#アドベントカレンダー2021 Birthday before Xmas
僕が小学5年生になる娘の陽菜と母とを連れて、父を見舞いに行ったのはクリスマスが迫った12月19日のことだった。父が入院している病院は、地域の中でも一番の大きな病院だ。とはいえ、周りを山に囲まれた田舎だからこそ威厳が保たれているようなもので、都会の大病院からしたら、一地方の病院に過ぎないのだろう。
父は口も利けない状態で、ただベッドの上に横たわっているだけに見えた。
「おじいちゃん、陽菜だよ」
孫の呼びかけにも、父の反応は薄い。顔を少し動かすのが精いっぱいだった。母は堪りかねて、
「ほら、陽菜がせっかく顔を見せてくれたんだから、少しは笑顔を見せたらいいじゃないの」
と言いながら、父を揺すってみた。しかし、何も反応はない。
沈黙が流れる。
「もうすぐ、クリスマスだね。いつもサンタさんが来てくれて、プレゼントを渡してくれたよね。おじいちゃんの誕生日プレゼントまで渡してくれて、優しいねって思ったんだ」
静けさを破ったのは、陽菜の一言だった。
「そういえば、おじいちゃんの誕生日は今日だったね」
僕が呟くと母も、
「うん、じいちゃんが倒れてから、誕生日のことなんてすっかり忘れてたよ」
と小声で言った。僕も母も父の身の回りの世話が精いっぱいで、誕生日のことなどどこかへ置き忘れていたのだった。
「もうダメじゃない、おじいちゃんの誕生日忘れちゃ、かわいそうだよ」
陽菜に注意されて、僕は父に一礼した。
「父さん、誕生日のこと忘れてごめんな」
先に帰る陽菜を送る車内で、
「ねえ、お母さんのこと気にならない?」
と僕は尋ねられた。
「ああ、でももうお母さんと別れてから、ずいぶん経つからなあ」
「お母さんの誕生日、おじいちゃんと同じ日だよ」
胸元をえぐられる感覚に襲われた。
「うん、でも今お父さんが何かしたところで、お母さんは戸惑うだけだろう」
そう返すしかなかった。
「うん、そうだね。お母さん、自分の誕生日どころじゃないくらい忙しく働いてるからね。せめて、お父さんには覚えててほしかったなって思っただけ」
そのように言う陽菜の言葉の端々に、寂しさがにじみ出る。
駅前に着いた僕は運転席から、陽菜をぎゅっと抱きしめた。
「ごめんな、寂しい思いをさせて。謝ってもどうにもならないけど、また会いに来てほしい」
「うん、ありがとう。お父さん大好きだよ、でも行かなくちゃ」
そう言われて、ハッとした。陽菜は車から降りると、駅舎へと向かっていった。その姿は人ごみに紛れて、あっという間に見えなくなった。
「さあ、病院に戻らなきゃな」
独り言を吐き出すと、僕は駅を離れようとした。しかし、視界は涙で奪われていた。近くのコンビニに車を停めて、涙を拭った。僕の視界にはサンタに扮した父の姿が映っていた。
街はクリスマスのイルミネーションで華やかに賑わっている。
了
【さいごに】
湿っぽい話でしたが、最後までお読みいただき、ありがとうございます! アドベントカレンダーを企画していただいた、ナカタニエイトさんをはじめ、参加者の皆さん、読者の方々に感謝です!!
明日はもり氏@マンガライターさんです。「クリスマスにちなんだコマを活用したマンガ紹介」ということで、楽しみですね♪
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