水辺の活動と安全-小学校体育に関する水辺安全指導について-
2024.7.2
#イベント #インタビュー・対談 #キャンパスライフ #地域のこと
週末の度に水辺での水難事故で亡くなる事故が報道されています。特に川での事故は子どもに限らず、大人も含め多くの方が犠牲になっています。岐阜聖徳学園大学教育学部理科専修、体育専修の学生がNPO法人Safe Kids Japan事業推進マネージャーの吉川 優子先生をお招きし、特別講義を受講しました。学校体育の時間は主にプールで指導することが多いのですが、野外学習をはじめプール以外での指導も考えられます。教員を目指す学生が真剣に耳を傾けました。
「子どもの命を守る」ということ。教科書にも安全指導のページはありますが、学校での教育現場、向かい合う目の前の子どもに思いを寄せて、それを形にしていくようにして欲しい、と今回吉川先生を招聘し、特別講義を計画した本学の稲垣 良介教授の言葉で講義が始まりました。
最後に交わした言葉は、「しゅっちょういってきます」。
2012年7月20日。幼稚園のお泊まり保育に参加した吉川慎之介君。5歳10ヶ月で増水した川で命を落としました。母親である吉川先生と交わした最後の言葉は、父親の真似をした「しゅっちょうへいってきます。」だったとのこと。この無邪気な言葉に、この先のことを予想するこをする余地もありません。お泊まり保育は子どもたちにとって、初めて訪れる場所で初めて親と離れて、大好きなお友達と先生たちと一緒に始めて親と離れて「宿泊する」という大きな挑戦になるはずでした。このお泊り保育は、こどもたちにとって、ここで吉川先生は二つの視点を与えられました。一つは、数字で死を確認することがあります。しかしその数字には、一人ひとり名前があり、その子を亡くした保護者がいることを知って欲しいということ。亡くなった命は、他に代わることのないかけがえのない命であることを私たちは認識しなければならないとスタートから引き込まれた気がします。二つ目は、(数字に関わり)事故で亡くなるという数字は減少傾向にあります。しかし十代の自死は増えています。という言葉。この死がきっかけで、子どもの安全を守るための活動の原動力となっています。「吉川慎之介記念基金」を立ち上げ活動を続けてきた10年間の歩みには悲しみや疑問や怒り、さまざまな気持ちと向き合いながら、水難事故にとどまらず「命」について考えることをご自身も考え、多くの方にその気持ちを広げています。更に言葉を続けられます。元気な子どもが突然亡くなるということ。それは、不運で仕方ない悲しい出来事という言葉で終わることではありません。『繰り返さないで。』『事故は予防できる、予防しよう。』『子どもを守って欲しい。』という亡くなったすべての子どもたちからのメッセージを受け止めて欲しい。これらのメッセージを受け止めれば、自ずとすべきことが見えてきます。
「知ること」が子どもの命を守ることの第一歩
教えて!ドクターー!では「子どもは静かに溺れます」ということが訴えられます。ここでは、幼児期の不慮の事故で2番目に多いのが「溺水」だそうです。溺れるときにもがいてバシャバシャするのは、映画の世界だけですとのことです。呼吸に精一杯で声を出すこともできず、静かに沈んでいくのです。溺れるときにバシャバシャ暴れるとの認識はいかに正しい理解がされていないかの表れです。子どもの命を守るためにはまず「正しく知ること」から始まります。何も知らないということは、言い換えれば、「何も知らないから不安を感じることもない」ということです。これには、経験値や年齢は関係ありません。誰も教えてくれなかった、学ぶ機会が無かったということが問題なのです。正しく知り、正しく恐れることが大切だと考えています。
「『ぼくなんで死んじゃったんだろう』と思っているのは慎之介本人だ」
