3. Life's a Bitch 徹底解説
Track.3
Life’s a Bitch
※今回からちょっとずつ公開していきます。
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まえおき
今作の落ち着いた心地よいビートを手掛けているのはL.E.Sというプロデューサーだ。今作がL.E.Sの代表作ではあるものの、他にもMobb Deep、 LL Cool J、 Big Pun、 Fat Joeなど、多数の大物ラッパーにも多くのビートを提供している事で知られている。このビートでもわかるように非常にスキルのある持ち主だが、その名前があまり知られていないのが残念だ(もっと知られるべき)。ちなみにL.E.Sもクイーンズ出身って事でNASと繋がっている。
曲の最後ではNASの父でありジャズ演奏者であるOlu Daraの心地よいトランペットソロで終わることでも知られていて、デビューアルバムから早速親子で共演しているあたり、家族愛を感じれて個人的にはじんわりと心を滲ませる。
アルバムのイントロである「The Genesis」で話相手になってるラッパー、AZも参加しており、実はこの曲がAZのデビュー曲でもある。しかし、デビューながらHipHopの長い歴史の中でもトップレベルの客演バースとして知られており、聞く人や媒体によっては「史上最高の客演バース」として挙げられる事も多いほどである。
タレントに溢れた今作のタイトル「Life’s a Bitch」は直訳すると「人生はビッチだ」なのだが、これには色んなニュアンスが含まれている。まず、「ビッチ」という単語の直訳は「メス犬」であり、最初は女性を蔑むスラングとして使われるのが最も一般的だったが、次第にただの女性ではなく「めんどくさい女性」、「イライラさせる女性」という意味に発展し、さらには女性だけでなく男性に対しても「女々しい男」や「めんどくせえ奴」を通過して、最終的には「めんどくさい物や状況」まで辿り着いたスラングだ。
今回のタイトルでは「人生は酷でめんどくさい物だ」や、文字通り「人生はめんどくさい女のようなもんだ」などと上記の全てが盛り込まれていて、危険地帯だったクイーンズで育った若きNASとAZが人生に感じる「ビッチな所」を歌ってくれている。
外れ無しのこのアルバムの中でも、この曲が一番好きというファンも多い。
それでは早速解説に入っていこう。
Intro (NAS and AZ)
原文:
Ayo, what’s up, what’s up?
Let’s keep it real, son, count this money
You know what I’m saying? Yeah, yeah,
直訳:
よう、元気か?ああ、元気さ
自分を見失うなよ、この現金を数えるぞ
わかるだろ?ああ、わかるさ
解説:
NASとAZの会話から始まるイントロ部分、これはアルバムのイントロのThe Genesisの雰囲気を引きついていて、相変わらず現金を数えてる様子が伺える。
途中の「Keep it real」というフレーズは直訳すると「本物のままでいようぜ」という意味だが、スラング的には「自分らしく生きろ」や「自分を見失うな」、「嘘を付くような偽物野郎になるな」的なニュアンスであり、今回もその全てがごちゃ混ぜになった状態の感じで受け止めていい。最初の「what’s up」から伺うに、どっちかが部屋に入ってきた所から会話が始まっていて、当時のNYでは良くお互いに忠告する意味で口癖のように「keep it real」を使い合ってたのだ。それ故、「You know what I’m saying(わかるだろ?)」という言葉に続き、これも口癖のように使っており、ここまでが仲間と会った時の挨拶のような流れである。
彼らは普段からこういう感じで話している。
原文:
Ayo, put the Grants over there in the safe
You know what I’m saying?
直訳:
おい、グラントはあそこの金庫に入れておけよ
わかるだろ?
解説:
ここでもアルバムのイントロThe Genesis での下りを続けているが、「Grant」はGenesisの解説でも書いた通り「50ドル札」の事を指すスラングだ。これもそのイントロの解説でも書いた事だが、アメリカはカード決済社会なので普段から大きい額の紙幣を持つ人が少なく、コンビニなどで100ドル札で支払うと怪しまれるぐらいだ。だが、売人の世界は現金主義であるため、使いにくい100ドル札よりも20ドル札を重宝する。そして薬物などを仕入れる時は大金が動くので、その時の為に50ドル札以上使わずに金庫に貯めているのだ。
ここではそういった意識が入っているリリックであり、当時のNYで生きる犯罪者たちにとっては当たり前の事だったが、アメリカの中でもNY以外の安全な地域などにとっては当たり前ではないからこういう会話を入れている感じだ。
原文:
Cause we spendin’ these Jacksons
The Washingtons go to wifey, you know how that go
直訳:
なぜなら俺らはこのジャクソン達は使うからな
そしてワシントン達は奥さんに流れる、その辺はわかるだろ?
解説:
ここでも紙幣に乗ってる大統領で呼ぶスラングが飛び交うが、まず「Jacksons」は「20ドル札」であり「Washingtons」は「1ドル札」である。
以前の解説でも書いた通りだが、20ドル札は街とかでも使いやすい紙幣であり、アメリカで生活していれば良く見かける紙幣だ。使っても怪しまれない最高額の紙幣がこの20ドル札なので売人は特に重宝してた。良く映画とかでも見るが、輪ゴムで丸くまとめてる紙幣は大体20ドル札をまとめたヤツだ。
次の1ドル札は奥さんに流れる部分が面白い。「その辺はわかるだろ?」というリリックに全てが詰まってるが、ここでは色んな意味が込められてる。
まず「お金を渡さないと怒られるしうるさいから渡すけど1ドルでいいでしょ、めっちゃ稼いでるのは内緒な」というお互いに対する暗黙のルール的な事を言ってる。これは日本でもある、「奥さんは怖い」という意識が入ってる。
次に、「奥さんの面倒もなきゃな!」という意識も入っており、ちゃんと男としての責任も果たさなきゃという硬派な気持ちも入ってる。
ざっくりいって「男らしさ」を表してる部分だ。まあ、結婚してたり彼女がいる男なら、「わかるだろ?」
原文:
I’m sayin’ that’s what this is all about, right?
Clothes, bankrolls, and hoes
直訳:
結局それが全てだろ?って普段から言ってんだよ俺は
洋服と、資金と、娼婦達ってな
解説:
「結局それが全て」の部分はこの曲のタイトルにも入ってる「人生」について語っており、結局NASやAZなどのクイーンズに生きる黒人達にとって、それが全てだし、それで成り立ってると言ってる感じだ。その、何で成り立ってるかを次のラインで述べてる。
洋服の部分だが、以前も書いたように黒人達は貧しい家庭が多かったので他人に「俺は貧しくない」事を見せるのに執着してる人が多く、他の人種に比べて見栄を張ってしまう人がどうしても多い。そのメンタリティーの元、高価なアクセサリーなどを付けたりスニーカーを常に新品かと思わせるために磨いたり、ニューエラのキャップのステッカーも外さないのだ。さらに言えば、逆に着飾ってないとナメられてしまう事もある。
売人としての服、ストリートでの服、パーティーに参加する時の服、教会に行く時の服ですら、他人種に比べて独特なセンスを披露する事もテレビや映画などで良く見ると思うし、もうご存じの人も多い事だろう。
資金については言うまでもなく、そのまま「世の中は金だ」的な意識である。しかし、ここは売人の世界は現金主義って所ともリンクしている。なぜ現金主義かは色んな理由があるが、一番わかりやすいのが銀行口座にお金を入れたりカード会社を通したりすると政府に持ってるお金がバレるため税金を取られるだけでなく、犯罪行為をしている事がバレるからである。要は、隠しやすいのが現金という事だ。
娼婦達の部分では、女性を蔑む言葉を使ってはいるが、ここでは一般的に「女」というニュアンスとして使っている。女性を蔑む言葉を使う事によって見栄を張ってる感覚は黒人だけでなく、やんちゃな日本人にもあるものだ。硬派な男だという事を示したくて強がってる感じだ。
さらに、女性と遊ぶ事も人生にとって優先順位が高い事も示しているのは言うまでもない。要は、モテたくてやってる部分も多い事を認めてるが、これはどの人種の男にある感情であり、「モテるために」という動機の元で部活をしたりバンドを始めたりする人も多いことは言うまでもなく、ここでもそういった要素を入れ込んでいる。NASもAZもあくまでも「NYに生きる一人の黒人」であるスタンスの元で歌っている事がこういう細かい所で伺える。
原文:
You know what I’m sayin?
