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6. Memory Lane (Sittin' in da Park)
Track 6
Memory Lane (Sittin' in da Park)
まえおき
外れ曲がない名アルバムの6曲目「Memory Lane」も、もちろん最高の曲です。今作がアルバムの中で一番好きだと思うファンも多く存在するぐらいであり、疑う余地も無いほどの名曲です。
タイトルの「Memory Lane」は基本的に「記憶の道」のような意味を持っており、大まかに言ってNASが育った環境や状況を思い出に浸りながらラップをしていくという内容である。NASほどのラッパーになると単純に青春時代を歌うだけではなく、過酷なクイーンズで育ったおかげなのか「子供ながらになぜここまで大人顔負けの思想をもっているのか?」という疑問に答えてくれるほど濃い記憶と思い出を披露してくれている。
ビートは大御所のDJ Premierが手掛けているが、ルーベン・ウィルソンの「We’re in Love」という曲をサンプリングしていて、かなり落ち着いた渋めのビートであり、記憶の道をたどってラップしてくれているNASのリリックにもかなりマッチしていて心地よさが倍増する作りになっている。
XXLのインタビューでDJ Premierが経緯を語っていたが、ビートのサンプリング元を探している時に「We’re in Love」を聴いたNASが「これだ!これでビートを作ってくれ!」と述べたらしく、プリモは乗り気ではなかったけどNASに頼まれたからしかたなく作って出来たのが今回のビートらしい。本人は納得行ってないかもしれないが、私を含め、多数のファン達は十分過ぎるほど魅了させてくれた曲なのは間違いない。
それではNASの思い出に浸りながら解説に入って行こう。
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Intro
原文:
Alght, fuck that shit! Word, word
Fuck that other shit, y’know what I’m sayin’?
We gonna do a lil somthin’ like this
Y’know what I’m sayin’?
(Stay up on that shit)
Keep it on and on and on and on and
Know’m sayin’? Big Nas
Grand Wizard, God, what is it?
(its like…) Haha, you know what I’m sayin’?
Yo, go ahead and rip that shit, dun!
直訳:
わかったよ、そんなもんは放っておけ!マジで、マジで
その他の物もクソくらえだ!わかるよな?
俺らは軽くこんな感じでやっていくぜ
俺が言ってる事わかるよな?
(常に頂点に居続けろ)
ずっと継続させていくぜ
わかるよな?ビッグ・ナズだ
グランドウィザードだ、そして神だ、文句あるか?
(まるで…)はは、俺が言ってる事わかるか?
おい、そんな物破いちゃっていいぞ!兄弟!
解説:
ここは良くあるバースが始まるまでの間の下準備段階であり、ラップしているわけではなく語り口調で様々な発言を投げかけている感じだ。もちろん曲全体の土台を構築しながら聴き手にも準備をさせる役割も果たす。しかし、こういうイントロ部分もかなり面白く、当時のNYでどんなノリで話してたかがわかる。念の為言っておくが、アメリカでも地域によって訛りがあるのはもちろんだが、さらに人種によっても訛りや話し方、独特のスラングなども存在する。他人種が混在するアメリカ。その中でもNYは特に混在しているが、そんな中でやはり良く真似されるのが黒人の話し方なのだ。アメリカ人なら誰でも見た事もある現象として「黒人に憧れるフェーズ」が存在する。これは小、中、高と成長していく上で黒人と別の人種が黒人の話し方、ファッション、振る舞い方などを真似たがる子供が多くなる現象である。
この「黒人への憧れ」は様々な映画を観ても見かける事が出来る物なので、映画や海外ドラマを見ている時に注意深く観て頂きたい。一つ例を挙げるなら、私が個人的に海外ドラマの中で歴史上一番素晴らしいと思っている「Breaking Bad(ブレイキング・バッド)」の主人公の一人、ジェシー・ピンクマンは凄く良い例だ。ファッションだけでなく、話し方にも明らかに黒人への憧れがあるキャラクターだ。
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長くなったが、上記の観点でこのイントロを聴いても面白いと個人的に思うし、当時のストリートからのリスペクトを受けているNASの話し方なので参考にするにはもってこいなのである。
イントロの中で特に目立つ部分と言えば「We gonna do a lil somthin’ like this (俺らは軽くこんな感じでやっていくぜ)」が伝説的ラッパーSlick Rick(スリック・リック)の「La Di Da Di(ラディダディ)」でも使われているリリックであり、彼に対するリスペクトをこめてオマージュしているのと、「on and」を連呼するのが特徴的である「Keep it on and on and on and on and(ずっと継続させていくぜ)」という部分はネイティブ・タンとも関わりのあった人気トリオのBrand Nubian(ブランド・ヌビアン)の「Step to the Rear (ステップ・トゥ・ザ・リア)」でも使われていて、同じくオマージュを送っている可能性が高い。
ざっくり言えばこのイントロでは話し口調で自己紹介をしている感じでもあるのだが「Grand Wizard, God, what is it? (グランドウィザードだ、そして神だ、文句あるか?)」も個人的な意見として、黒人の厨二病的な発想が光ってる所が好きで、自分の事を「Grand Wizard(最高級の魔術師)」に例えているのが面白い。「God(神)」の部分は当時の様々なラッパーのリリックの中で出てくるファイブパーセント・ネイションの、「黒人は神様の末裔である」という思想が入っており、当時のNYの黒人達で互いの事を「God」と呼び合っていた人が多かった。
最後に「dun!(兄弟!)」という単語なのだが、これはNAS達の友達の中に舌足らずな奴がいて、本当はお互いを呼び合う時に使う「Son」と言いたいのに、そいつが言うと「Dun」になってしまうのが面白くて、クィーンズ周辺に生きるNAS達によって生み出されたスラングであり、使う事によって地元をレペゼンしている感じだ。ちなみに「Son」は直訳してしまうと「息子」だが、ニュアンス的には親友とか絆が強い人達に使う「兄弟」の方が近い。
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Verse 1
原文:
I rap for listeners, blunt heads, fly ladies and prisoners
Hennessy-holders and old-school nig*as then I be dissin’ a
Unofficial that smoke Woolie Thai
I dropped out of Cooley High, gassed up by a cokehead cutie pie
直訳:
俺はリスナーやブラントヘッズ、イケてる女性、そして収監者達の為にラップをしている
ヘネシー持ちやオールドスクールの黒人達の為にもな。その反面俺は、
ウーリータイを吸う様な偽物野郎をディスる
俺はコークヘッドの可愛い女にガスまみれにされてクーリー・ハイから中退しちゃったよ
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