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これ、ガチでガヴァドンじゃん(『白い魔魚』第1話劇伴調査報告)

衝撃の報告

2021年7月12日。『ウルトラマン』(1966)の劇伴音楽(BGM、サウンドトラックともいう)を長年追いかけてきたファン達の間に衝撃が走りました。同7月4日にYouTubeに投稿された動画で、男性が「すごく聞き覚えのあるメロディ」に歌詞をつけて歌っていたのです。

フジテレビで放送された松竹テレビ映画、『白い魔魚』(1965)。『ウルトラマン』の主題歌および音楽を担当した宮内国郎氏の作品リストやCD-BOX「宮内国郎の世界」で見かけた覚えはあるものの、それまでほとんど意識の外にあった作品です。

この動画で歌われているメロディは『ウルトラマン』の“ガヴァドン回”(第14話「恐怖の宇宙線」)で多用されているもので、前半エピソードの未発見BGM代表格です。

『ウルトラマン』劇伴音楽(BGM)について

ここで『ウルトラマン』の劇伴音楽(BGM)について簡単に説明しておきましょう。同作の劇伴音楽は、大まかに

  • 東宝特撮映画『ガス人間第一号』(1960)流用曲

  • 前番組『ウルトラQ』(1966)流用曲

  • 主題歌録音(タイトルB、特捜隊のテーマ他)

  • 第1回録音

  • 第2回録音

  • 第3回録音

  • 最終回録音(未発見)

  • その他「出典不明の曲(未発見)」

に分けることができます。このうち、最後の3つの全体像がよくわかっていないのです。第3回録音は現在残っているもの以外にも続きがあったという説もありますし、私個人は最終回にしか出てこない楽曲のうち少なくとも2曲は最終回用録音ではないと見ています。

それまで前半から中盤のエピソードで使用されている出典不明曲は、実相寺監督回で多用されていることから実相寺監督のオーダーによる追加録音であるとも、宮内氏が過去に担当した作品からの流用曲であるとも言われてきました。

この動画の存在が広く知られたことで、ガヴァドン回の未発見BGMについてはにわかに「『白い魔魚』流用説」が有力となってきました。

ですが残念なことに、前述のCD-BOX「宮内国郎の世界」でも、音楽テープが現存しなかった旨が記されています。数十年間、最先端で『ウルトラマン』音楽を追いかけてきた先人達は、とっくに目星を付けておられたのでしょう。

そして本編を確認しようにも、『白い魔魚』は古いTVドラマゆえに再放送の機会もなく、またビデオグラム化されていないため視聴する手段がありません。

となれば、あそこへ行くしかない……。

いざ、放送ライブラリーへ

そこで、行ってきました。横浜の放送ライブラリーに!

放送ライブラリー(横浜市中区)

ここは、ラジオ・テレビ放送開始以来の様々な番組やCMを収集・公開している施設です。とはいえ、全ての番組が対象になっているわけではありません。歴史上のごくごく一部です。

でも、『白い魔魚』。ちゃんとありました。1話だけですけど。

もちろん録音や録画は禁止。それどころか、スマホや電子機器の操作も許可されていません。紙のメモはOKとのこと。あざっす。俺はそれだけあれば十分です。だって、『ウルトラマン』で流れた映像と音声は全て脳内再生できるんですもの。

というわけで、お待たせいたしました。『白い魔魚』第1話BGMリストをお届けします。果たしてガヴァドンのテーマは使われているのか……?

『白い魔魚』第1話BGMリスト

(ここで振ったMナンバーは単純に流れた順に勝手につけたもので、正式なものではありません。また『ウルトラマン』未発見曲のタイトルはいずれもCD-BOX「宮内国郎の世界」に準拠しています。)

M1…タイトル(5")

「松竹テレビ映画」というオープニングタイトルにつけられた、短い曲です。聞き覚えがありません。松竹のテレビ映画に共通の曲かどうかも知識を持ち合わせていません。違ったかなこれ……雨の中来るんじゃなかったかな……そう思った矢先でした。

M2…オープニングテーマ(主題歌「白い魔魚」)(1'05")

ギャアアアアアアアアアアアア!!!!!! このオープニング主題歌のカラオケ音源、ウー回(第30話「まぼろしの雪山」)のあれェエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!! 「銀嶺を行く」ぅううううううううううううううう!!!!!!!!!!! ハヤタ、アラシ、イデの3隊員がスキーしてるとこぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!

