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グライムスの驚愕 ー実業家レーサーは「ローン詐欺の帝王」だったー

太平洋の向こう側であるアメリカ合衆国での事件故なのか、日本ではさほど認知されていないようなのだが、いわゆる昭和の「豊田商事事件」規模か、それ以上の巨額詐欺事件の当事者が、あろうことか表社会たるモータースポーツ界で、実業家の顔をしながら華々しく実績を積み上げていたという、どこぞの小説の筋書きのような驚愕の事件を、簡潔ながら紹介しつつ、自身の思うところを書き連ねていきたい。

上記に顔写真の映る小綺麗な中年男性、表向きはモータースポーツに情熱を傾ける実業家レーサーとして名高い人物なのだが、その実像は「超大物貸付詐欺師」として、米国中の経済弱者を標的に、文字通り「桁違いの経済的被害」をもたらした、スコット・タッカー受刑者である。

米国は金融事案の刑罰が比較的重いのは、未だに記憶に新しい水原一平被告による巨額横領事件における(司法取引前の)求刑期間でも明らかだが、スコット・タッカー受刑者も当然例外ではなく、詐欺の他にマネーロンダリングと恐喝も含め、全14の罪で起訴され、2017年より16年7か月の実刑判決…少なくとも2032年までの服役が確定しているという。つまり、世界中が大きく変化したコロナ禍に社会不在が重なり、2032年という内燃エンジンの自動車の存続も転換期を迎えるであろう遠い未来に漸く、半ば浦島太郎のような心境で社会復帰を迎えることになるのだが、いったいどんな心境でシャバに戻ってくるのだろうか…。

上記の「判決文」に諸々の詳細が掲載されているのだが、これが中々に悪質かつ巧妙な手口で戦慄が走る。「高利貸しを禁ずる州での脱法操業(1000%の暴利のケースも…)」を言葉巧みに展開しつつ、「分割払いの貸付を装いながら、一括返済の延滞金と併せて貸付分全額を、事前予告なく引き落としてしまう」乱暴な手口のようで、要するに諸々の制度の穴を突いたのだろうが、タッカー受刑者の狡猾さはこれだけに留まらず…

いわゆる「先住民免責特権」を隅々まで悪用する形で、被害者からの弁済や懲罰を巧妙に回避し続けた結果、全米中に被害が無尽蔵に拡大していったのだという。Wikiによれば、タッカー受刑者の総収益は3億8000ドル(1ドル=100円でも380億円…)にも上るとのことで、恐らく潜在的な被害者の実数は、主に高齢者層(※富裕層とは限らない)を標的に詐欺を繰り返した豊田商事の事件と比較しても、恐らく上回るのではないだろうか。

ちなみに、その「先住民免責」に際して、タッカー受刑者に実質的な名義貸しを許諾していたという人物(ネイティブアメリカン)に関しては、下記の「千葉集」様のネットフリックス制作ドキュメンタリー番組「汚れた真実」のレビュー記事をご参照頂き、ご考察頂ければと思う。個人的には、昨今の「被害者感情の中で生まれる憎悪と加害性」を想起してしまう故に、色々な感情が沸き上がってしまうので、この場では諸々割愛させて頂きたいが。

そんな未曾有の悪事を何年も重ねながら、表社会の実業家としてタッカー受刑者が情熱を傾け続けていたのは「モータースポーツ」であった。下記は自身のXアカウントにて交流させて頂いている「Zdravko」様のポストで、タッカー受刑者が2011年にル・マン24時間レースに出場した際の写真と、出場チームに関する詳細が記載されているので、参考資料として掲載させて頂きたい。

タッカー受刑者の「レーサー」としての華々しい経歴は、Wikipediaによると2007年より始まったようだ。当初は米国のトランザムシリーズのGT3クラスに参加する規模であったものの、まさしく豊富な闇の資金源を恐らく巧みに運用しながら、優秀なエンジニアや高性能車両の確保に努めて、実力と実績を着実に積み上げていたようだ。

2010年には、米国内耐久シリーズ最高峰の1つであった「アメリカン・ル・マンシリーズ」のGTプロトタイプクラスに、シーズン途中ながら本格的に出場を果たし、同年のルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得するに至っている。恐らくは事業の片手間に草レースを嗜むような感覚ではなく、レーサーとしてはガチンコで取り組んでいたのだろう。

尚、具体名は割愛させて頂きたいが、タッカー受刑者と共にマシンを共有した有名ドライバーの名前も幾つか掲載されており、その中にはインディカーシリーズで活躍した、自身にとって馴染みのある面々も見受けられたのだが、元チームメートが「闇金の帝王」のような存在だと後に知ることになるのは、中々に衝撃的であったのではないだろうか。

そして、上記に掲載のZdravko様のポストについてもお浚いしよう。2011年に恐らく悲願であっただろう、ル・マン24時間レースに参戦を果たしたタッカー受刑者…ローラ社の車体とホンダエンジンを擁し、クラス3位の好成績を収めている。どれほど優れた性能のマシンを抱えようとも、簡単に勝利を得られるほど甘くはない耐久レースの世界…その実力は、確かなものであったのだろう。

何より、当時のタッカー受刑者とホンダの間接的な関係性にも若干ドキっとさせられるが、しれっと大手企業の名前がマシンに彩られているのも、中々に考えさせられてしまう部分はある。最も、フェラーリのF1チームのスポンサーを務めた、某ポンジスキームの事案(代表者は現在も拘留中)も発生するくらいだから、金の集まるところに何かが起きていることは確かなのだろう。

今回の事件に関しては、ネットフリックスの「汚れた真実」というドキュメンタリーシリーズ内の、「ペイデイローン(シーズン1)」というエピソードで配信されており、日本国内でも提供されているようだ。自身は未視聴なので、上記の千葉集様のレビューを読ませて頂いた限りの感想に留まるが、第一印象でも中々に精神を削られそうな内容ではありそうなので、割と心構えはしたほうがいいのかもしれない…。


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