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連載/デザインの根っこVol.31_萬代 基介

建築家やインテリアデザイナーにインタビューを行い、衝撃を受けた作品などのインプットについて語っていただく連載「デザインの根っこ 」。今回は「商店建築」2020年12月号掲載、萬代基介さんの回を公開します。

つくり手の想定を超え
使いこなされる風景に衝撃を受ける

 衝撃を受けたものを考えた時、海外の街から受ける印象が身体化されて、自分の中に残っているように思いました。特に刺激的だった街がベネチアです。石上純也建築設計事務所に勤務していた2008年に2カ月間、10年に1カ月間滞在したのですが、その時の印象は強く残っています。

 ベネチアは小さな町が集合してできているので、街全体が非常に複雑なつくりになっています。初めて訪れる人にとっては完全に迷路のような街ですが、しばらく滞在して使いこなしていくうちに空間が自分の身体に刻まれていくような感覚がありました。車や自転車は禁止され、至る所に階段や水路、曲がりくねった道があって、はっきり言って不便なのですが、おのずと過ごす速度がゆっくりになるんですよね。そのおかげで街の中は陽気な会話で溢れて、奥まった道に勝手にテーブルを出して食事をしたり、道の上空に洗濯物を干したりしていて、少し滞在しただけなのに「自分の街」と錯覚するような不思議な体験をしました。街というよりも大きな建築のようにも見えたのです。空間にある不自由さによって、創造性や豊かさみたいなものが生み出されている様は、とても美しい風景でした。

生きる力を鼓舞するおおらかな空間

 もう一つ、面白いと思った都市がサンパウロです。展示の会場構成のために訪れたのですが、ここではどちらかと言うと、建築に衝撃を受けました。例えば、オスカー・ニーマイヤーが設計した「イビラプエラ公園」やリナ・ボ・バルディの「サンパウロ美術館」、文化施設「セスキ・ポンペイア」、ジョアン・アルティガスによる「サンパウロ大学建築学科棟」などです。どれもおおらかで、せせこましくないんですよね。ブラジルは日本と比べると、政権が不安定だったり、社会的に多くの問題を抱えているのですが、それゆえに「僕らが良い社会にしていくんだ」という強いパワーがあって、建築もそういう人間の生きる力みたいなものを鼓舞するようなおおらかさを持っているように感じました。例えば美術館のピロティで怪しい商売をしたり、浮浪者が寄り合っていたり、なかなか日本では見ない光景ですよね。目地がない緩やかなコンクリートのスロープでスケートボードを楽しんだり、設計者の意図を超えた発見が生まれて、遊びの場になっていることに感銘を受けました。

イビラプエラ公園(画像提供/萬代基介)
サンパウロ美術館のピロティ(画像提供/萬代基介)

振る舞いに
インスピレーションを与える

 両都市に共通するのは、建築や都市に人が関わって豊かな光景が生まれているということです。ベネチアの場合は、自然に生まれた複雑性を人間が創造的に使いこなしています。その複雑性は、要塞としては合理的だったはずです。ニーマイヤーも、最初からスケートボードで遊ぶことを想定したわけではないと思うのです。僕たちがつくるものは、使いこなされるための土壌の部分で、都市や建築とそこで過ごす人たちが、僕たちの知らない出会い方をしている光景に衝撃を感じます。つくり手の意図で埋め尽くすと窮屈になるので、固定的な状況というよりは、人間の創造性をかき立てるような場があって、そこに向かい合う人間の振る舞いにインスピレーションを与えるようなものがつくれたらいいなと思います。     〈談/文責編集部〉

まんだい・もとすけ/1980年神奈川県生まれ。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了後、石上純也建築設計事務所での勤務を経て、2012年萬代基介建築設計事務所設立。建築やインテリア、展覧会の会場構成、プロダクトなど多岐に渡ってデザインを手掛ける。最近の仕事に「ARTBAY HOUSE」(20年12月号)や「日本橋木屋 東京ミッドタウン店」(16年7月号)など。
※内容は商店建築2020年12月号発売当時のものです。

紹介作品一覧

1.イビラプエラ公園
(画像提供/萬代基介)
2.サンパウロ美術館のピロティ
(画像提供/萬代基介)


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