真打の効用【ほぼ無料】

東京には真打制度という身分制度がありますが、大阪には真打制度はないです。

今回は、

  • 真打制度て何?

  • 真打制度の経済的効用とは?

  • 大阪で真打制度が作りにくい理由

というテーマの記事です。

東京は日本の中心地だからこそ、真打制度=資本主義が発達し、大阪は地方都市だからこそ、上方落語界は、まだ封建主義=職人システムのままなのかもしれません。(私見ですが)今回は、そんなことが書いてある記事です。

真打制度とは?

真打制度について、私が以前、YOUTUBEでまとめたものがありますので、
よろしければ見て下さい(↓)
(※YouTubeを見ればここのくだりは飛ばしても大丈夫です)


「真打とは何か?」(東京ルール)

東京にある「真打制度」というのは、
「前座 → 二つ目 → 真打」という身分制度(階級制度)です。

①前座(東京ルール)

・芸歴3~5年ぐらいまで(師匠に入門を許された直後の人間)
・基本は「チラシ」に名前も表記されない噺家
→料金に入っていないとされる=寄席では「開演直前」に上がる
(※開演してからが料金なので)
・羽織を着てはいけない。
・楽屋の用事をする
・基本は毎日、寄席に行く(別の仕事や師匠の用事以外は寄席に毎日行く)
・基本は何でも師匠の許可が必要(仕事を選ぶのに師匠の許可が必要)
・師匠が亡くなった場合は、真打の誰かの弟子に移籍しなければならない


②二つ目(東京ルール)

・前座を卒業して、芸歴10~15年ぐらいまで(各団体や流派で「二つ目」の認定を受けた噺家)
・1人の噺家として認められるので、
「チラシに表記される」「羽織を着て良い」「楽屋の用事はしなくて良い」
→自分の判断で好きに仕事を選んで言って良い。
・師匠が亡くなった場合は、真打の誰かの弟子に移籍しなければ噺家を続けられない(このルールは二つ目でも適用される)
※寄席でトリは取れない。
※いわば、前座は「少年期間(未成年)」で、二つ目は「青年期間(未成年だが、電車は大人)」みたいなものかもしれません・・・。

③真打(東京ルール)

・寄席(通常興行)でトリを取れる資格を持つ
・対外的に「師匠」と呼ばれる
※真打昇進時の前座および、真打昇進以降の入門者から「師匠」と呼ばれる。
・師匠が無くなっても、移籍しなくて良い(完全独立の1事業者となる)
※その他、二つ目が持つ権利は全て有する。

★東京の「真打」の経済効果

結局、「真打(=師匠と対外的に呼ばれる称号)」とは、
「JISマークやモンドセレクション」みたいなもので、

「よく知らない人(商品の比較が出来ない人)」のための品質表示

とも言えます。言いかえれば、

「消費者が手に取る前に、別の誰かに一定の品質を保証してもらって安心するための表示」

というのが「真打」です。

商品をよく知ってる人は「真打・二つ目」の区別などなく、「誰が面白いか」を自分で把握して、好きな噺家を観に行きます。

もちろん落語ファンは、真打の中でも「自分の好みが出て来る」ので、自分の好きな真打を観に行くのですが、

全く落語を知らな人が

「誰を見て良いかわからない」
「見たことないけど、知り合いの噺家をイベントに呼ぶとして、その人は大丈夫なのか?不安だ」

という時に「真打」の表示があれば、最低限「一定の経験を経た人」という保証があるので、主催者は芸人を買い付けやすくなります。
その意味で、東京は「全ての落語家が商売しやすいような客観基準=真打制度」を採用してると言えます。

「真打披露興行の経済効果」

真打昇進が芸歴10~15年であることも、本当によくできていると思います。

通常、落語家になる年齢は18~30歳(高卒・大卒・少し仕事をしてからの人)がほとんどです。そうなると、真打になる時の年齢は大体30~45歳です。

この人たちが「一世一代の晴れの舞台」を飾るのです。
御祝儀の相場も「結婚式」と言われるのです。
つまり、結婚式のように真打昇進した噺家は、

個人的な繋がりのお客様(御贔屓・親類縁者・友人関係)を寄席に呼ぶ

のです。(もちろん自分の芸で魅了した観客は当然来るのは当たり前として。)

落語家をして芸歴15年なら、その15年間の間に、ある程度「自分が芸人として開拓した人脈」が存在し、その人脈は「ほぼ誰も死んでない」状況です。
自分を応援してくれる30歳年上の金持ちがいても、60歳です。
(これが芸歴50年のパーティだったら、そんな社長さんは、ほぼこの世にいないでしょう)

そして、自分が噺家になる前の知り合いも「ある程度付き合い」が残っていて、その人たちは現役世代で一杯います。
もっと言えば、自分の親世代も生きてますから、「自分の親の知り合い」も一杯来てくれます。

ですから、真打披露興行によって、寄席や所属団体(興行元・落語業界)は、「今まで寄席や落語に全く来たことのない新規客」を獲得することが出来るのです。
別に全員が残らなくても、「短期で言えば正味の来場者数の売上が増加」しますし、そのうち何人かが落語ファンになればリピーターも増えます。
そして、このシステムは「毎年、新真打を誕生させること」で永続できるのです。凄い経済効果です。

また東京は日本の中心ですから、その噺家の出身地である「●●県人会」からの応援も期待できます。
新真打が地方出身者であればあるほど、東京で「同郷意識」を持つ人がそれなりに見込めます。その「同郷意識のある人が、東京で真打になる同郷の若者」を応援しない訳が無いです(笑)・・・私見ですが。
その人達も寄席は新規客として見込めます。