Yo, then what, man, what?
直訳:
言ってる事わかるよな?
それで、その後は何がある?なあ?
解説:
最初の「言ってる事わかるよな?」は相槌だが、ここでは自身の本気度を伝えたい感じで使っている。
続く言葉が結構深く、NASはリリース当時20歳だったが、普通の20歳なら服と金と女の欲望を満たすだけで満足だが、NASとAZはその先をすでに見ているのだ。
これは服もお金も女も、手に入れる前から見えてると捉える事も、手に入れた後だからこそ先を見てる様にも捉える事ができる所がまた素晴らしい。
そして、この曲のタイトルのテーマである「人生はビッチだ」というコンセプトを始めるにはこれ以上のないイントロとしても成り立ってて、相変わらず非の打ちどころがなさすぎる。
Verse 1 (AZ)
原文:
Visualizin’ the realism of life in actuality
Fuck who’s the baddest, a person’s status depends on salary
直訳:
俺は実際に人生の現実性を視覚化し続けてる
誰が一番イケてるかとかクソ食らえだ、人の価値は給料で決まる
解説:
HipHop史上トップレベルの客演としても知られているAZのバースから開始。いきなり披露する深いリリックに聴き手は開始早々一気に引き込まれてしまう。
最初のラインは簡単に言って「人生をちゃんと現実として捉え、それを意識しながら生きている」事をお洒落に歌ってるが、もちろん深い意味が混ざってる。
まず、危ない地域であるクイーンズで育つAZは若いながらも濃厚な人生を送っており、温い環境で育った普通の20代とは比べ物にならない経験を経ている。これはリリックでも感じれるが、クイーンズを知っている人なら尚更わかる事である。
そんな濃厚な人生を生きてきたAZから見た「人生が何かを」を伝えたい感じだ。
次に、「Visualizin’(視覚化)」という単語に深みを持たせていて、人生は結局「自身の目で見る事しか出来ない」事や「自身で明確にしていく必要がある」事を示唆していて、人々は結局「自身で人生を形成する必要がある」し「自身が思い描いた通りにしかならない」事を教授してくれている。
続くラインではAZが何を見てるかを表現してくれている。ここでも歳相応の考え方でない事が伺えるが「誰れがよりカッコいいかとか関係ない、結局世の中は金でステータスが決まる」という考えに辿り着いている事を伝えてくれている。「お金」を「給料」という単語で表現してる所がお洒落ポイントでもある。
シンプルに「結局世の中は金」という事に気付いた事をアピールしてるリリース当時21歳のAZのこのリリックが若さゆえの浅はかさか?若さとは裏腹の深さなのか?その判断は読者に任せる。
なぜこの結論に至ったかをクイーンズで育ったAZの頭の中を憶測で少し除いてみよう。彼も売人として生きた事があるのは知られている事ではあるが、仮にそれが嘘でも、絶対に売人の生き方を第一線で目撃はしている。それぐらいクイーンズでは日常茶飯事なのだ。撃たれて亡くなる人だったり、薬物のODで亡くなる人だったり、薬物がらみで逮捕されてしまう人だったり、カツアゲをされる人だったり、銃だったり…、日本では想像も付かないような物事や出来事を当たり前の様に目撃と体験をする環境のもとに育つ人は嫌でも精神的成長速度が速い事は容易に想像できるであろう。そして「お金があれば解決できるのに」という考えはほとんどの人なら持った事あると思うが、AZの場合「あの人はお金があれば死ななかったのに」などと、お金の有無が生死に関わってしまう場面も多く見ているのだ。
もちろんAZやクイーンズに育つアメリカ人だけでなく、アメリカ中の危険な地域で育ってる人なら同じような体験をしてるし、やっぱり家賃が安い関係で割合的に黒人達がそういう街で生活をせざるを得ない状況に陥る人が多いのだ。
こういう環境が当たり前の黒人のカルチャーがあるからこそ「メイクマネーの精神」が強く、ブリンブリンのチェーンをあれだけ身に着けるのは「貧しかった時期からの脱出の象徴」として持つ人も多いのだ。
もう一度問う。AZが「世の中は結局金だ」と言ったとき、それは若さゆえの浅はかな考えなのか?若さとは裏腹の、的を得た真髄なのか?その判断は任せる。
原文:
And my mentality is money-orientated
I’m destined to live the dream for all my peeps who never made it
直訳:
そして俺の意識は現金に向けられてる
俺は辿り着くことが出来なかった仲間達の為にも夢を実現させる事が運命なんだ
解説:
ここでの最初のラインは以前のリリックから続いていて、常にお金をどう稼ぐかを意識して生きている事をお洒落な言い回しで示している。なぜお金を稼ぐ事が優先順位でトップに位置するのか?次のラインでそのメンタリティーを少し示してくれている。
危険な地域であるクイーンズで生き抜く黒人達にとって、最大の目標がお金を稼いでその地域から抜け出す事。自分の一軒家を立てて、子供たちを安全な地域で育て、自身も命を落とす心配をしないで良い地域で人生を過ごしたいと思うのは当たり前の事である。そんな地域から抜け出そうとお金を稼ごうにも、そもそもそういった地域で育った黒人達は教育を受けるお金が無い為「普通の仕事」に就職するのも困難だという悪循環に陥っていた為、稼ごうとしたら自然と犯罪に手を染めるしかなくなるのだ。その中でも手っ取り早い仕事が薬物の売人なのである。薬物の売人は金を稼ぐが商売敵と警察や政府との闘いを強いられて行きつく先は刑務所か死。買う側は薬物依存という奈落に落とされる。どちらにせよ最悪な状況に辿り着くのがゲトーやフッドに生きる黒人達の「当たり前」になってしまったのだ。
ここでは正にその問題が見え隠れしてて、そんな過酷な状況から抜け出すために犯罪に手を染めて捕まったか亡くなった仲間達の分、自身が夢を叶える必要があるんだ!という強い志がこもっているのだ。そして、繰り返しにはなるが、抜け出すためにもっとも手っ取り早い方法がお金を稼ぐことである。
このループが正に悪循環であり、タイトルである「Life’s a Bitch(人生は酷な奴だ)」に込められた様々な要素のうちの一つだ。
原文:
‘Cause yeah, we were beginners in the hood as Five Percenters
But somethin’ must’ve got in us, ‘cause all of us turned to sinners
直訳:
なぜなら、俺らはフッドの中で生きるファイブパーセンターズであり創始者だったんだ
でも俺らの中に何かが入ってしまったに違いない、なぜなら俺らは罪人になってしまったからだ
解説:
最初のラインで重要なのは何といっても「Five Percenters(ファイブパーセンターズ)」の部分であり、ここをわかってないと元も子もない。
詳細に入り込むと太い本が描けてしまうほどの情報量になってしまうため、敢えてざっくり書くが、Five Percenterとは「Five Percent Nation(ファイブパーセントネーション)」という民族主義的な思想を持つ団体であり、ざっくり言えば黒人こそが地球に生きる全ての人種の始まりであり、黒人は神の末裔であると信じている団体である。
