真の「見える化」が生産性を変える――あなたの会社の実行力が劇的に変わる

単に理想的・理論的なことだけを並べたてるだけでなく、実際にコンサルタントとして手を動かしている人が書いている印象を受ける。本文でも「戦略二流でも実行一流の会社が生きのこる」と言ってるだけあって、本人も実行することをとても重視している。

見える化の取り組みとしてわかりやすい5Sを基本としながらも、その概念を拡張して見える化全体をカバーするようになっている。私自身は5Sをよく知らずに読んだので、実はそもそもの5Sがこれぐらいの汎用的な概念を含んでいるかもしれない。それはともかく、一口に「見える化」と言っても何をしたらいいかわからない、というケースではまずこの本の5Sの説明を読み、取り掛かれる部分(改善したい問題点)へ適用するやり方を考えるところからはじめられると思う。5Sや見える化を言葉として使っているものの、言葉の意味をしっかりと定義して使っている。特に5Sはそれぞれがわかりやすい標語なので、学級目標みたいに壁に貼られておわり、となり勝ちだと思うが、この本に書かれていることをちゃんと理解して「実行」すればそのような形骸化は起こらないと思う。その意味では実用性は高い。

特に第4章は何度も読み返しながら肝に命じておくべきことが多い。

「改善すべき何か」という問題がなければ見える化も電子化も不要だということを明言している。これはかなり重要な指摘になる。社会の風潮に踊らされて、見える化すること、テレワークをすることそのものが目的となり勝ちだが、そうではないと明言ている。これらの方法は問題を解決するための手段でしかない。極論すれば、完全アナログで問題がないならそれでいい。本文でも完全デジタル化が良いとは言っておらず、個々の事情にあわせてハイブリッドせよと言っている。

何か基準があってこそのマネジメント。その基準を見える形で与えるのが「見える化」ということか。見える化とICT導入は別物だが、やはり見える化によって「何を達成するか」という基準が明白にあってこそ威力を発揮する。システムは単に入れたらいいわけではない。

基準があると、それを中心に考えられるので、問題点へ気付きやすくなる。ただし、適切な基準(指標)が存在していることが前提となる。この指標探しとしても見える化は使えると思う。

2020年ぐらい急に社会情勢が変わったとしても、人は価値観を変えるのは難しい。いわんや組織をば、である。社会的な風潮として電子化やDXが盛んに叫ばれているが、これが意味する本当の狙いや意図を理解しないと逆効果になる。組織を変革するためには現状把握としての見える化が必要不可欠だということがこの本を通して理解できると思う。それこそがDXの最初であり偉大な一歩になると確信させてくれる本だった。


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