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【note限定公開】商店建築2022年1月号「サステイナブルと空間デザイン」

発売中の「商店建築1月号」の特集は「サステイナブルと空間デザイン」。このnoteでは、雑誌に掲載しているイントロダクションテキスト「クリエイティビティーをより良い社会のために」を限定公開します。
空間デザインが、これからの社会にとって何ができるのか、みなさんとこれからも考えていきたい。
そんな思いから、なぜこの特集を企画したのか、そこから見えてきたものは何かをダイジェストでお伝えできる、イントロダクションを転載します。

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「クリエイティビティーをより良い社会のために」

循環型社会に向けた空間デザイン〈五つの視点〉

 私たちは今、大きなパラダイムシフトの最中にいます。大量生産・大量消費・大量廃棄という経済社会システムのひずみがあらわになったことから、廃棄物を出さずに循環を生み出す産業構造への転換が、あらゆる分野で模索されています。
 本特集で取り上げた10のケースは、空間デザインを通したサステイナブルで持続可能な循環型社会への取り組みです。取材を通して、これからの空間づくりに必要な五つの視点が見えてきました。

1. 今あるものを適切に活かす

 現状を否定するだけでなく、向き合って、適切に活かすこと。「淺沼組名古屋支店改修プロジェクト」(P.67)は、既存のオフィスビルを改修し、自然素材を加えることで、風が通り、光が入る心地良い居場所へ更新しています。
Semba Ethical Design Thinking」(P.98)では、廃材や使われなくなった建材サンプルが、遊び心ある家具やアート、魅力的なマテリアルに生まれ変わりました。

2. 使われなくなった後を見据える

 ものや空間が使われなくなった後を見据え、そこから逆算して設計すること。「SANU 2nd Home 八ヶ岳 1st」(P.84)は、自然に負荷のかからない構法で釘やビスの使用を最小限にし、建物を解体して別の場所に建てることが可能な設計になっています。
RECAPTURE」(P.122)は、生分解性の高い素材や有機廃棄物を3Dプリントした家具を提案。再利用や土にかえすことができる素材の開発から進めています。

3. 長く使う、長く使われるものをつくる

 リサイクル以上に環境への負荷が低いのが、長く使い続けること。「オールアバウト 本社」(P.92)は、タイムレスという視点で、以前から使用していた家具を新オフィスで再利用しています。
 設計事務所「DRAWERS」(P.116)は、内装設計や再生ガラスを利用したプロダクトを通じて、未来に残るロングライフな空間やものを目指します。
パレットハウスジャパン」(P.120)は、廃パレットを使った家具の制作、販売、回収を通して、“価値の下がらない家具づくり”を志向します。

4. 新たな仕組みをつくり出す

 ものや空間づくりと同時に、循環の新たな仕組みをつくること。「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」(P.56)では、町民が使うゴミステーションとホテルを併設した建築により、宿泊体験を通してゼロ・ウェイストの取り組みを広げています。
ReBuilding Center JAPAN」(P.110)は、拠点を設けて、見過ごされてきた古材の回収、販売、空間設計というサイクルを生み出しました。

5. 共創する

 複数の主体が連携し、共創すること。例えば、「淺沼組名古屋支店改修プロジェクト」では総合建設会社淺沼組と建築家川島範久氏が、「Semba Ethical Design Thinking」では内装設計施工会社の船場とコンテンポラリーデザインスタジオwe+が協働しています。それにより、一つの主体では成し得ない、社会的にインパクトの大きい取り組みが実現しました。
ナカダイ」(P.124)代表の中台澄之氏は、設計、施工、解体、リサイクルという業種を超えたつながりの中で、ゴミを資源として流通させるビジネスを推進しています。

 サステイナブルであることと同時に、「人の感情や感覚に作用する」というデザインの力は、これからも変わらず大切でしょう。楽しい、美しい、居心地が良い。理屈の前に、そうした人の本能に訴える作用があるからこそ、選ばれ、受け入れられ、使われ続けることができます。

社会、経済活動、人の意識、そして空間デザインも変化する

 なぜ今、現行社会からの転換が必要なのでしょうか。理由の一つは、人間の行き過ぎた経済活動が、地球環境の危機を招いていること。気候変動は着実に進み、猛暑や豪雨などによる自然災害は、地球の危機が身に迫っていることを私たちに実感させます。また、18世紀後半の産業革命から広がった資本主義は、一部の国の経済発展や富裕層を生んだ一方、貧困地域・貧困層との格差を助長してきました。