なぜ5パーセントなのかというと、全人類の中で15パーセントの人々は人類の起源の真実を知っているが、そのうちの10パーセントの人々は真実を知らない85パーセントの人類から真実を隠すことを目的に生きていて、真実を知る内の残りの5パーセントは全人類に真実を教える事を志す人達だという所から来ている。
この民族主義団体の正式名称は「Nation of Gods and Earths(神と地球の民族)」であるが、上記の経緯を経て「Five Percent Nation」として知られるようになったのだ。
この思想は当時特にNYに生きる黒人のコミュニティーで流行ってたイスラム教から発展したもので1964年にNYのハーレムで設立された。NYに生きる黒人は一度は耳にするほど人気の思想であり、AZ達も先輩たちから教えられた口だ。その思想が植え付けられた黒人達によって作られたHipHopが盛り上がったことによって世界的にもこのFive Percent Nationの思想も認知されるようになったという話である。
ここでの最初のラインは上記の事を理解した上で直訳通りであり「俺らは人類の起源を知る黒人としてフッドに生きている」という意識と黒人としての誇りを示してくれている。もちろんフッドはAZ達が育った黒人カルチャーが多く含まれている地域の事を指している。
次のラインではAZがしっかり現実も見えてる事を示してくれてるが、黒人が誇り高い人種だという想いはあるものの、貧しい地域に住むことによってその誇りを重んじる黒人が少なくなっていって罪人しか残らなかったと嘆いている。ここで重要なのは「俺らの中に何かが入ってしまったに違いない」の部分。黒人が罪深き人種になってしまった事を認めつつも、その原因は必ずしも黒人に無いと思ってる事が伺える。少なくともAZはそう思ってそうだ。
このリリックを元に予想出来る考えとして、まず貧しい事が罪人にした原因の一つだと認識しているのは明らかだ。ここまでのリリックで「世の中はお金」だという事を示した上、なぜお金を求めるのかまで説明してくれたほどだ。
じゃあなぜ貧しいのか?その原因こそAZがここで向き合ってる部分なのだ。答えは明確だが、もちろんアメリカ政府が原因だという事を示したいリリックなのは間違いない。少なくとも私はそう解釈した。
なので、ここでは「誇り高き黒人が貧し生活を虐げられ、犯罪へと手を染めないと飛び出せない環境に置いた」のがアメリカ政府を牛耳る「白人達」の仕業だという事まで考えてる事がわかるのだ。でなければわざわざFive Percent Nationの事を述べないのだ。
これもまた、「Life’s a Bitch(人生は酷な奴だ)」と繋がっている。
原文:
Now some restin’ in peace and some are sittin’ in San Quentin
Others, such as myself, are tryin’ to carry on tradition
直訳:
安らかに眠る奴らもいれば、サン・クエンティンで座ってる奴らもいる
そいつら以外だと、俺みたいに、伝統を引き継ごうと必死だ
解説:
ここでは私が以前の解説でも述べたことを示してるが、やはり危ない地域で育つ黒人としてお金を稼ごうとすると刑務所か墓場が辿り着く先である可能性が高いことを歌っている。そして、サン・クエンティンはカリフォルニア州の刑務所がある地域の事を指しているが、なぜNYから遠い地域の刑務所を出して来たかというと、この刑務所はアメリカの中でも最古だという事で知られているからだ。
ここで面白いのは「restin’(眠ってる)」と「sittin’(座ってる)」という単語のチョイスだ。刑務所に入ってる奴も墓場に辿り着いた人も立ってる状態ではなく「動けない」事を強調したいからこそ、この二つの単語を選んでるのは間違いない。AZもしっかりとリリックを考えこんでいる事がこういう細かい言葉選びで伺えるし関心が出来る部分だ。
続くラインでもさっきの二つの単語をさらに「tryin’(試してる)」と見事に絡めてることを伺えるが、単純に「刑務所でもなく墓場でもなく残った俺らはストリートの知識を引き継ぎ、生き抜くために必死なんだ」という気持ちが入っている。これは、AZ達にノウハウを与えた刑務所や墓場に行きついた仲間達にリスペクトの意を表しつつ、その環境の過酷さまで伝わってくる見事なリリックだと個人的にも思う。静と動のコントラストも素晴しさしかない。
原文:
Keppin’ this Schweppervescent street ghetto essence inside us
‘Cause it provides us with the proper insight to guide us
直訳:
このゲトーストリートのシュウェッパーヴェセンツな要素を俺らの中に持ち続ける
なぜなら、それは俺らを導く正しい見解を与えてくれるから
解説:
ここでは「Schweppervescent(シュウェッパーヴェセンツ)」という言葉で遊んでるのは明らかだが、まずざっくり何を言いたいかというと、「危なっかしいストリートで生き抜くための知識という要素を持ちながら誇りを持って生き抜く」のようなニュアンスが入ったラインである。では、「Schweppervescent(シュウェッパーヴェセンツ)」を紐解いて行こう。
これは造語だが、まず、「Schweppes(シュウェップス)」というのが炭酸水などを売る事で知られているメーカーの名前だ。当時、そのSchweppesが「Schweppervessence」という単語をCMの中で連呼していたが、これは「Schweppes」と「efferevescene(発泡)」という単語をくっ付けて出来上がった造語である。言うまでもないが、Schweppesが炭酸水を造ってる所とかけている造語だ。
AZはそのCMで良く聞いた造語が頭に残ってたのか、今回のリリックで使用するに至るがどこかのインタビューにて「聴こえ方」が気に入ったから使っていると述べた事があるので音的な観点で使ったのも間違いないが、ニュアンス的にも辻褄が合う様に使ってる。AZがさらなる造語として単語の最後に「t」を付ける事によって「発泡してるストリート」のような言葉として使っていて、泡は弾くので「弾けるほど危ないストリート」という意味と、アメリカでは祝福をする時やお金を稼いでる事の象徴としてシャンパンを飲む事で知られている部分の二つをAZ達が育つストリートの要素として表現しており、それ故上記で述べた通りのざっくりとした意味になる。
次のラインでは、その知識の要素こそが彼らがストリートで生き抜くために必要なものだと表現してるが、ざっくり言って「ストリートを生き抜く術の知識が俺らを導いてくれる」ことを言ってると同時に、ストリートにはストリートで生きるためのルールなどがある事も示唆している見事なリリックだ。
原文:
Even though we know, somehow we all gotta go
直訳:
俺らはみんな何かしらの形でどこかへ行くことを知ってるにも関わらず
解説:
