伎を理解するのはいつになるのか…
古典歌舞伎は「場面」や「見た目」を楽しむものなんだろうか…という気がするけど、分からない。「全10巻の作品の3巻だけ上演」というものが多い上に「3巻と8巻の内容は残ってるけど、他は残ってない」とか「長すぎて上演されない」というものも多いようで、「この後どうなるんだ」「因縁ってなに?」という疑問がわいてもイヤホンガイドもパンフレットも解説してくれない。とにかくノリとテンションで全部乗り切るインド映画を観た後のような気持ちで会場を後にする。インド映画でももうちょっと理解できるぞ。
古典歌舞伎は「昔から観られているエンタメ」新作歌舞伎は「新しいエンタメ」ということだろう。倫理観も常識もなにもかもが違うので、「分からんけど出てきた人かっこよかった!」と思うのが古典歌舞伎。たぶん。
明治時代や昭和にできたものが「古典歌舞伎です」って顔をしているものも多いので、「新作歌舞伎がいつか古典になる」を実感する。
チケット高そう…
高い席から安い席までよりどりみどり。何よりウェブ販売では席が選べる。「発券するまでどんな席か分からない」がない。自分で選べる。
高い席は見やすいし近い。でも安い席でも見えないということはない。「見えない席」は見えないと注意がある。遠い席の方が全体を見られる、花道横だと役者を感じられる。近い席だと圧倒される。三階席だと落ち着いて音を楽しめる。
上演時間長そう。トイレ心配…
確かに上演時間は長い。3時間とかザラだ。ただ、一時間程度でひとつの話が終わって(新作の場合キリがいいところ)20~30分くらいの休憩時間がある。幕と幕の間「幕間」にご飯を食べる事もできるしお酒だって飲める。「幕の内弁当」の由来だ。
コンビニ弁当やパンを持ち込んでもいい。相当臭いが強いものでなければ自分の席やロビーで飲食してもいいのが歌舞伎小屋だ。
コーヒーを飲んでリフレッシュしてもいいし、チケットを持って少し外に出ても良い。お土産やグッズも充実しているし、公演の後半になると舞台上の役者を撮影した写真が売られている。これは眺めているだけでも楽しい。
江戸の頃は役者と話せたりしたそうだが、今はさすがに聞いた事はない。かなり細やかにファンミーティングのようなものはあるらしいが。あと、主演の妻が関係者とお話されている様子を目にすることもあるようだが私は見たことがない。
「刀剣乱舞歌舞伎」の時は、入った瞬間からこんのすけに当たる歌舞伎役者が「こちらは刀剣乱舞歌舞伎の本丸でございます」と練り歩いておられた。入った瞬間から刀剣乱舞だった。別の演目を見ることで「あれは本当に初心者怖くないよ!とご案内してたんだ…」と実感している。あそこまで手厚いご案内、ない。
トイレは充実している。あいにく、動線はスムーズとは言いづらい。舞台を中心に設置され、その周りに売店などがあるため「売店に行って弁当買ってトイレに行って」ってしていたらあっという間に休憩時間が終わるし場所も分かりづらい。
どこにでもいる劇場スタッフの皆様、いつもお世話になっております。
役者の名前覚えられない
だいたい同じ苗字なので、基本的に名前か愛称で呼ぶ。それさえ知っていれば屋号とか名跡とか色々あるけどそのうち覚えるし、覚えなくても「今舞台でかっこよく見得切ってる人なんかかっこよかった」と思っておけばいい。関東では筋書、関西では番付というパンフレットを買えば出演者一覧がある。そこにちゃんと役の名前と役者の名前がある。
パンフレットを買っていなくても、チラシのアーカイブは結構残っているので後から確認することもできなくはない。
見終わったあと「〇〇さんかっこよかったー」って言ってる人が「その人じゃないよ」と突っ込まれているのは何度か聞いた。常連でもそんなものである。
今後歌舞伎を見続けるのか?と聞かれたら「まぁ見るんじゃない?」と答えるだろう。何代も前から連綿と歌舞伎を見ているご一家もあれば、初めて見る人もいる。一生推せる役者が出てきて後援会やファンクラブに入る人もいれば、大向こうの会という「〇〇屋!」と声をかける人もいる。ペンライトを振ったりアクスタ集めたりする人もいれば「何十年前に見た…だれだっけ…なんかよかった…」と、雲すらつかめてない話をする人もいる。
何百年も続いた大衆娯楽。それが歌舞伎。自分の楽しみたいように楽しめばいい。どこかで上演されているし、テレビや映画館で見ることもできる。
その昔は酒を飲みながら野次を飛ばして、それを役者がうまく切り返した、などという逸話が山ほどある。昔の客のマナーのなさもすごいが咄嗟に返せる役者もすごい。そんな話を聞いたり読んだりするのも楽しい。
「見たい」と思った時が見どき。
古くからある沼へ、新しく飛び込もう。