2021年の顔といえば、個人的にはこのJapanese BreakfastことMichelle Zaunerで間違いない。去年もBUMPER名義として作品をリリースしていたりと名前自体は絶え間なく聞く機会があるけど、今年は彼女にとってあらゆる方面で花開いた一年なんじゃないかと思う。韓国系アメリカ人としての半生を綴った私小説「Crying In H Mart」もザ・ニューヨーク・タイムズが選ぶベストセラーとなり、今作以外にもビデオゲーム「Sable」にサントラを提供したりと話題に事欠かなかった。「Jubilee(祝祭)」というタイトルがつけられた今作は最愛の母を失った悲しみから一歩前進した彼女の姿がうかがえる。リード・シングル「Be Sweet」は一際に輝くポップソング。
Hip-hopやRapを聴かない人々が聴くラッパーの代表格として挙げられると言ってもいいのではないだろうか。もはや説明不要のTyler, the Creatorの最新アルバムはキャリアを包括するような充実の内容。近作の「Flower Boy」や「IGOR」はタイラーのポップ・センスを全面に押し出した作品で自分もそこを間口として彼のファンになっていったが、今作はその流れを引き継ぎつつも、初期のHip-hop的なテイストも色濃い。メロウな曲の直後に暴力的なサウンドが投下されたりと、アルバムを聴いていると次は何が来るんだろうか…というワクワク感が常にある。このワクワク感を出せるアーティストというのは数少ないと思っているので、Tyler, the Creatorは自分にとって特別な存在なんだと思う。
意外なところで今年よく聴いていたのがこのフランスのパリのニュー・ウェイブ・バンド La Femme。ジャンルも横断して内容もカオスな感じだけど、このパーティ感をずっとキープしながら楽しく聴ける作品って最近あまり聴いていなかったかも。英米でロックバンドをやると嫌でもシーンのトレンドや現在っぽさというの意識せざるを得ない状況(もしくはそういう評価軸に組み込まれる)なのかもしれないけど、このLa Femmeから同時代性というのをあまり感じないのは拠点がフランスで自由気ままにできているからなのではと思ったり。
4位 「Any Shape You Take」- Indigo De Souza
オルタナティブ・ロックとかティーンエイジャーがキーワードとなる作品は手に取らないことの方が多いけど、それを上回るエモーショナルにやられてしまった。Indigo De Souzaはアメリカ North Carolinaの女性SSWのソロ・プロジェクト。アルバム・カバーにも通ずるところがあるけど、彼女の死生観というか感傷的な面が包み隠さず作品に投影されている印象を受ける。"I'd rather die than see you cry"や"Kill me"がアルバムを聴いて頭に残る歌詞だ。そういった若さゆえの不安やリアルな感情が作品を通して痛切に伝わった。少し蛇足だけど、オープニング・トラックのオートチューンが印象的な「17」もライブだとオルタナアレンジで演奏していたり彼女の核となる部分はそこにあるのだろうけど、「Ivy」のカバーもやっていたり彼女もFrank Oceanの「Blonde」がFavoriteなんだろうなと勝手に親近感が湧いている。
3位 「An Overview On Phenomenal Nature」- Cassandra Jenkins
「An Overview On Phenomenal Nature(驚異的な自然の概要)」とアルバム・タイトルが付けられた本作は、ツアー・メンバーの突然の死の喪失感が発端となって製作された。ツアー・キャンセルで空いた時間で彼女はノルウェーへの旅路についたという。その時の回想は「Ambiguous Norway」で触れられている。自然との交わりや他者との対話がモチーフとなっており、アルバムを覆う全体のムードもアンビエントな立体的な音のアプローチがとられている。随所随所にサックスの音の加えることで聴いている方も退屈させず、幻想的な雰囲気を作り出している。PitchfolkのBest New Musicにも選ばれた「Hard Drive」がその最たる例で重層的に奏でられる音の美しさに何度聴いてもうっとりしてしまう。