結論から言うと「人間はいつか死ぬ」というメッセージを敢えて遠回りに言ってるリリックだが、ここでのポイントは「どこかへ行く」という表現をしてる所である。明確に「死ぬ」事は述べてないのには理由があり、すでに察してると思うが、先のリリックで「危ない地域に生きる俺ら黒人達の行きつく先として刑務所か死しかない」事を示唆し続けていたので、ここでもそことリンクさせている。なので「人間はいつか死ぬ」だけでなく「この生き方を続ければいつか刑務所に入ることになる」ことも示唆することによって、自身達が犯罪行為をやってることをある意味正当化してる意識も伺える。
要は「どうせ死ぬか刑務所に入るかの2択なら、俺は生きてる間に好きな事をさせてもらうぜ」ということが一番伝えたいメッセージであり、これも「Life’s a Bitch(人生は酷な奴だ)」の要素としてしっかりと成り立ったリリックだ。
原文:
But as long as we leavin’ thievin’
We’ll be leavin’ with some kind of dough
直訳:
でも、俺らが盗みながら去って行きさえすれば、
なんかしらのパン生地を持った状態で行けるぜ
解説:
ここは敢えて直訳したままで載せたが、そのままだとちゃんと伝わらないリリックだ。
まず「盗みながら去って行く」の部分ですが「thievin」という単語が直訳すると「盗む」の現在進行形なのだが「犯罪行為をする」的なニュアンスがある上に、多くの場合はその犯罪行為が上手く行く時に使われるスラングだ。なので、ここでは「死ぬか捕まるかで去る時の為に、この犯罪行為を続けてさえいれば」のような意味があり、次のラインに続けているが、ここではまず「パン生地」を説明する必要がある。
パン生地は単純に「お金」のスラングであるため、ここでは「いくらかのお金を持った状態で去る事が出来るぜ」という意味であり、直前のリリックと合わせたメッセージだ。さらにここでは実はダブルミーニングが入っており「去る」という言葉で遊んでいる。
まず、先に述べた通り「刑務所か死か」の去るはもちろんだが「犯罪行為が上手く行く事にとて過酷なゲトーから去る」事も示唆している。なので、ここまで敢えて二択の様にみせかけてたが、ずっと三択だった事を露わにしているという素晴らしい仕掛けが入っていたのだ。
一見超ネガティブのように見えるリリックだが、その裏の意味を入れる事によってAZ自身も、聴き手にも希望を忘れないようにしてくれ!というメッセージも込めている。
そして、過酷な地域で育つ黒人達にとってはそれこそが希望であり、みんなその希望を胸に犯罪行為に手を出している事がわかる。犯罪者を応援したくなる複雑な矛盾はこういう希望の要素が見え隠れしていて、それが聴き手に無意識に伝わってるからだと個人的に思う。
原文:
So, until that day we turn to vapors
Me and my capers will be somewhere stackin’ plenty papers
直訳:
だから、俺らが蒸気に変わる日まで、
俺はケーパー達と共にどこかで十分な紙を積み重ねてるぜ
解説:
最初のラインは言うまでもなく「俺らが死ぬまで」という意味であり「蒸気に変わるまで」というお洒落な表現をしてるだけでなく「Vapor」と「Caper」と「Paper」で韻を踏みたいが為にこの単語を選んだのもある。
次のラインでのキーワードは「Caper」だが、これはスラングであり「犯罪行為を行う人」的なニュアンスがあるが、ここでは「一緒に犯罪を行えるぐらい信頼する仲間達」というニュアンスで使っている。そんな仲間達と、「蒸気になる日まで、どこかしらで現金を稼いでるぜ」という意味なのは説明するまでもない。
これも言うまでもないが、ここで重要なのは「ただ単にお金を稼ぎたい!」という曖昧な気持ちではない事にある。「お金を稼ぐ理由」がちゃんとあり、その理由こそがNYの過酷な地域に育つ黒人男性にとっては大事な部分であり、多くのファンを魅了した部分でもある。
なんども言ってきたが、お金というのはAZとNASだけでなく、黒人にとっては政府に虐げられたことによりやむなく危険地域で育つ過酷な状況から抜け出す為の手段と、希望の象徴なのである。なので、繰り返すが「ただ意味もなくチェーンや高級車と現金をバラ巻く行為を見せつけて、イキってるラップ」とは全くわけが違うし、多くの聴き手を魅了したこのアルバムが30年経った今でもリスペクトされて聴き続けられる理由もそこにある。
原文:
Keepin’ it real, packin’ steel, getting’ high
‘Cause life’s a bitch and then you die
直訳:
自分に正直に生き、鉄を携帯し、ハイになる
なぜなら、この酷な人生の後は死ぬだけだから
解説:
先に言っておくがここはAZのバースを締めてフックに結び付ける感じが心地よさを味わえる最高な聴きどころである。
最初のラインはほぼ直訳したままだが、細かい所を説明しよう。
まず、「keep it real」という単語は色んな意味を持つし色んな解釈が出来る。「ダサい偽物野郎ではなく、本物の男」というニュアンスはもちろんあるが、ここではどちからというと「自分に正直に生きていく」というニュアンスの方が強い。ここまでのリリックを振り返っても一番しっくりと来るニュアンスだと個人的に思う。
次に「鉄を携帯する」部分は、言うまでもなく「銃を携帯する」事のスラングであり、銃を持って動く事は危険地帯で生きていく上で身を守る最低条件である事を示している。
最後のハイになるはもちろん薬物の事を述べてるが「ハイ」と言う時は代々「大麻」の事を言ってる事が多い。さらにもう一つ、「Steel(鉄)」で音的に言葉遊びしてるが、これは、「still(まだ)」という単語にも聴こえるので、「pakin’ Steel(銃を携帯する)」と「Still getting high(まだまだハイになり続けて行く)」で絡めてる感じのリリックだ。
バースを締めくくる最後のラインでは、なぜそのような生き方を選ぶかを説明してて、その答えが直訳したままの「人生が酷であり、どうせいずれみんな死ぬから」である。
このどこかで聞いたことのある「どうせみんな死ぬ」というコンセプト。危険地域で育ち、仲間が亡くなっていく様を何度も味わい、正に生と死の世界を生き抜くAZが言うと言葉の重さが違う。AZは心身共に「死」と向き合い、その結果、危険地帯から抜け出すための希望を持ちながら手段を選ばず、どんな手を使っても金を稼ぐ道を選んだのだ。そう、なぜなら、結局どの道を進んだとしても酷な人生だし、最終的には捕まるか死ぬかのゴールしかないからだ…。
「Life’s a Bitch」
Hook
原文:
Life’s a bitch and then you die, that’s why we get high
Cause you never know when you’re gonna go
Life’s a bitch and then you die, that’s why we puff lye
Cause you never know when you’re gonna go
Life’s a bitch and then you die, that’s why we get high
Cause you never know when you’re gonna go
