
「ナゴムの話」の話
“それまでウチでレコード聴くだけのファンで自分が音楽やろうとは全く思ってなかったのですが、ライブハウスにも通いだして生でインディーズバンドのDIY精神に触れて自分も何かやりたいという衝動が起こったのもこの頃でした。”
最近にわかに僕の周辺でナゴムレコードにまつわる話題が多数挙がっている。僕自身も昨年末音楽ライターの安藤さやかさんとたまについての対談を行っていたため、たま及びナゴムレコードについての関心が再燃してきていた。
そして先に引用させて頂いたCoakiraさんのnoteを拝見したことがきっかけとなり、僕もごくごく個人的でありふれた、それも“後追い”としてナゴムについての文章を書こうと思ったのだ。
80年代半ばから末期にかけて、ナゴムレコードという、まだ「インディーズ」という言葉もない時代に発足した「自主制作レーベル」が存在していた。
1987年生まれの僕は当然その頃影も形もなかったので、その躍進ぶりをリアルタイムで目の当たりにすることはできなかったのだが、2000年頃より後追いという形でナゴムの活動を辿ることになる。
まず僕はたまが好きだった。この話をすると長くなるのでまた別に機会を設けるが、ざっくり言うと、1999年にたまを知り、今までの「バンド観」「音楽観」といったものが根こそぎ揺るがせられる、僕にとっては大事件が起こったのだ。
そこからたまの活動を追いかけ、中古CD屋で音源を探したり、時にはライブに行ったりもした。
そして非常に運のいいことに、1999年の終わりという比較的早い段階で、我が家にインターネットが開通した。たまは当時青林堂が運営していたサイト「デジタルガロ」の中に「デジたま通信」というページを持っていた。そこにはメンバーの日記や鼎談の他、BBSも設置されており、ファン同士が交流していたと記憶している(この時代の記録が一切残されていないので、間違いがあったらすみません)。
そして確かその中で、ナゴムレコードという存在を知ったのではなかったか。
自主制作から始まるインディーズブーム、そしてバンドブームが存在していたのは後になって知ることで、僕が少年時代を過ごした90年代半ばから後半にかけては、少なくとも僕の住む郊外には一切そういった情報は入ってこなかった。時はJ-POP全盛期、TKサウンドが世を沸かせ、その少し後にヴィジュアル系ブームが来る。当然僕もそういったものを愛聴しており、音楽とは、バンドとはこういうものなんだな、ということを、良くも悪くも刷り込まれていた。
そんな中たまを知り、芋づる式にナゴムレコードの存在を知る。
ナゴムってなんだ?レーベルってなんだ?インディーズってなんだ?僕の頭の中はハテナでいっぱいだった。
そこでインターネットが役に立つ。僕は日がな一日「たま」や「ナゴムレコード」で検索をかけ、有志が立ち上げたホームページに掲載されている情報を印刷(当時我が家ではパソコンを使える時間が限られていたので、読み込みたいページがあったらその都度プリンターで印刷していた)し、ナゴムとはケラさんという人が立ち上げたレーベルで、レーベルとは各バンドのレコードを作るところで、そのレコードが一般的な流通網以外のところで販売されていたのがインディーズなんだな、という雑な認識を得ることができた。
そして翌年2000年、僕が中学校に上がった年に、平田順子さんの著作「ナゴムの話」と出会う。
これも本当に偶然なのだけれど、隣町にあった普通の書店の一角がなぜか太田出版や青林堂の書籍が並ぶサブカルコーナーになっていて、近所の書店では見かけない奇妙な本が並んでいたため、怖いもの見たさで僕はちょいちょいその店に足を運んでいた。
そのコーナーに「ナゴムの話」が置かれていた。
最初立ち読みした時、これはスゴい本だ!と思った。なにしろナゴムレコードから音源をリリースした全バンドの情報が掲載されており、それに加えてインタビューまで載っている。
当時は「たま」しか知らなかったが、この本によってナゴムレコードを主催するケラさんがリーダーであった「有頂天」の遍歴も知ることができ、名前だけは知っていた「筋肉少女帯」もナゴムに関わっていたのかと驚いたし、この数年前に「Shangri-La」が大ヒットした「電気グルーヴ」(当時の僕にとっての電気の認識はそのレベルだった)の前身バンド「人生」を東京に連れてきたのもケラさんだったとは等、読めば読むほど新たな発見を得ることができた。立ち読みだけど。
これは買わなくては!と思ったのだけれども、中学1年生の経済的事情により、その場で即決というわけにはいかなかった。今確認したら定価が1,900円+税と書かれてあり、確か当時の僕の月のお小遣いが1,000円とか2,000円程度だったはずで、そういったレベルなので欲しいは欲しいけどかなりの期間購入を躊躇していた。
