COP28にみる日本の影の薄さ
世界有数の産油国アラブ首長国連邦で開催されたCOP28で最も注目されたのは、パリ協定史上初めて温暖化を進める最大要因としての化石燃料の廃止に合意できるかどうかだった。交渉は難航したが、結果として化石燃料を名指しして、エネルギーシステムにおいて転換していくことに合意した。「2050年までにネット・ゼロ(温暖化ガス排出実質ゼロ)を達成するために、公正で秩序だって衡平な方法で、エネルギー・システムにおいて化石燃料を転換していく、この重要な10年にその行動を加速させる」と明記した。2050年までにいわゆる脱化石燃料を実現させ、特に1.5度に気温上昇を抑えるために必須である2030年頃までのこの10年間に行動を加速させる、という文言だ。
今回のCOP28では、パリ協定が合意された2015年には考えられなかった化石燃料を名指ししての削減に合意されたことは、歴史的転換点と言えるのかもしれない。COP28の合意では、太陽光や風力といった再生エネを30年までに現状の3倍に拡大させる目標や、エネルギー効率改善を倍増させることも明記された。約200ヶ国が参加するパリ協定のCOP28の成果文書に入ったことで、化石燃料から再生エネルギーへの転換はさらに加速することが見込まれる。名実ともにエネルギーCOPとなったCOP28は、弱いながらも化石燃料からの転換を象徴する成果を上げたと言えるのかもしれない。
しかしながら、我が国は2035年までの削減目標の策定をどのようにするのだろうか。世界の脱化石燃料や再生可能エネルギーの3倍拡大に貢献する新たな削減目標を作ることが我が国の課題だ。日本は東日本大震災を通して、大きなリスクとコストをはらむ原子力発電の危うさを経験した。そんな我が国はなおさらのこと、開発余地の多い洋上風力の推進など、本命の再生可能エネルギーに力を注ぐべきなのだが…。COP28で日本は常に消極姿勢でその影は薄かった。それもそのはずだ。日本はそのころ、国会議員の汚い裏金問題で紛糾し、COP28どころではなかった。COP28についての報道よりも、裏金のキックバックの報道の方が優先されたのではないだろうか。
脱炭素の手段としてCOP28の合意文書は原子力を例示したのだが、日本が原子力発電頼みになることは選択肢にはならない。日本は重大な自然災害の多い国であり、東日本大震災によって福島第一原子力発電所がどういう状況になり、その処理水に絡んで他国からもどれだけ非難されていることだろうか。原発の建設には時間もコストもかかるし、廃棄物問題はいまだに解決しない。頻繁にJアラートが作動する我が国には有事に原発が攻撃されるリスクも顕在化している。しかしながら、日本の政府や経済界を動かす政治家や経営者は高齢者であり、当面の利益を得られる既存の設備の延命にこだわる傾向が強い。次世代や未来を担う子どもたちの将来はout of 眼中なのだろうか。日本は世界の変化から取り残され、未来の利益も損なうことにはならないだろうか。11月まで夏日が続いた昨夏の異常な暑さは、気候危機がすでに現実のものとなっていることの証明だ。
さらに日本を危うくしているのは少子高齢化だ。高齢者の収入は徐々に少なくなり、自宅で生活する時間も長くなり、その分、高齢者一人当たりのエネルギー使用量も多くなることが考えられる。さらに、収入の減少は長年使った機器をさらに大事に使うことを心がけ、省エネ性能の高い危機の買い替えを鈍らせる。日本は気候変動と高齢化という2種類の非常に大きな変化と課題に直面しているのだ。
大きな分岐点に立たされている日本の社会の現実を前にして、政治家が裏金問題を起こしている場合ではない。気候変動も高齢化も決して他人ごとではない。時は待ってくれない。日本の社会そのものに大転換が必要だ。まさに「いつやるの? 今でしょ!」だ。