Life’s a bitch and then you die, that’s why we puff lye
直訳:
人生はビッチであり、最後には死ぬ。だからこそ俺らはハイになる
なぜなら、誰しもいつ行くかわからないからな
人生はビッチであり、最後には死ぬ。だからこそ俺らはライを吹かす
なぜなら、誰しもいつ行くかわからないからな
人生はビッチであり、最後には死ぬ。だからこそ俺らはハイになる
なぜなら、誰しもいつ行くかわからないからな
人生はビッチであり、最後には死ぬ。だからこそ俺らはライを吹かす
解説:
まず、ここの直訳では敢えて「人生はビッチだ」と訳させて頂いた。というのもその意味とニュアンスはAZのバースで十分説明出来ているはずだし、「人生はビッチだ」というフレーズこそキャッチーな感じがするし、それはアメリカ人にとってもそうだ。
念を押すが「ビッチ」は元々は女性を蔑んだり女々しい男性に対しての言葉として使う事が多いが、その他に「面倒くさい」や「苛立つ」、「過酷」や「大変」などのニュアンスとして使うこともあり、この曲についてはそういった部分を強調してるが、もちろん「人生は面倒な女性だ」という皮肉めいた言葉遊びも意識している。
続くラインでも、バースの中で盛り込んでいた「人間は誰しもどうせ死ぬ」というメッセージを込めているのは説明するまでもない。
次の「Lye(ライ)」という単語を説明する必要があるが、これは一見「lie(嘘)」という単語と勘違いしがちだが、実は違う。Lyeは「大麻」のスラングだ。なので、ここでの表の意味としては「大麻を吹かす」と歌ってるのでさっきの「ハイ」は大麻だという事を示唆しているうえ「ハイ」と「ライ」で韻を踏んで絡めてもいるという粋な計らいである。さらに、実はさっきも述べた「Lie(嘘)」として捉えても辻褄が合うようになっていて、「人生一度っきりだから俺らは都合の良い嘘を付くこともあるさ」というメッセージを込めてる様にみせてるが、これは皮肉であり、逆に嘘を付かない事を示めすという言葉遊びだ。
ややこしいので、もう一度念を押すが「俺らは嘘を付く」という意味合いを皮肉って示す事によって最終的に「俺らは嘘を付かずに自分に正直に生きる」というメッセージを伝えたいのである。
私がどうやってここに辿りついたかを説明すると、まず、AZのバースを締めくくるライン、「Keepin’ it real, packin’ steel, getting’ high (自分に正直に生き、鉄を携帯し、ハイになる)」と結び付けていると思ったからというのが一つ。ここで「Keepin’ it real(自分に正直に生き)」と明確に述べているので「自分に嘘は付かない」ような人だという事がわかる。
次に、「Lye(大麻)」という単語を使ったからだ。発音的には「Lie(嘘)」と同じなので、別にLieを使ってもよかったし、大麻には様々なスラングが存在していて、その中ではどちらかというとあまりポピュラーではない方の「Lye」をわざわざ使っているのだ。これは明らかに聴き手に「俺らは嘘を付くぜ」と勘違いさせたい為のトリックのような言葉遊びをしている。しかし、ここはあくまでも私個人の解釈なので悪しからず…。
最後に、このフックでは明らかに「人生は一回しかないから好きな事をやろうぜ」という聴き手へのメッセージと「人生は一回しかないからこそ、俺らは犯罪だろうがなんだろうが好きな事をさせてもらうぜ」という自分たちの行動の正当化を訴えてるメッセージの両方を込めている。
何度も述べたが、この単純な言葉とメッセージを、AZやNASのようにいつ死ぬかもわからない、いつ捕まるかもわからないような敵だらけの環境の中で育った人が歌うと深さと重さが全く違う。こういう魅力に溢れてるからこそ、長い間多くの人々を魅了し続けてきて、クラシックと称賛されるアルバムと曲なのだ。
Verse 2 (NAS)
原文:
I woke up early on my born day; I’m 20, it’s a blessin’
The essence of adolescence leaves my body, now I’m fresh and
直訳:
俺が産まれた日に朝早く起きた。俺は20になった、これは祝福だ
青年期の精気が俺の身体から抜け、今の俺は新鮮な感じであり、
解説:
NASのバースが始まった。
最初のラインについてはほぼ直訳したままだが、色んな経緯がある。
まずこのアルバムのレコーディングが行われたのがNASが20歳になってからなので、本当にNASの誕生日の日にこのリリックを書いたという説もある。もっと深く入ると、祝福という単語を使う事により「20歳まで生き残る事が難しい地域で育った」事を伝えており、20歳になるまで生き残ったことに対して生の喜びを歌っている。これは安全地帯に生まれ育った人には想像する事しか出来ないだろうが、NASが育ったクイーンズはそこまで危険な地域だったのだ。
次のラインでは、まず特徴的なのは終わり方。「I’m fresh and」で終わらせてるが、まだ次のラインへと続く感じで小節をまたぐ細かいスキルを披露してくれてる。もちろんそれには理由があり、「Blessin’」、「essence」、「adolescence」と畳みかけるかのような韻をしっかりと踏むためである。
もう一つの注目ポイントはadolescence」というアメリカ人にとっても少し難しい単語を敢えて選んでいるところだ。普通は「teen」を使う。これは、先のように韻を踏むためにという意図もちろんあるが、若干20歳であるにも関わらず教養がある事を示すという巧みな隠れメッセージも込めている。ただ10代を無駄に生きてただけでなく、しっかりと知識を蓄えたことを誇示したいのだ。
さらに、「fresh」という単語を使う事によって、背年期から大人へと変換をしたばかりで「新鮮」であることを言いたいのはもちろんだが「fresh」っていうのは「カッコいい」や「斬新」みたいなニュアンスのスラングでもあるので「20歳になってもまだまだフレッシュだぞ!」という誇示もしっかりと入れ込んでいる。
相変わらず全てのラインが入念に考えられているのがこういう細かい所で伺える。
原文:
My physical frame is celebrated ‘cause I made it
One quarter through life, some godly-like thing created
直訳:
俺に身体の枠があるのは祝うべきことだ、なぜなら俺はここまで辿り着けたから
どこかの神のような者に造られた人生も、もう四分の一が過ぎた
解説:
最初のラインでのポイントはなんと言っても「physical frame」だ。ここは色んなニュアンスとして捉える事が出来るが、基本的に自身の身体を、魂を留めて置くための物体として捉えているという部分だ。もちろん直前のラインからの続きであり、総じて「20歳まで生き延びて、この魂を入れておく身体という名の枠(入れ物)がまだ存在するのは祝うべきことだ。なぜなら過酷な地域でここまで生き残れたからだ」と伝えたい感じだ。
「physical frame」にはさらなる意味を持たせてるが「physical」という単語は「身体」という意味だけでなく「積極的」や「攻撃的」という意味もあるので「積極的な動き」というニュアンスも入れていると私は解釈する。そうする事によって、ただ生き延びただけでなく「危険な地域の中にも関わらず積極的に動いたのに生き延びている」という意味合いも入ることによって、喜ばしさを増加させている。
