「学校閉鎖」解除のタイミングは新学期で良いのか? 新型コロナの感染拡大防止に与えた効果は(Wezzy2020.03.28掲載)

世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルス対策として、教育に関する施策が様々出てきています。私がいるミシガン州でも、大学の全ての授業がオンラインになりました。もともと豪雪地帯ということもあり、冬季に授業がオンラインになる日もあったので、大きなトラブルもなくスムーズに移行されています。また、小中学校も閉鎖され、州全体でのロックダウンも始っています。

日本でも大都市のロックダウンの噂はあるようですが、なにより気になるのは学校閉鎖がいつまで続くか、ではないでしょうか?

新型コロナの流行を受け、日本では全国レベルで学校閉鎖の要請が出されたため、何か特殊な事が起こっているかのように錯覚してしまいますが、インフルエンザのような感染症の流行に伴う学校・学級閉鎖は、毎年のようにどこかで起こっていたはずです。

世界的に見ても、西アフリカでのエボラ出血熱の流行は国単位での学校閉鎖を招きましたし、アメリカも季節性のインフルエンザや、2009年に流行した新型のインフルエンザによって大規模な学校閉鎖が起こりました。

では、この学校閉鎖は意味があるのなのでしょうか? 日本では、学校閉鎖が解除されようとしているところですが、本当に我が子を学校に行かせても大丈夫なのかを心配している方も多くいると思います。今回は、学校閉鎖に関する先行研究を分析した「レビュー論文」を中心に、学校閉鎖の効果について見ていきたいと思います。

感染症の拡大防止の効果は…?

結論から言うと「学校閉鎖をすると感染症の拡大が止まるのかどうかはよく分からないが、学校閉鎖をする意味はあるだろう」というものです。

一文の中で矛盾していることを言っているように思われるかもしれませんが、実はそうではありません。学校閉鎖が感染症の拡大を止められたのか否かが分かることはほぼ稀です。なぜなら学校閉鎖はそもそもそんなに簡単な決められるものではなく、決断を下した時点で、既に感染が拡大していて手遅れになっていることが多い上に、実験的に学校を閉めてみることもできないので、学校閉鎖をした効果を確認する手段がほとんど無いからです。

ではなぜ「学校閉鎖をする意味がある」かというと、学校閉鎖を始めることで感染拡大を阻止できるのかはよく分からないものの、学校閉鎖を解除したことで感染が拡大した、ということが確認されているからです。レビューされた論文の中には、学校閉鎖を解除した直後に感染が拡大したことを発見したものがいくつかありました。

二つを総合して考えると、学校閉鎖が感染症の拡大に効果があるかどうかは、それを発動するタイミングと解除するタイミングが重要だという事になります。学校閉鎖を発動するのが遅ければ既に手遅れですし、学校閉鎖を解除するのが早過ぎれば再び感染は拡大してしまうわけです。

論文には、2週間以下の短期の学校閉鎖では、感染抑止に貢献したケースとそうではないケースが混在していました。一方、それ以上の長期に及ぶ学校閉鎖では、感染抑止に貢献したことが明確になっています。

これらを考えると、日本が今回早期に学校を閉鎖したのは英断だと言えるでしょう。特に、ヨーロッパやアメリカで、学校閉鎖が明確に手遅れだった事を考えれば、あれだけ早期に学校閉鎖を勧告できたのは素晴らしいと思います。

しかし、文部科学省の新型コロナウイルス感染症に対応した学校再開ガイドラインを読む限り、学校閉鎖の解除に関しては不安が残ります。なぜなら、学校閉鎖の再導入の判断や学校での感染防止の取り組みを学校や教育委員会に丸投げしているからです。

前述の通り、学校閉鎖解除のタイミングは非常に重要なものである上に、教育政策的に決められるものではなく疫学的に決められなければならないものです。ましてや、新学期の始まりという、疫学的な根拠ゼロで区切りが良い所という判断は安易過ぎると言えるでしょう。学校閉鎖が解除された時に我が子を学校へ行かせるかどうかは、文部科学省の判断よりも少し慎重になった方が良いのかもしれません。

