森と生き物、社会と人間
森の中を歩いていると様々な動植物、特に植物たちが目に入ってきます。植物たちだけ見ても本当にいろんな生き方があります。
様々な生き方
周りを見渡すと、背の高いイヌシデの木や、そこそこ高いカエデの木、立派な太さのスギの木が空に向かって伸びています。一方、足元では少しうつむき加減にスミレが咲き、岩の上や木の幹ではコケや地衣類がここだけは譲れないとばかりにしがみつくように生きています。
その生き方は本当に様々です。みんなが高く大きくなることを目指しているわけでもありませんし、かといって横並びに生きているわけでもありません。
ちなみにスミレやタンポポなどの主な草本類は樹木から進化したことが分かっています。「進化」の過程で、大きくなって長く生きるスタイルから小さく寿命が短いスタイルに変わったことにより環境の変化に対応しやすくなって世界中に広がったようです。
進化=より優れたものになること?
さて、「進化」というと「より優れたものになる」という印象がないでしょうか?
たしかに原始的な植物であるコケと、より後の時代に出現したサクラを比べると「大きくなる」といった点や、花を咲かせて昆虫などに受粉させる「他の生き物の利用」といった点ではより優れた性質になったとも言えるでしょう。
一方、前述したスミレやタンポポのように樹木から草本になったことは大きさや寿命の点では劣ってしまったとも見えます。
どうも進化というのは「より優れたものになる一方通行」というよりは、ある環境下においてより生き残りやすく子孫も残しやすい生き方(住む場所、栄養にするもの、夜型・昼型、気温や湿度の高低に対する好みなど)に「変化」することと言えるようです。
生物の生息環境は様々ですし、生き延びて子孫を残すのに有効な方法も様々ですから進化(≒生き方の変化)も多様になって、現在のように非常に多くの生物種が生まれてきたのでしょう。
ニッチ
上記のような生物の生き方を表す概念として、生物学の用語に「生態的地位(ニッチ)」という言葉があります(*)。これは生態系におけるそれぞれの生命(種)ならではの生き方とも言えるでしょうか。
違う生物種はそれぞれ違うニッチを占めています。普段見かける樹木や草本ももちろん、-30℃の世界でも生きていけるトドマツなどの針葉樹、植物なのに光合成をせず菌類に寄生して養分を奪って生きるギンリョウソウなど、すべての生き物がそれぞれ独自のニッチを獲得した結果として存在しています。
ニッチの違いは例えば草食動物が「葉の先をたべるか、根元のほうを食べるか」といった少しの差異でも成り立つようです。
何億年にも渡る進化によってより多くのニッチが開拓されてきた結果が、森の中に生きる様々な植物たちの種類にあらわれているということになるでしょう。
ちなみに動物や菌類など未発見のものも含めたすべての生命の種数は、1億種にものぼると推定している研究者もいます。それだけ様々な生き方があるということですね。
森と人間社会
私は人間の社会も森のようなものだと考えています。一人ひとりがすべて違う種のようなもの…とまではさすがに言いませんが、各地の様々な自然環境、社会・文化・歴史的環境の中で生まれ育ち、多くは社会となんらかの関わり(仕事など)を持ちながら暮らしています。
そのように生き方が千差万別な人々のことが、まるで森の中で暮らす様々な動植物たちのように思えるのです。
以前こんな話をしたときに同僚から「いやいや人間はホモ・サピエンス(Homo sapiens)というただ1種類の生物ですよ(笑)」と言われたことがあります。
たしかにそのとおりなのですが、砂漠や熱帯から北極圏まで暮らし、様々な方法(主にお金という道具を活用して)で食を得て、生きる目的も様々で、時には仲間を何百万人も殺したかと思うと、自らの命を捨てて見ず知らずの人を助けることもあるのが人間です。
そう考えると、人間をひと括りの種として考えるにはあまりにも多様な生き方をしていますし、その私たちが作り出した社会は森以上に複雑なシステムかもしれません。
森の中では、環境と生物が複雑な相互作用を及ぼし合っています。例えば、広葉樹林だからこそ生きていける生命がいる一方、それらの生命たちがその森の環境を作り出している側面もあります。
私たち人間の場合も、一人ひとりの生き方(お金の稼ぎ方・使い方、人生の目標など)は社会の影響を受けつつ、一方で社会のあり方に対して少なくない影響を及ぼしていると思います。
残念ながら私たちの社会には、理想的とはいえない部分がまだまだたくさんあります。実際、私達は仲間同士での殺し合いですら止めることができていません。
しかし、人間は想像力や感性・理性によって人間のことだけでなく他の生命の立場、そして将来の社会・環境のことを考え、自らの生き方と社会のあり方を変えていくこともできる生物です。
人間自身、そしてより多くの生命たちが生き続けていくためにも、社会における私達一人ひとりの生き方、さらに地球における人間という種のポジションはどうあるべきなのか。それらをしっかリ見直して私達のあり方を変化(進化)させるべき時期と状況になっているように感じています。
ちょっと硬い話になってしまいました。でも時にはこんなこともお話しながら一緒に森を歩いてみませんか?
https://sites.google.com/view/morisanpo/
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