精神障がいのある当事者・家族の参加型授業(精神看護学領域)を受講しました
2024.8.1
看護学部の精神看護学領域での講義で、精神疾患と向き合う当事者とその生活を支える家族の方のお話を直接伺う特別講義を看護学部2年生が受講しました。これは昨年までの当事者のみの方の参加型授業を発展させ、その家族にまで参加者を広げてお話を伺うことで次世代を担う学生が、「当事者」と共に考えるということができ、 よりよい未来、看護に繋がる可能性があると考え、実施しているものです。厚生労働省の指針にも「精神疾患に対する偏見をなくしていこう」とする内容が掲げられています。本学の「患者と向き合う豊かな看護観をもった看護師養成」の方針を具体化したものです。精神疾患と向き合う当事者ご本人とその家族。本学の学生の学びのために、氏名も病名も明らかにし、時間を割き、語ってくださり貴重な時間を提供してくださった当事者、その家族のみなさんに感謝の気持ちでいっぱいです。
ひとりの人として特別な感情を持たずに接すること(7月15日の当事者参加の授業から)(学生の感想)
今回様々な状況のお話をお聞きして、今病態治療学で学んでる医師から見た精神疾患と患者から見た精神疾患を重ね合わせることができました。特に印象に残 ったのは「症状が出て逆に安心した」「社会に出られるのは、不安よりも嬉しさの方が大きかった」とおっしゃっていたことで、自分がとらえていた精神疾患とは大きく異なる発言だったので、これからの学びの参考にしたいと思いました。(学生Aさん)
当事者の方々にお話を聴ける機会は滅多にないので、この機会を設けていただけてよかったなと思いました。精神疾患をうけている方と接する時は、ひとりの人として、特別な感情をもたずに接することが大切なのだと学びました。 お話で聴いたことを整理、吸収し、今後の学びに活かしていきたいと思いました。(学生Bさん)
3名の方にお話を伺って交流会の中でも話にあったけれど、どの方も相手(医療者、家族など)から健常者のように普通に接して欲しいという思いを聞きました。私は看護する上での「ケアの対象者」という考えが強く、 守らなければいけない存在であり、それを理解した上で接するべきだと考えていました。今日の話を聞いて、「ひとりの人間」として接していくべきであると気づくことができました。本当に貴重な話が聞けて深い学びになりました。(学生Cさん)
普通の人と同じように、ひとりの人間として尊重して欲しいという言葉が印象に残りました。確かに、精神疾患をうけた方も、疾患が目にしずらい部分に発症してしまっているだけで、何ら他の人と変わりがないのだと改めて感じることができました。一人の方が、「看護に求めることは何か」の質問に対し、疑問に持っていたことから 、私たちも精神疾患の方に何か特別なことをしなくては、という偏見があるのではないのかなと考えました。今日の話を聞いて、精神疾患の方の思いを知ることができ、今後の学びや実習に活かしたいと考えています。(学生Dさん)
学生それぞれが、自分の看護観の中で精神疾患を受けた方をどのように受け止め、どのように寄り添っていくのか、考える機会ができました。多くの学生の中に「一人の人間として」という言葉が出てきました。この考えは偏見や差別を無くしていくことにつながっていくと捉えることができます。この時期に教科書からは学べない貴重な「言葉」による学びができたことは今後の大きな力になっていくと期待できます。
第二回めの講義はこの疾患を受けた当事者の方を支える家族の方のお話で、学生からの質問に応えるかたちで進められました。竹内陽子准教授からは、「多くは精神看護学を座学で学びますが、今日は当事者と学生が対話しながら学ぶ貴重な学びの時間です。家族看護という視点からも大いに学んでいきたいと思います。」と3名の当事者を支える家族の方のお話が始まりました。
統合失調症という病気について・・・どのように罹患していったか、どのような症状だったか・・・支援のはじまり