真打披露興行というのは、経済学的に見て「寄席」にとって、なくてはならないものだと思います。

上方ルール=「年季修行」制度

大阪は今は真打制度がありません(昔はあったそうですが、上方落語四天王の時代には少なくとも無くなっています)。
その代わり「年季修行」という制度があります。

①年季中

・師匠に入門して師匠が「年季明け」と言うまでの修行期間。
・だいたい2~3年が多いです。(もちろんもっと長い人もあれば、短い人もあります)
・基本は、毎日師匠の家に通う(あるいは住み込み)。
→大阪の寄席=天満天神繁昌亭で「東京の前座さんの仕事」をする人は
毎日1~2人だけ”雇われて参加”するだけです。東京のように1つの寄席に5~10人、そこに常駐することはないです(東京は毎日寄席に通うが、大阪はしない)。だから師匠宅に毎日通うことが修行になります。
・仕事を受ける時は師匠の許可が必要。
・羽織は着ない(そもそも落語の出番は最初にしか上がらない)
いわば「未成年」みたいなものです。
もし師匠が亡くなった場合でも、年季中であれ、誰かの門下に移籍することはなく、「あくまで永久に最初に入門したその師匠の弟子」のままです。(※ただ年季中に師匠が亡くなった場合は、年季明けまでは一門の誰かに「預かり」で修行させてもらう事が多いです)

②年季明け=年季修行が終わること

・年季があければ自分で仕事を自由に取ることが出来ます。
・仕事内容によっては「羽織」を着て良い。
→基本は公演の最初に出る時は着用せず、二本目以降の出番に出る時は着用します。また単独で仕事に行く場合は着用します。つまり、「羽織を着るかどうか」は、TPOに合わせて、自己判断です(笑)
※「羽織を着る」というのは「自分をよく見せる行為(包装紙で包むみたいな効果)」なので、「ここはよく見せるべき」というときに着ます。「ジャケット」を羽織るべきかどうかみたいな話なのかもしれません(笑)・・・これについては色々意見があるので、またどこかで。

ここでちょっとややこしいのですが、
東京と大阪で「同じ言葉」を使うのに意味が違うのが「前座」という単語です。

※前座の意味の違い(東京と大阪)

東京では前座は「身分」であり、その身分の人間がする仕事は決まっています。
しかし、大阪では前座というのは「落語会の最初に出演する」という仕事内容の意味だけです。
そして、大阪では、ほぼどんな芸歴であれ、出演者はチラシやパンフに全員名前を載せます。(つまり出演者は全員、料金に含まれているということ)

だいたい、東京ルールの「前座・二つ目」の身分の芸歴ぐらいの人が、大阪では「前座の仕事(落語会の最初の出番)」で雇われます。
そして、その人は当然、楽屋の用事をします。

ですから、よく昔、東京の師匠方は
「二つ目の人には用事をさせちゃあいけないよ」という感覚を持っていますが、大阪に来た時は、

その二つ目ぐらいの芸歴の人が(もっと言えば真打クラスが)東京の前座働きをしてるので、「芸歴15年ぐらいの人」を思いっきり「芸歴3年ぐらいの人」のように思うみたいです(笑)
それに、素人さんでも、大阪の落語家は結構な芸歴でも「東京の前座さん」という感覚になるので、邪険に扱う感じが多かったです。
(今は昔・・・。この頃はそんなことは減りましたが)

また楽屋で「先輩の着物の着付・たたむ」などの用事は、大阪では芸歴何年になろうが、その場で下であれば割とする文化があります。
(芸歴15~20年ぐらいまでは、ほぼごく日常的な風景として存在します)
実は、大阪で「東京の前座の身分ぐらいの芸歴の噺家」を常に雇うのは費用高になってしまうからかもしれません。←寄席がなく、落語会しかなかったので、東京の若手真打ぐらいまでが「前座の用事をしながら、最初の1席」を務めないと、興行的に採算が合わないという現実もあったと思います。
(落語を喋らない若者を1人雇うとそのぶんギャラが余計に発生するからです。前座の用事をして、前座の位置に、二つ目クラスの噺家が1人出ればギャラは1人分で済みます)

★上方ルールと東京との違い

いわば、大阪では下記のようになります。

①「年季中」=「入門後、年季が明けるまで(芸歴2~3年まで)」
・東京の「前座」の身分に近く、仕事内容もほぼ近い。
・ただし、落語会に出演する時には、開演後に出演でき、名前もチラシやパンフに記載される。

②「年季明け」=芸歴2~3年以降に師匠がOKを出した人
身分としては東京の「真打」に近い独立自営業者の資格。
 →好きに仕事を選択して良いです。
・ただし、仕事内容は芸歴10~15年くらいまでは、相変わらず「東京の前座」みたいな仕事をする。
・羽織を着るのは自分の判断です。基本ルールは自分の出番が「トップ(前座の位置)」でなければ着て良いです。
→前座&二つ目の要素と真打の要素をあわせ持つので、「羽織」は自己判断ということです(笑)

「大阪で真打制度を導入しにくい理由」

現状、大阪には真打制度はありませんが、将来できるかもしれません。
今のところ、大阪で真打制度を導入しにくい理由を挙げておきます。

導入できないのは「物理的問題」というよりは、「人間学的な問題」な気はします。

そんな訳で、ここからの内容は有料です…すいません。

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