外科医の武器

そこに小さな血管あるよ

僕らのメイン武器のひとつは「解剖の知識」だと思っている。解剖というと、人体模型とか腸の図解とかを思い浮かべる人も多いと思う。もちろんおおまかにはそうなのだが、僕らが言うのは微細解剖がメインである。

そもそもひとの体から悪いところを取り出すときに、まわりの組織から分離する必要がある(剥離とかいったりする)。組織に切り込んでゆくとき、何を根拠に切っているのかというと、「そこには何もないから切って大丈夫」とか「これを切ってゆくとこの組織がでてくる」という確信があるからである。通常は、受け継がれてきた手術手順というものは、剥離可能層といって出血しないはずのアプローチ方法と手順で手術が行えるようになっているはずなのだ(もちろん細かい出血はあるけど)。名のある血管を傷つけながら、「ここは出血しながら頑張って進むところだ」なんて手術はそもそも行なわれないはずである。よって良きせぬ出血というのは、大抵はミスロケーションといって、手術進行のメルクマールになる構造物を誤認したりすることからスタートすることが多い。
ここ10数年で、鏡視下手術というカメラを近づけて行う治療が増えた結果、ミリ単位の血管を止血しながら手術が行えるようになり、今までしらなかった(もしくは経験では知ってたけど)微細な解剖まで確認しながら手術が進むようになった。1mmにも満たない薄ーい膜の上で剥離するのか下で剥離するのかみたいな細かいことを大真面目に議論しながら進んでゆくのである。
教科書には載らないような名前も付かない細い血管でも、「そこの処理したあとも、その血管から出る枝はもう一本くらいあるよ」、なんて言えるようなれば上級医一歩手前である。
こういうちっちゃな楽しい知識は自分で見つけたり口伝で教えてもらうことが多い。新たに発見した事は、ずっと書き足しているWordに追加してゆき、たまに眺めたりして喜んでいる。あまり知られていないことを手に入れると凄く嬉しいもんだ。

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