 こうした社会構造のひずみが至る所であらわになり、警鐘が鳴らされてきました。「持続可能な開発」は、1980年代に提唱された概念です。しかしそれが、近年のようにさまざまな分野で主題となってきたのは、2015年の国連サミットでSDGsが掲げられたことが大きいでしょう。SDGsとして、2030年までに全世界的に達成すべき目標が定められたことで、地方自治体や民間企業など、さまざまな主体による「持続可能な社会」に向けた取り組みが活発化しました。

 資源をとって、つくって、捨てるという線型経済(リニアエコノミー)から、廃棄物を出さず循環を生み出す循環型経済(サーキュラーエコノミー)への転換が、多くの国や分野で図られています。

 それは徐々に、生活者である個人の意識変化も促しています。自らの行動が世界的な課題に直結する。デジタルが普及し、世界中の情報が瞬時に手に入る世の中では、生活者はより鮮明にそのリアリティーを持つことになるでしょう。「安く、早く、多く」という価値観ではなく、ものの来歴や行方までに目を向け、商品やサービスを選ぶという行動が主流になっていくとしたら、産業も大きく変化します。

 商業空間、特にインテリアデザインは、世の中の流行に左右され、早いサイクルで変わっていくのが宿命でした。しかしそれは、「つくる、使う、捨てる」という一方通行の消費を前提にしたものであったからです。ユーザーの意識や行動、産業が変化した循環型社会においては、商業のスピードやシステム、役割は変わっていく。そうなると、人の活動や産業の土台となる建築やインテリアも、必然的に変化していくでしょう。本特集で取り上げた設計の考え方は、少し先の未来のスタンダードになるかもしれません。

 今回は、アップサイクルやものの循環を通じた空間デザインを多く取り上げました。しかし、「サステイナブル」は本来もっと広い概念です。決して単なるトレンドではなく、より良い社会へ向けた、地球環境や人権などを含めた概念と言えます。目の前のものやことだけでなく、その始まりや終わりに、過去や未来にまで視線を広げて設計する。そうすることで、空間デザインとそれを生み出す人々のクリエイティビティーは、より良い社会をつくることに寄与していけるはずです。


商店建築1月号サステイナブルと空間デザイン」特集のラインアップはこちらです。

54 [ 序 文 ]クリエイティビティーをより良い社会のために
56  上勝町ゼロ・ウェイストセンター(設計/NAP建築設計事務所)
66 [ 記 事 ]「 HOTEL WHY 」宿泊体験記
67  GOOD CYCLE BUILDING 001 淺沼組名古屋支店改修
  (設計/川島範久建築設計事務所+淺沼組)
79 [ 記 事 ]建設業のサステイナブルな転換を象徴するフラッグシップビル
82 [ 記 事 ]素材そのものの色や質感が現れた家具が空間に彩りを添える
84  SANU 2nd Home 八ヶ岳 1st(設計/ADX)
89 [ 記 事 ]当たり前のこととして「 サーキュラー建築 」を追求し尽くす
92  オールアバウト本社(設計/dada)
98 [レポート ]内装業界の課題に向き合い循環型空間づくりをリードする
98  Semba Ethical Design Thinking
106 [ 記事 ]情報を整理し、手を動かし、循環を社会に実装していく
110 [ レポート ]ReBuilding Center JAPAN
  古材を回収し、販売し、デザインする
  その先により良い世界が広がっていく
116 [レポート ]DRAWERS
  可能性のある「余白 」と普遍的な「自然 」を採り入れ
  ロングライフをデザインする
120 [レポート ]パレットハウスジャパン
  廃パレットで生み出す“価値の下がらない”家具づくり
122 [レポート ]RECAPTURE
  卵からできた3Dプリント家具が見据える〈 循環型都市〉の在り方
124 [ インタビュー]ナカダイ 中台澄之
  設計から施工、解体、リサイクルまで
  業種を超えたつながりが循環のヒントになる

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上勝町ゼロ・ウェイストセンター
(設計/NAP建築設計事務所 撮影/藤井浩司)


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「GOOD CYCLE BUILDING 001 淺沼組名古屋支店改修プロジェクト」
(設計/川島範久建築設計事務所+淺沼組 撮影/トロロスタジオ)


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「Semba Ethical Design Thinking」(撮影/青木勝洋)

商店建築1月号のより詳細やご購入はこちらからどうぞ。
最後までお読み頂きありがとうございました。〈玉木〉





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