そしてあれは夏休みの頃だったか、臨時収入が入ったかどうかは覚えてないが、中学生にしてはまとまったお金が入ったので、電車に乗って隣町まで行き「ナゴムの話」をようやく購入した。
話は反れるけれど、家に帰るまで待ちきれず、電車の中で本を開いたところ、巻頭の年表に「人生」のメンバーが全裸で踊っているカットが使われていて「こういうのって本に載せてもいいのか……?」と思ったことを、なぜか鮮明に覚えている。
「ナゴムの話」は中学3年間、そして高校生になってからも、何度も何度も読み返し続けた。90年代、僕が小学生だった頃に思い描いていた「音楽」「バンド」というものからは遠く離れたところで行われていた活動、それが「ナゴム」である、ということをこの本により知ることができた。
自主制作で好きなバンドのレコードを作ってもいいし、かといって自主制作だから資本に飲まれてはダメだ!という考え方もしなくていい。つまり「自分の好きなことを好きなように、やりたいようにやっていい」という姿勢、思想を、この本を通じて学んだ。
もちろん音楽的にもナゴムからは多大なる影響を受けている。
僕は当時暗い音楽が好きだったので、やはり筋肉少女帯の名前を挙げないわけにはいかない。どのアルバムも好きだけれど、当時は特に暗黒プログレ要素が強いナゴム時代から「SISTAR STRAWBERRY」までの時期のものを愛聴していた。
そういえばその時期に在籍していたピアニスト、三柴江戸蔵氏(現・三柴理)が在籍していた「新東京正義之士」のラストライブの音源がYouTubeに上げられていた時は本当にびっくりした。対バンがマリンコーニアということも驚きだ。大槻ケンヂ氏の言葉を借りるなら「伝説の底が抜けた!」といった感じである。
暗めといったらミシンも好きだった。20歳前後の頃ナゴムやトランスのレコード、ソノシートがやたら中古レコード屋で売られていた時期があって、その頃に購入した気がする。ネオアコ的なサウンドに影のあるボーカルが僕は好きだった。
そしてナゴムの中でも、たまと並んで僕に多大なる影響を与えたのは、やはり痛郎だ。
変拍子のリフを軸にした楽曲に耳に残るメロディ、そして魂を削って書いたような内省的な歌詞。痛郎の曲は本当に高校時代、誇張なしに毎日のように聴いていたし、インタビュー記事が載っている雑誌も買い集めた。そのため、ライブ映像が収めれられたビデオ「オールザットナゴム」を入手した時は本当に嬉しかった。
痛郎についても話し出すとと止まらなくなるので、またの機会に……。
ところでこの2000年代、インターネットは目まぐるしい勢いで進展を遂げ、ホームページからブログへ、ブログからSNSへといった具合にプラットホームが変化していった。
SNSの代表格が2004年にサービスを開始したmixiで、当時僕は17歳だったため本来なら使ってはいけないのだけれど、年齢を誤魔化して比較的初期の段階から潜り込んでいた。もう時効だからいいですよね?
そこにナゴムレコードのコミュニティがあり、リアルタイムでナゴム界隈のバンドを見ていた方や、当事者である方が参加しており、交流させて頂くことができた。当時を知る人達のナマの声というのは非常に面白く刺激的で、当時人生の底の底にいた僕にとっては、それが大いなる救いとなった。
あの頃の皆さん、ありがとうございます。
2005年には「ナゴム再生委員会」が設立され、有頂天、たま、ミンカ・パノピカ、マサ子さん等、当時では入手困難だったバンドの音源が「ナゴムコレクション」シリーズとして発売。トータルで12タイトルがリリースされた。
その当時はレコードプレーヤーを持っておらず、たまの「でんご」も「しおしお」も、そしてその他のナゴムのバンドも音源が入手困難であったし、そもそも手に入れたとしても再生する環境がなかったため、文字通りナゴムのバンドが出す音は“幻”に等しかった。
そのためこの再発ラッシュは嬉しかった。僕は真っ先にたまのナゴムコレクションを買ったのだけれど、1曲目の「夜のどん帳」の、インディーズ特有の音の生々しさに感動したことを、あれから20年経った今でもはっきり覚えている。
その年、「ナゴムの話」の文中で“ドラムを叩く渡り鳥”として紹介されていた、新東京正義之士、死ね死ね団、木魚等、ナゴム界隈の様々なバンドに参加されていたハッチャキさんが主催を務める、mixiでのやりとりがきっかけとなり立ち上げられた“ナゴム同窓会”的イベントが初台DOORSで行われた。
死ね死ね団、木魚、石川浩司+ライオン・メリィ、applehead(マサ子さんのまゆたんによるユニット)、モデルプランツ等、ナゴムに携わっていた方々の現在を見る事ができる非常に貴重なイベントで、先述したように後追いでしかない僕にとっては、正に夢のようなイベントだった。特にトリのミンカ・パノピカのハッピーなステージは本当に素晴らしくて、終電を逃し終着駅から2時間かけて自宅まで歩いて帰る間もまだその余韻は続いていた。