葬儀の際に父親が発した言葉です。続けて「原因を究明します」とも呼びかけました。これに応えてくれたのが、園児、その保護者です。葬儀での父親の言葉を聞き、現場検証を行ってくれました。幼い園児もどこにいた、慎之介君がどのような動きをしていたか、覚えている範囲のことを話してくれ、それぞれの話を整えました。保護者の方とは現場の水深、活動範囲などの距離を明らかにしていくことを進めました。引率の先生方の動きも整理しました。その中で引率教員の一人担任は、「安全のことは誰も教えてくれなかった」と語ったといいます。確かに現場に出ても、学生時代も実地を交えて学ぶことは皆無なのが現実です。こういった自分たちの動きとは別に、2016年には内閣府や厚生労働省、文部科学省から「事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」や「学校事故対応に関する指針」が示されました。皆が少しずつ問題解決に動き始めていきました。問題を解決するときには、変えられるものと変えられないものを的確に分類し、立ち向かっていくことの大切さです。変えて生きたいものを見つけて、その中から順番に変えられるものを変えていく。安全に対する認識、人員不足、監視体制、活動に必要な知識や情報の収集などを共通する問題と課題ととらえました。消費者庁からのキーワードは「監視に専念」です。そして、万一のときに備えての病院の把握までしておくくらいの準備が必要です。私たちは自然の中に生きていることを忘れてはいけないのです。この川はどこから流れてきているのだろう。どうしたら川と共存できるのだろうと意識することが当たり前になればと思います。
体験活動、その教育的な「ねらい」は何ですか
教員になっていく皆さんには是非心に留めて欲しいことがあります。毎日の学習にもねらいがあります。体験活動にも教育のねらいがあります。大切なことは事故が起こらないようにすることです。何度も繰り返しますが、正しく情報を得ること。その上でねらいを達成するためにどのような準備、配慮が必要なのか綿密な計画を立ててください。今の私なら、ライフジャケットを持たせることも考えられます。実際にライフジャケットも持っていました。しかし、当時は「おねしょしないかなあ」「ちゃんと眠れるかなあ」などの心配をしていました。結果、ライフジャケットを持たせることもしませんでした。ねらいを達成するために環境を整えることも私たちが考えていかなければなりません。今、水難事故防止はスタートラインに立っています。子どもの命を守ろう!その動きは決して一人ではないという意識で進めていけるようになってきました。変わらないと思っていたことが変わり始めています。多くの出会いや様々な制度の整備などが動きを加速してくれることを願っています。
「下見をしていなかった」という言葉に
授業後の学生の言葉の中に、学びの深さを感じることができました。事故のあとの教員の言葉。「下見をしていなかった。事故のない川だから大丈夫だと思った。」これは引率教員として、適切とは言えないのではないか。私たちの就こうとしている職業は、安全に関わる仕事なので、先生が仰る「『これまで危険なことや事故がなかったから。』という理由で安全と判断しない。」という意識をしなければならないと感じました。綿密な下見、計画を大事にしていきたいと考えました。(Iさん) 今日の講義で、水辺の遊びは危険、いろいろ場で事故が起きている、身近な場所も時として危険な場所になるということを改めて認識しました。私が目指す、教員という仕事は、健康や命を守ることが大きな仕事であることを考えさせられました。(Oさん) 情報や知らないことがいかに不幸を招くかを実感しました。事故後の園児、保護者による現場検証はすごく温かみを感じ、印象に残りました。(Iさん)
心身共に健康であることの大切さ
吉川先生の締めくくりの言葉。子どもたちは大人を信頼しています。もちろん体験活動における教師に対しての思いもそうです。私たちが元気で、正しい情報を得て、それに基づいて準備を進めることが、事故を未然に防いで行くことになるのです。
学生の真剣なまなざしと吉川先生の優しいまなざしが対照的な時間でした。我が子を亡くし悲しみに明け暮れるばかりではなく、前に進もうとする吉川さんの生き方。これから教員としてかけがえのない子どもたちの命と向き合っていこうとする学生の学びの姿。吉川さんの体験からの講話がぐいぐいと心に迫るあっという間の時間でした。稲垣教授はこの授業の後、岐阜県内にとどまらず7月18日 一宮市立葉栗小学校4・5・6年生 プール。 7月19日 岐阜市立白山小学校5・6年生 プール。 7月8日 中津川市立付知中学校1年生 川 。8月2日 下呂市立尾崎小学校1・2・3・4・5・6 川とプールにて実践指導の計画があります。講義室にとどまらない学びの機会が豊富なのは本学の特徴の一つでもあります。学生が実感を伴った学びを重ね、現場で力を発揮できるよう学部、専修で計画がなされています。