そこで終わらないのがNAS。もう一つ意味を入れているが「積極的なラップ」という隠された意味も含んでいて「積極的なラップでMCとして生き延びてきた」事も示唆していると私は解釈する。
さらに、上記でも述べた通り「自身の身体を魂を留めて置くための物体」というニュアンスを入れているが、その宗教的な思想を次のラインに入れる事によってリンクまでさせている。
その次のラインで注目すべきは「some godly-like thing created(どこかの神のような者に造られた)」というリリックだ。
これは神の存在を示唆しつつ「どこかの」と言うことによって、敢えてどの宗教の神様かを特定していない。というのも、アメリカは他人種だけでなく、他宗教で構成されている国でもある。代表例で言えばキリスト教、イスラム教、仏教などとあるが、キリスト教の中にも色々な宗派があり、それぞれ「神」の存在の解釈が違うのだ。曖昧にすることによっていくつかNASの狙いがあるが、まず自身がどの神かをまだ定めていないことで迷いと未熟さがある事を認めている部分がある。
というのも、ここではアメリカに生きる黒人の文化の歴史にも触れているが、時代によって黒人の中でも影響力のある宗教は変わってきた事実もある。アメリカでもっとも多い宗教はキリスト教なのだが、これは黒人も例外ではない。しかし、例えばだが、1960年~1990年代マルコムXなども所属してたり、ナイティブタンなども深く関わってたイスラム教が黒人コミュニティの中で「流行った」のである。そこから派生して「5パーセントネーション」という今回のアルバムがリリースされた時期もHipHopに多大な影響を与えた思想が産まれたほどだ。
その他にジャマイカ系アメリカ人の影響も多かったのでラスタファリア的な思想を持ってる黒人も多く、NAS自身もどの神を信じてよいのか迷ってた可能性があるし、そのことを認めている感じだ。
次に、多くの宗教が存在するアメリカなので、信じてる神を曖昧にする事によってどの聴き手でも感情移入が出来るために曖昧にしていてる。やはりそうする事によって聴いてくれる人も増えるし「どんな宗教に対しても平等ですよ!」と示したい感じだ。
さらに「some godly-like thing」という言い方は少し生意気なのだが、皮肉めいた感じで茶化してる感も明らかに出しているが、これは「結局神は一つしかねぇだろ!色んな神を信じているのはバカバカしい」的な隠れた意味も込めていると私は解釈する。
最後に「人生の四分の一」は言うまでもなく80歳まで四分の一まで来たぜと言いたい感じだ。
原文:
Got rhymes 365 days annual, plus some
Load up the mic and bust one, cuss while I pus from
My skull, ‘cause it’s pain in my brain vein, money maintain
Don’t go against the grain, simple and plain
直訳:
俺は一年分、365日に少し足したぐらいのライムを持ってるぜ
マイクに装填して一つ弾く、汚い言葉を使いながら
俺の頭蓋骨からパスを出す。なぜなら、俺の脳の血管には痛みが入ってるからだ、金は維持する。
シンプルでわかりやすいんだ、常識に反するな。
解説:
今回いつもより多くのラインを解説したのには理由がある。あまりにも入り組んでて日本語に直すとどうしても文法がおかしくなるから4つのラインを一気に解説する事を選んだ。
まずは最初の一年分のライムの下りだが、直訳したとおり「俺は1年分、毎日ライムをしてもおつりがくるぐらい持ってるぜ」と言いたいのだが、ここでのポイントは「plus some(少し足した)」という少し茶目っ気のあるフレーズを選んだところにある。わざわざ365日と数字で表したのにも理由があって、そのPlus Someを引き立たせるためなのだ。というのも、一年は365日しか基本的にはないので、足すことは不可能という所を思わせた上で、その「Plus some(少し足した)」が何を足してるのか?
直前のラインで出して来た「godly-like(神のような存在)」というリリックとリンクさせていて「毎日繰り出すライムの中にも神の力が足されてる」事をサラッと示しているのだ。
次のラインから日本語に訳すと文法がおかしくなるぐらい入り組んだ韻と言葉遊びを畳みかけてきてるから4つ同時に解説をしてるが、まず韻が凄すぎる。「bust one」、「cuss」、「pus from」と「cause」という入り組んだ韻だけでなく、「it’s pain」、「my brain vein」、「maintain」、「the grain」と「and plain」などと韻を変えながらもガンガン盛り込んでいて、さらにそれをビートにうまく乗りながらリズミカルに届けてくれている。その上、小節をまたいだりもしてるので日本語に訳すと上手く小節にハメることが出来なかったわけである。
意味を紐解いて行こう。まず「マイクに装填して一つ弾く」の部分は、自分のラップを通す武器として銃に例えてるマイクに自身のラップを装填しているという比喩なのは言うまでもない。
次に「cuss while I pus from My skull」という部分が「from」を境に小節をまたいでる部分だが「pus」という言葉を直訳のまま「パス」としたのには理由があり、細かく説明する必要がある。少しグロい表現だが「pus」とはニキビなどを潰す時に中から出てくる白い「膿」などの事を指す言葉である。そして「cuss」は「Fuck」などの放送禁止になるほどの汚い言葉の事を指す単語だ。なので、もっとわかりやすく意味を示すと「汚い言葉を俺の頭蓋骨から膿のように噴き出すぜ!」みたいな意味であり、ここでは「汚い言葉」を「膿」という汚い物とリンクさせながら、その膿が自身の頭蓋骨(精神)から出てくるリリックであることを表す事によって自身のラップが汚いと表現している見事な言葉遊びだ。説明するのが大変なぐらい入り組んでて見事なリリックだ。
さらに、次のラインではその「膿」が自分の脳みその血管から出てきてて、さらにその膿が日々人生で感じてる「pain(痛み)」であるという事まで説明しながら表現してくれている。
最後のラインはそのストレスを和らげる手段として一番手っ取り早いお金を稼ぐ流れを維持するというニュアンスである「money maintain」を韻を踏みながらサラッと入れた後、教訓として「常識や流れに逆らうな」というニュアンスである昔からアメリカの言い回しとして存在する「Don’t go against the grain」が入り、最後にその教訓が「シンプルでわかりやすい」という事まで示していて、その間ずっと先に述べた様に見事にリズムに乗りながらカッコよく韻を踏みまくる。
NASはやはりバケモンです。
原文:
When I was young at this I used to do my thing hard
Robbin’ foreigners, take they wallets, they jewels and rip they green cards