一人ひとり発症のきっかけも症状も異なります。もちろんその後の治療方針や治療期間など、また家族の心持ちもさまざまです。家族の方の話に真剣に耳を傾け熱心にメモをとる姿が見られました。心に留めなければならない言葉が当事者の家族の方からはたくさん出てきました。教科書だけでは分からないことが一人ひとりの学びになっていきます。学生からの質問に応えていただくかたちでどんどん話が進んでいきました。当事者を支える家族の方の体験からの生々しい言葉が学生の心をぐいぐい刺激してきます。
日頃うれしかったことや大変だったことはどんなことですか
「感情の起伏が緩やかになったことがうれしかったです。犬に吠えられても喜んでいました。吠えた犬を見て、自分の飼っていた犬に似てるね、と感情が出てきたことに思わずほっとしました。」という発言。「うれしかったことはあまり印象に残っていませんが、薬が減ってきたときはその都度、「ここまで減ってきたね」と言えました。声を出して笑ってくれたときは本当にうれしかったです。誰も病気になりたいと思って生きてはいないのです。大変だったことはありすぎて・・・・一生懸命理解しようと努力しますが難しくて」と本音が吐露されました。また、「いろいろなことができなくなってきてがっかりしたり、またできるようになったりの繰り返しです。病院にしか出られなかったのに地元の祭りに孫と一緒に行けたこと、人が近づいてきても気にならなかったこと、部屋でしか食事ができなかったのがマスクをとってリビングで食べらるようになったこと。1ミリずつよくなっていく。「ちょっと待ってね」は30分、長いときは4、5時間待つことが当たり前になっていきました。」という自分たちの生活とはかけ離れた様子を知ることができました。
現在の支援制度のデメリットはどんなことですか
「支援にはたくさんのパターンがあります。デメリットにはならないと思います。イタリアにはこんな例もあります。バザーリア法(バザリア法)とう法律がもう45年前からあります。「イタリアから精神病院をなくそう」というものです。実際にローマにあった最大の精神病院は「精神病院博物館」になっています。日本では急性期には症状によっては、閉鎖病棟への入院をします。閉鎖病棟の様子は健常者でも病気になりそうな環境です。病気がひどくならないのは、入院患者が病気だからです。『自由こそ治療』という言葉もあります。日本の厚生行政は、投薬による治療を考えています。薬を与えさえすればよいという考え方は改めないといけないです。」お子さんを福祉事業所に通わせていらっしゃる方からは「子どもは外に出ると『よい子』を演じることもできます。『おはようございます』を発してもスタッフも事業者も返事をくれなとい悲しいです。無視されていると感じてしまいます。支援施設の事業所なのでそれなりの立場の人は、当たり前のことができるようになって欲しいです。」と期待を込めた言葉もいただきました。
こんな支援があったらいいなあ、と思うことはありますか
「事業所では『ものをつくる仕事』を通して自立を支援してくれます。子どもは自分以外のものには触れることができません。在宅で自分のコンピュータを使ってできる仕事があるといいなあと考えています。」竹内准教授からは「在宅でできる仕事の開発、制度化なども含めて若い皆さんが今後考えていけると今日の学びが生きていきます。」との補足が。「父母が前を向いて歩けない。『後ろ指を指す』日本人の風土をなくさないといけない。これは国をあげて、政府が中心となって考えていかなければならないことです。それがないと、偏見や差別はなくならないのです。」と厳しい発言もありました。
症状が出る前後で家族の方にどのような生活の変化が生じましたか
「当然生活は変わります。どんな病気でも誰かが病院に入れば、面会に行くという生活パターンになります。手がとられます。病人一人につきサポーターが二人は必要になってきます。」「生活にはあらゆる制限が出てきます。『生き辛さ』さえ感じました。精神疾病について子どもも私も無知でした。冗談でも人に対して傷つけるようなことは言ってはいけない。人に対する接し方は大きく変わりました。このことは本人も勉強になったと話しています。」病気を支えながらも「発症後も深く考えずに地域でも顔を背けず歩き、ふつうに買い物にも行きました。ただ、セーラー服の子を見ると涙が出ました。気持ちの変化が子どもに伝わらないようにできるだけ自然に過ごすようにしました。」という生き方をされている家族の方もいらっしゃいます。