学校閉鎖だけで十分か

もう一点注意したいのが学校閉鎖中の子供の行動です。

学校閉鎖の主な目的は、子供達を家に留まらせることで、子供達の間での感染拡大を防ぐことです。また子供達の間での感染拡大抑止効果程ではないものの、学校閉鎖によって大人への感染拡大も期待することができます。それであれば、なおさら学校閉鎖中は子供達に家で大人しくしていてもらわなければなりません。

では、学校閉鎖をしたら子供達は大人しく家に留まっていてくれるものなのでしょうか? 答えはYesの部分が大きいものの、無視できないほどNoの部分もあります。

2009年の新型インフルエンザ流行期にペンシルバニア州で実施された、1週間の小学校の閉鎖期間中に子供達が何をしていたのかを分析した論文があります。

この論文によると、学校が閉鎖されると、子供達は大半の時間を自宅で過ごしていますが、7割程度の子供達は学校閉鎖中に一日に一度は外出してしまっているのです。その行先は買い物だったり、スポーツ関連だったりと、感染症を拾ってきかねない所に行ってしまっています。

同様の事はアルゼンチンのケースでも確認されており、学校閉鎖中の子供の行動にも注意をする必要があることは、比較的世界共通事項であるようです。

さらに、このペンシルバニア州の論文の発見で恐ろしかったのは、インフルエンザに感染した子供は、そうでない子供よりも病院に行っているのですが、その他の行動に関しては感染していない子供と顕著な違いが無いという点です。つまり、インフルエンザに罹っていたとしても、インフルエンザに罹っていない子供と同程度には外を出歩き回っていて、感染症を拾ってきかねないどころか、逆に感染症を広げてしまう可能性があるという点です。

この事を考えると、学校閉鎖は感染拡大の必要条件ではあるものの、必要十分条件にはならない可能性があります。

東京では学校閉鎖が起こって子供達が渋谷の街に繰り出したというニュースを見ました。大半の子供達がそのような行動をとった場合、学校閉鎖をした意味が大きく薄れてしまいます。低学年の子供よりは、中高生の方が行動範囲も広いですし、繁華街にも繰り出しやすいので注意が必要だと言えます。

その一方で、現在ミシガン州で行われているような学校閉鎖+ロックダウンの場合、子供は親の監視下に置かれるので、学校閉鎖をした意味が出てきます。ちなみに、私が生まれ育ったような田舎の場合、繰り出すような繁華街が無いので、子供から大人への感染は心配がそれほどありませんが、友達の家でみんな集まる、という状況が主になってしまうと子供から子供への感染抑止効果まで怪しくなってしまいます。

ここまでの議論には一つ抜けている点があります。それは教育が感染予防に対して効果を発揮する場合もあるという事です。

かつて私が働いていたユニセフの教育部門では、途上国で感染症が拡大した時に、学校で感染症予防に関する啓発教育が出来るように支援をしています。ただし、学校閉鎖と啓発教育のどちらの効果が大きいのかを比較することは容易ではありません。

さらに、途上国の場合では、親が文字を読めないケースがまだまだあるので、子供が学校で学んだ感染症対策の知識を保護者に伝えるという役割も期待できますが、さすがに日本でそんなことは無いはずですし、学校以外の経路からも感染症対策に関する知識は流れているので、私が経験的に感じている効果よりももっと小さなものになるはずです。

まとめると、学校閉鎖はタイミングさえ間違えず、かつその間の子供の行動をしっかりとコントロールできているのであれば、感染拡大に対して効果的だと考えることができます。しかし、タイミングに関する判断は教育政策的なものではなく疫学的なものであるだけでなく、何となく区切りの良い所で決めて良いものでは決してありません。

リモートワークへの変更などで、子供を学校に預けなくても大丈夫な保護者もいれば、他に預ける人もいないため、早期に学校を再開して欲しいという保護者もいると思います。いまのところ学校が再開される可能性が大のようですが、お子さんの状態や周囲の状況などから、それぞれが判断することも必要になってくると思います。

サルタック・シクシャは、ネパールの不利な環境にある子供達にエビデンスに基づいた良質な教育を届けるために活動していて、現在は学校閉鎖中の子供達の学びを止めないよう支援を行っています。100円のサポートで1冊の本を子供達に届ける事ができます。どうぞよろしくお願いします。