直訳:
若くてこの業界で駆け出しだった頃、俺は積極的にやってたぜ
外国人から強盗してた、奴らの財布や宝石を盗ってグリーンカードを破いてたぜ
解説:
ここは直訳のままの意味であり、少ししかダブルミーニングを持たせていない。簡単に言って「若い頃は外国人から強盗を繰り返すという積極的な生活を送ってたぜ」と歌っているが、外国人から盗んでいるという部分が面白い。これはアメリカが抱える問題に触れている。NASが産まれ育ったクイーンズという市営住宅施設には貧しくて他に行き場が無い移民や貧困層の人たちをまとめるための地域であり、政府の作戦であると考える陰謀論者的な考え方も存在していた。そしてその地域で生きて来たNASも自分が置かれている環境が少なからず政府にも責任があるという考えをここで表明している。
もっと深堀すると、白人から強盗するのと移民などの「外国人」から強盗するのとでは、捕まった時のリスクが全く違う事も示唆している。「アメリカは白人女性が一番強い」という昔から存在するアメリカンジョークがあるが、白人女性を傷つけると国民の批判を浴びてしまい、警察や政府も本気を出してしまうという現実が存在する。これは「人種差別」や「階級」などがまだまだ存在している事を密かに訴えてるのと同時に、NASの悪党の知恵として「どうせならリスクの低い人から強盗した方がいい」という効率性を示す事でリアルさも増している。
さらに、「グリーンカード」を破くことによって、強盗をされた相手は警察に行けなくなるという描写までしてて、聴き手に刺激を与えながらさらなるリアルな効率性を示してくれてるが、グリーンカードが無くなった移民が警察に相談をすると強制送還されてしまうから、警察に行けなくなるという事だ。
最後に、「アメリカにとっての外国人」同士で奪い合いをしないと生きていけないという政府の思うつぼである現状に対する憤りも入れてきてて、何気ないリリックの中にも深い感情を入れてきてるのがわかるし、この憤りこそ先に述べてた「脳の血管に詰まってる痛み」であり、正に今その痛みをラップしてくれてるのだ。
原文:
Dipped to the projects, flashin’ my quick cash
And got my first piece of ass, smokin’ blunts with hash
直訳:
プロジェクトに入って、俺のクイックキャッシュを見せびらかす
そこで人生初のケツをゲットして、ハッシュ入りのブラントを吸ったぜ
解説:
ここでは曲のテーマにしっかり沿って、自身の若かりし売人の頃の話をするNAS。当時も変わらずお金を持つと女性からモテるという現実をサラッと突き付けてくるし、世の若い男の多くのモチベーションになってる事がモテる事であるのと、モテる事とかハイになる事とか、そういう表の煌びやかさとカッコ良さを追い求めている若き日々を振り返っている感じのリリックだ。
クイックキャッシュは直訳すると「すぐ手に入れた現金」なのだが、こういう表現をする場合は確実に「犯罪行為を行って得た現金」を示唆している。直接的ではなく、そういうお洒落な言い方をサラッと入れてくるあたり、粋である。
さらに、得た現金を貧しい人々が住む、NASも育ったプロジェクトで見せびらかすというのも何気に深く、やはりみんな人一倍羨ましがることが伺えるし、そのプロジェクトで童貞を捨てたり初めてのブラントを吸ったり、しかもその中にさらにハッシュを入れてたりと、リアルな思い出を入れてきてる事が伺え、正に人生に置いての「成長期」を表しており、その間にすでに様々な罪を犯してる状況にあるという闇の部分も見え隠れさせているのだ。
現代の曲のMVでも良く登場する薬物や女性の性的な描写などは「イケない事」ではあるし、様々な宗教などでも「罪」として捉えられているものなのに、それを美化する文化や社会が果たして良いのか?とNAS自身も人生を振り返りながら想い、それを聴き手にも感じさせているという、一見普通の様に見えて深さがあるリリックなのである。
しかも、自分の地元であるプロジェクトをしっかりとレペゼンしながらだ。「俺は酸いも甘いも受け入れ、自分の育った街をレペゼンする。なぜなら俺を形成する大きな一部だからだ」というNASの想いみたいなのも、個人的に感じる。
原文:
Now it’s all about cash in abundance
Nig*as I used to run with is rich or doin’ years in the hundreds
直訳:
今となっては豊富な現金こそが全て
俺が昔一緒に走ってたやつらは金持ちになったか百年単位の刑務を過ごしてるかだ
解説:
最初のラインは直訳した通りだ。若い時はモテる事やイケてる事が重要だったけど、色んな経験を経て今となっては現金が全てという事だ。ここでの少し面白いところは「abundance」という少々難しい言葉を選んでいる所にある。頭が良いぞ!って事を示しながら、しっかりと次のラインの「hundreds」と韻を踏んでいる。
ちなみに、このリリックを書いた時はまだ19か20歳の頃なので、まだまだモテるためやカッコいいよ言われるために生きていても良い年齢なのにも関わらず「現金こそ全て」と深く理解しているところで、どれだけクイーンズが酷で成長の速さを促す場所なのかがわかる。
次のラインもほぼ直訳したとおりの意味ではあるが、もちろん面白い遊びを入れている。まず、AZは「死ぬか刑務所かの二択」という絶望的な結末しか示さなかったがNASは「金持ちか刑務所か」という希望を入れている。これはもちろんわざとであり「以前のラッパーが歌っていた事に対して自分も触れる」というマイクリレーの暗黙のルールをサラッと成立させている。
さらに、ここのラインでの面白い部分は「doin’ years in the hundreds(百年単位の刑務を過ごしてる)」であり、百年単位の実刑というのは言うまでもなく相当な殺人数や相当大規模な薬物取引などに関与してないと課せられない。なので、一緒に走ってた奴ら(つるんでた奴ら)の中にそれぐらい大きな犯罪を犯すような大物もいた事を示唆している。
それだけで終わるはずもないNAS。もう一つの隠れたメッセージというのが「同じ犯罪でも白人なら数年の実刑が、黒人だと百年になる」である。これはもちろん大袈裟に言っているが、まんざら嘘ってわけでもなく、特に当時のアメリカでは黒人ってだけで刑期が長くなったり、そもそも普通なら逮捕されないような軽犯罪でも逮捕されたりすることが多数あった。あまりにも多かった為「黒人達にとってはそれが当たり前」になってしまったぐらいだ。
これはアメリカでは暗黙で認知されている事であり、よくコメディアン達もダークなジョークとして「白人は警察に止められる事を恐れないけど黒人は何も悪い事をしてなくても恐れている」ような事をネタとして使っていたほどである。
つまり、アメリカでは(特に当時)黒人ってだけで捕まってしまう事があまりにも多すぎて本当は守ってくれるはずの警察官達を恐れながら生きていくのが当たり前になったのだ。良く耳にする「Fuck The Police」にはそういう要素も入っている。
原文:
I switched my motto; instead of sayin’ “Fuck tomorrow!”
