ヤるとかトるとかヤメてください
不慣れな夜の都市高速を必死に逃げてた。僕のランエボも相当頑張ってくれてるけど、さすがに分が悪い。数分間ほとんどアクセルべた踏みしてる状態にもかかわらず、確実に差は縮まってきてる。ああ、なんでこんなことに。いやだー!死にたくない!!
「うるさいなあ」
後部座席の彼のことを忘れてた訳じゃない。ただ、暫くは目が覚めないだろうと思ってた。
「どこ? 誰?」
僕は、あなたを連れて来いって言われただけなんです。さっきのアイリッシュパブが初対面でしたけど。
「つまり俺に一服盛って眠らせてお持ち帰りしようと?」
ちょっと今そういう状況じゃないんです。一服盛ったことについては後でちゃんと謝りますけど、まずはこの危機感を共有して欲しい。あの、おっきい車に追われて――
「警察じゃないっぽいな 心当たりは?」
ありませんよ! 僕はあなたを運ぼうとしただけで、そしたら途中であんなのが――
「たちまち、あきらめてもらうか」
彼は内ポケットの中やらベルトのバックルやら何かゴソゴソしてると思ったら、いつの間にか拳銃らしきものを握って後ろを睨んでた。え――それで撃っちゃうんですか?
「ちゃんとタイヤ狙うって ひとまず足止めできればOKでしょ?」
でしょ?って言われても、そんなに都合良く行くとは――
「!」
次の瞬間、後ろの車は大きく向きを変えてバックミラーから消えた。数秒経っても静かなままだったので、僕はちょっとだけ安堵した。(爆発しなかったんだ――たぶん死人も出てないハズ)
「ぼちぼち巡航速度で行って構わないんじゃね? いい加減にしないとそのうちオマワリさん来るよ?」
助かったのか? まだよくわからないけどアクセルを緩める。
「どこに向かってる?」
草津です。あなたを連れてこいって人の所。
「ヤクザ?」
違いますよ。僕はそこで家庭教師を、ってさっきパブで話しましたよね?
「そういえば――ところで、さっき『後でちゃんと謝る』って言ったの覚えてる?」
ええ……?
【つづく】