さまざまな変化の中で困難をどのように乗り越えようとされましたか
「子どもは5ヶ月の入院で腑抜けになって帰ってきました。普通に会話ができるようにはなかなか戻りませんでした。私が神様から試されているとさえ思っていました。感謝とほめることを心がけました。『ありがとう』と礼を言い、皮肉は言わない。ネガティブワードは使わないなど、私なりの方法で接してきました。」
積極的に当事者から学ぼうとした学生・・・事後の感想には学びの足跡がいっぱいです
精神疾患を受けたお子さんを持つ家族の方々。我が子の行動が変わっていく様子や通院や入院の際の話を聞いて、変わっていく様子や第三者として見る看護師・医師との関係から大切な人だからこそどうにかしてあげたいと思って関わりたいのに他人から流れ作業のように扱われていたりするとより辛いと感じるのだと学びました。どう看護していけばいいのかや患者さんとどう関わっていかなければならないのかをその人に合わせて探していかなければならないのだと思いました。(学生Aさん)
入院の実態や当事者の家族の気持ちを少しでも知ることができ、すごく勉強になりました。印象に残た言葉として家族が発症すると、私ならネガティブにとらえてしまいがちですが病気を知るきっかけになり勉強になったとか、冗談でも人にひどいことを言ってはいけないなど人との接し方が変わったとおっしゃっており、病気を受け止めてポジティブにとらえている姿がすごく素敵だと感じました。当事者の家族の方のことも含めた接し方について今一度考えていきたいです。(学生Bさん)
なかなかよい医師や病院に巡り会えない、医師の対応がよくなかったというような話をうかがい、ちょっと悲しくなりました。本当は医療従事者がしっかりその患者を理解して治療に当たらなければならないのに、それができないのはよくないことだと思いました。相手を理解してその人に合った対応をするということが大切だと思いました。また、竹内先生がいつもおっしゃっている「褒める」ということがキーワードとして出てきたので、このことを忘れないように患者さんと関わりたいと気持ちを新たにしました。(学生Cさん)
精神疾患について理解していたつもりでしたが、お話を伺うことで実際は全く理解できていなかったのだと感じました。また、同じ病気であってもそれぞれ違いがあり、一人ひとりに合わせた看護が必要であるということを実感しました。精神科や閉鎖病棟の実態についてご家族の視点から知ることができ、医療が発達していると言われている今でもまだ課題がたくさんあるのだと気づきました。(学生Dさん)
今回の講義で家族は入院に対する抵抗感が強いということが分かりました。入院をすれば患者本人が苦痛に感じ、家族も次は入院させたくないと考えてしまうことがあると再認識できました。 看護師が家族から入院に対する不安を聞くことも大切だし、家族と患者の絆を理解し、医療職には出来ないコミュニケーションをさせていかなければならないと思いました。少しずつでもできることが増えていく、薬の量が減る、声を出して楽しそうに笑う、一緒にご飯が食べられるようになるということ。 家族だからこそ日常生活の異変に気づいて、いつも一緒にいたから分かることに目を向けることが必要と感じました。どんな病気でも、家族が寄り添う、そして理解をすることが患者にはとても最善の支援になるのだと考えました。(学生Eさん)
教科書やふだんの講義では学べない内容にふれた2回の特別講義。当事者・家族の参加型授業を取り入れることで、この先臨床に出る学生が大きな刺激を受けたことは確かです。学んだ内容、身につけた力は目に見えたり、すぐに現れたりはしないと思いますが、実習など具体の場で広がった看護観などが発揮されることと期待しています。学生の成長をさせてくださった当事者の方、その家族の方には感謝の気持ちでいっぱいです。