That buck that bought a bottle could’ve struck the lotto
直訳:
おれはモットーを変えた、「明日なんてクソ食らえ!」とは言わなくなった
そのボトルを買った1ドル札で、もしかしたら宝くじを当てれたかもな
解説:
最初の部分は直訳したとおり将来の事を全く考えず、今を生きるライフスタイルは辞めたと述べているが、これは思想的に成長している様を表している。明日死ぬかもしれないという想いの中で生活していると、稼いだ現金をお酒や性的な活動に浪費をしてしまうのだ。ここでは「明日死ぬかも」という言い訳を並べずに、ちゃんと将来に目を向け、犯罪行為というリスクを犯してまで手に入れた現金の使い道を将来を良くするために使う事を決意した表れなのだ。
これは現代のMVなどでも良く見る高価なジュエリーや車、現金のばら撒き行為などのフレックスとは真逆の考え方である「現金を無駄使いするな」という単純の様に聴こえるメッセージだが、生きるか死ぬかの環境で育ったNASが言うと重みが増す。
次が洒落たラインになってるが、まず簡単に「お酒を買うために使ったお金で宝くじが当たる可能性だってあったのに」というメッセージだが、もちろん様々なニュアンスや言葉遊びをしている。
まず、アメリカの宝くじ(Lotto)は1口1ドルで買える事で知られているので「Buck(1ドル札)」という単語を使っている。さらに、当時は安いお酒を1ドルあれば買える所もあった事は大前提にある。
説明せずともわかってもらえてると思うが「人生を更にダメにするお酒にお金を使うぐらいなら宝くじに使った方がまだマシだ」という皮肉がこもっている。ここで大事なのが「宝くじも大して変わらない」部分。NASももちろん宝くじにお金を使うのは無駄に等しいのは理解しているので、敢えてこのリリックを使っているが、意図としてはお酒を買うよりマシという部分だけでなく、ダブルミーニングとして宝くじを「投資」の比喩として使っているのだ。
要は、「お酒に金を使うぐらいなら、なんでもいいから自分の人生をより良くするチャンスのあるものにお金を使え!それが、たとえ宝くじのように胡散臭いものでもな!」というメッセージも込められている。
最後に一応言っておくが「Fuck tomorrow!」と「struck the lotto」という粋な韻もサラッと踏んでくれてもいる見事なラインでもある。
原文:
Once I stood on the block, loose cracks produce stacks
I cooked up and cut small pieces to get my look back
直訳:
俺はブロックに立った事もある、クラックを手放し、スタックを生産する
俺はルートを取り返す為に、小さなピースを料理した
解説:
ここではわかりやすいスラングが盛り込まれているので、まずそこを説明しておく。「Block」は「街角」のようなイメージでいい。「Cracks」はこの当時流行っていた「クラックコカイン」。「stacks」は「現金」。「Pieces」は直訳すると「破片」や「個々」などという意味だが、スラング的なニュアンスではコカインなどを割ってばらばらにした破片のようなものだ。最後に「loot」は「資産」的なニュアンスであり、お金としても売買目的で所持してる薬物としても使う事が出来るが、今回の場合はその両方の意味を入れている。
リリックの意味としては、簡単に言って「俺は街角に立って、クラックコカインを売って金を稼ぎ、手に入れたコカインをさらに細かく調理して、再びそれをさばいて金を稼いだ」という事をスラングを盛り込みながらお洒落にラップしている。
ここでも単純に終わるはずもなく、さらに色んな意味を入れている。まず、街で売る、稼いだお金でさらに売るための薬物を購入する、それをまた街で売る。その一連の流れを表現することによって、「終わらないサイクル」という負の部分を表してる。
次に、ここは私の行き過ぎた考察かもしれないが「ピースを料理して現金を取り返す」という部分は自信のラッパーとしてのキャリアの比喩表現でもあると解釈する。要は「自分のラップスキルを断片的に調理して稼ぐぜ!」的な意識も入っていると個人的には思う。
ちなみに、噂によるとNASはセカンドアルバムである「It was written」までは売人としてお金を稼がないと生きていけなかったらしく、セカンドアルバムからやっと音楽だけで食えるようになったらしい。
原文:
Time is Illmatic, keep static like wool fabric
Pack a 4-matic to crack your whole cabbage
直訳:
時間はイルマティックだ、ウール素材の様に静電気は蓄えておけ
お前のキャベツに全体的に亀裂を入れるために4マティックを積んでるぜ
解説:
ここではアルバムを通しても数回程度しか使ってない「illmatic」というNAS達が作った造語を使用。Illmaticに様々な意味合いを入れているようだが、ここでは「重要」みたいなニュアンスを入れていて、「時間は貴重だ」という事を強調するためにアルバムのタイトルをわざわざここで使っているのだ。
次の「static(静電気)」という単語のチョイスもまた面白い。「敵対状態」や「衝撃を与える」、「魅了するほどの電撃」のような様々なニュアンスがあるスラングだが、今回はその全てを入れてる。簡単に言えば「まるでウール素材の様に、常に敵や問題に対する注意を払いながら自分のスキルを磨き続けて人を魅了する状態を保つ」という意味が入ったリリックだ。
最後の締めのラインも素晴らしい。まず「Cabbage(キャベツ)」は「頭」のスラングである。そして「4-matic」という造語は.40口径のハンドガンとillmaticを混ぜたNASの造語であり「驚異的な.40口径のハンドガン」という意味である。その「Pack(フル装填)」されたハンドガンで頭に亀裂を入れるために狙ってきてる事を表しているラインなのだが、それだけで終わるはずもないNAS。
最後の最後に、聴き手に銃口を向ける事によって「この曲の中で歌ったように、人はみな死ぬし、その死がいつ訪れるかわからないぞ!なんなら、今かも知れないぞ!」というメッセージで曲を締めているのだ。さらに、自身を銃に例える事によって、「聴き手の頭に亀裂が入るぐらい濃厚なリリックとラップだ」という事を示しているのだ。少なくとも私はこのアルバムを解説するにあたり、実際に亀裂が入りまくっている。
最後に一番大事なメッセージとして、例えNAS達のように危険な地域に住んでなくとも、人はいつ死ぬかわからない。時間は貴重(time is illmatic)だから、死ぬ前に好きな事しながら精一杯生きて行こうぜ!というかなりポジティブなメッセージだと、私は解釈する。
Hook 2
原文:
Life’s a bitch and then you die, that’s why we get high
Cause you never know when you’re gonna go
Life’s a bitch and then you die, that’s why we puff lye
Cause you never know when you’re gonna go
Life’s a bitch and then you die, that’s why we get high
Cause you never know when you’re gonna go
Life’s a bitch and then you die, that’s why we puff lye
Cause you never know when you’re gonna go
Life’s a bitch and then you die
直訳:
人生はビッチであり、最後には死ぬ。だからこそ俺らはハイになる
なぜなら、誰しもいつ行くかわからないからな
人生はビッチであり、最後には死ぬ。だからこそ俺らはライを吹かす
なぜなら、誰しもいつ行くかわからないからな
人生はビッチであり、最後には死ぬ。だからこそ俺らはハイになる
なぜなら、誰しもいつ行くかわからないからな
人生はビッチであり、最後には死ぬ。だからこそ俺らはライを吹かす
なぜなら、誰しもいつ行くかわからないからな
人生はビッチであり、最後には死ぬ…
解説:
ここでは最初のフックと全く同じ意味だが、少しだけ長くしていて、最後を「Life’s a bitch and then you die(人生はビッチであり、最後には死ぬ…)」で締めている。これはもちろんわざとだが、最後にその言葉で終わるのはこの曲のタイトル「Life’s a Bitch」に入れた想いを詰め込み、今作で最も伝えたかった事なのである。聴き手もこの曲の最後にその強いメッセージを受けてどう想うか、何を感じるのかは人それぞれだと思うし、それは完全に聴き手の自由だ。しかし、少なくともHipHopが好きな人たちからは多く共感を得ているラッパーとアルバムなので、NASの想いはしっかりと伝わってる事だけは間違いがない。
曲の最後はNASの父親であるジャズ演奏者のOlu Daraのトランペットソロで締めくくられていて、音楽的なクライマックスはここで訪れる。
超ジャジーなトランペットの演奏は哀愁に漂い、曲中で聴こえて来たAZとNASの痛みすらも感じ取れるほどで、心を打つ音色を聴いてると涙が流れてきそうになるほどだ。
まだどこまでの大物になるかをしっかり理解してなかったであろうNASとOlu Daraの親子での共演を、早くも1stアルバムで実現しているのは愛しか感じないし、同じ息子を持つ父親である私にはOlu Daraの嬉しさすらも見えてきて、同じアーティストとしても羨ましい限りである。
アメリカに生きる黒人という厳しい環境を経てOlu DaraからNASへ、その苦悩や想いはしっかりと受け継がれていることがこの曲を聴いていてもわかるし、かなり感じさせられる素晴らしい名曲なのは間違いがない。
伝説的なアルバムIllmaticは一曲もスキップ出来る曲が入ってない超絶的な名アルバムだ。
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