なおこの日のトップバッターを務めたのが、当時メンバー全員20代で「ネオナゴム」とも呼ばれていたニューウェーブバンド「ピノリュック」だった。
僕と年もさほど離れていないのに、このような大舞台に立つことができるとは凄いなあ、と感動したり、それに比べておれはどうなんだと落ち込んだり、情緒が乱れに乱れたもので、しかしその数年後僕はピノリュックに加入し人生の大きな転換期を迎えるわけだけれども、その話は長くなるのでまた別の機会にしたい(今回こんなのばっかりだな)。
ピノリュックの元メンバーはナゴム、特にニューウェーブの精神を大きく引き継ぎ、現在ボーカルのコメカさん、ギターの吉田仁郎さん、ドラムのカケヒくんの3名はテクノポップバンド「MicroLlama」を結成、活動を続けている。
僕はピノリュック以降、和風ハードロックなバンドやオルタナのバンドをやった後、「プログレッシブハードフォーク」を名乗るバンドを14年ほど続けた。こうしてみるとナゴム的な影響が見られないのではないか?と思われるが、僕はケラさんの言うところの“ナゴムの暗黒面”(痛郎、アルルカン)にとても強い影響を受けている。
そして振り幅は大きくたって構わない、つまりAが好きだからといって真逆の性質を持つBのことを嫌いになる必要はない、両方とも並列に好きでいて構わない、という考え方も、ナゴムレコードによって育まれたところが大きい。そうでなかったら「プログレッシブハードフォーク」なんてものはやっていなかったのではないか。
異なるものを混ぜ合わせる楽しさ、そこから生まれる面白さということを、ナゴムレコードは身を持って教えてくれた。それが僕の考え方の、一つの指針になっていると思っている。
このような思想にたどり着くことができたのも、2000年夏、隣町の本屋で「ナゴムの話」を購入したからだ。この本によって僕の考え方、ひいては人生も大きく変わることになったし、その影響は計り知れない。
現在は絶版につき入手困難だが、発売から25年過ぎた現在でもこの本を必要とする人は絶対にいるはずだ。需要は確実にあるだろうと思われるので、四半世紀ぶりに再版というわけにはいきませんかね?太田出版の方々?
ナゴム再生委員会設立、そしてハッチャキさんによる“ナゴム同窓会”から20年が経つ。つい先日ハッチャキさんがされたツイートによると、今年再び“ナゴム同窓会”的イベントが行われるらしい。
全てのナゴムギャルに届くよう大拡散をお願いします。
— ハッチャキ カリン Karin Kashiwagi/dewey delta drums (@Karin2cv) February 1, 2025
2025年6月9日(月)に東京/渋谷ラママでナゴムイベントを開催する予定です。
イベントタイトルは検討中ですが、学園祭のような内容にしたいと思い、バンドとDJを半々で。出演者は後日発表。
まずは35年ぶりにアルルカンを。
たとえワタシ1人でも。 pic.twitter.com/XcIfwF9ix8
すっかり僕も年を取ってしまったが、後追いの元“ナゴムキッズ”としては見逃せないイベントだ。
一体どのバンドが出演するのか?あのバンドは出るのか?気になることは山ほどあるが、そこはオフィシャルの発表を待ちたい。
ライブ予定

2025年2月22日(土)
阿佐ヶ谷mogumogu
「交差、線 Vol.4」
開場/開演 18:30/19:00
前売/当日 ¥2,000/¥2,500(+1drink)
出演: 石垣翔大(ex.曇ヶ原)
市村涼(ダンカンバカヤロー!)
OSMO
SilverWeak
予約フォーム:https://forms.gle/yqBbwLsGddRgW4fV7

2025/3/22(土)
東京タワー3階 TOWER GALLERY
石垣翔大(ex.曇ヶ原)弾き語り公演
「雪うさぎ、大海原を行く」
14時40分開場 15時開演 (16時終了)
チケット代3,000円(税込)

ほたるたちpresents 2ヶ月連続企画
『春の夢の三角形 vol.2』
4月12日(土)
大久保ひかりのうま
開場19:00/開演19:30
予約¥2500/当日¥2700
出演:
ほたるたち
団地ノ宮
石垣翔大(ex曇ヶ原)
予約フォーム:https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScC3Qa3ky_LX5t40BGp4zCfLR8p3I0jNQLLYdOwEZsVzKprKw/viewform
こういう音楽をやっています。
【告知】
— ショウタ (@show1987) February 14, 2025
2/22の阿佐ヶ谷mogumoguにて行われるライブから販売予定のデモCD−R収録曲「忘れっぽい天使」の一部を、簡単ではありますが動画にしました。こういう感じの、アシッドでサッドなフォーク(?)を今後はやっていきます。ひとつよしなに pic.twitter.com/Hjoc5Pxfzb