ああああああああああああそんでやっぱり2周目に入って微妙にテンポが走って突っかかるところテープ編集のリピートなんだああああああああああちょっと待ってぇえええ聞いたことないパートに突入したやっっべええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!! 歌詞初めて聞くわ何これぇえええええええええええ!!!!!!!!!!!!

実際の感想よりも9割引きで抑えて書きましたが、耳にした瞬間に上記のような感慨を抱きました。

せっかくの機会ですので、本曲どころか本作BGMがJASRACデータベース上に登録楽曲として存在しないことを確認した上で、様々な事情を鑑み、ここに聴き取った歌詞を記します。なお、動画で紹介されていたものとは一部が異なることも判明しています。

うまく聴き取れなかった部分は[と]で挟んで適当な子音と母音でお茶を濁し、雰囲気のみお伝えします。思い当たる日本語が浮かんだ方はコメント等でご指摘ください。

どうせこんな人を選びすぎるnoteを読みに来た方なら、ガヴァドンのメロは口ずさめるでしょう。ぜひ、歌ってみてください。

主題歌「白い魔魚」

作詩・作曲:宮内国郎 唄:ロミ山田

青空に向かって 飛びたい
[あなたま]を抱いて 飛びたい

さみしさが 胸を打ち
むなしさが 肩に届く
[とちかたるとも]

青空に向かって 飛びたい
[あなたま]を抱いて 飛びたい

松竹テレビ映画『白い魔魚』(1965)オープニング主題歌より

なお最後の「飛びたい」のみメロが違って、上の「ソ」の音4連続です。

ウー回で流れるスキーシーンの曲は以前からガヴァドン回の主題曲との類似性が指摘されていました。筆者も前述の動画を見た瞬間に直感で「……ってことはだよ、『銀嶺~』は主題歌カラオケじゃないの?」と直感した一人でが、その読み通りでした。

これは幸先の良いスタートです。

M3…日比谷の街を歩く竜子(1'00")

「朝と夜の間」ァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!! 子どもたちが工事現場に忍び込むシーンで使われた曲ぅぅうううううううううう!!!!!!!!!!! これガチのドンピシャでガヴァドンじゃんんんんんんんんんんんん!!!!!!!!!!!!!

確証はありませんが、もう間違いないでしょう。こんな堂々と、別作品からの流用が主題歌だのメインテーマだので使われるはずがないでしょう。ほぼ確実に、『マン』#15の流用曲は『白い魔魚』が出典と言えます。

まあ同一メロディの「朝と夜の間」「一番星」「星空」(以上#15不明曲)、そして「銀嶺を行く」(#30不明曲)は『白い魔魚』だとして、残る「暁のつどい」(#15不明曲)と「深海のファンタジー」(#24不明曲)はどうなんだろうか……。楽器編成、特にストリングスの音色は非常に近いし同一セッションと見てるんだけどな……。まあ次だ、次。

M4…公園で待つ種夫(33" F/O)
M5…痛みを訴える竜子(17")
M6…ナンバープレート(4")
M7…竜子の下宿へ向かう種夫(17" F/O)
M8…竜子の下宿にて(19")
M9…吉見の頰を拭う篠宮(14" F/O)
M10…種夫と学友達(44" C/O)

このへんは私が聴く限り、『ウルトラ』での使用例はないです。でも紛れもなく宮内サウンドです。特にM8は『ウルトラQ』のM-108Bを彷彿とさせて懐かしい気持ちになります。

さて、お次は……

M11…竜子を見舞う種夫(52")

暁ィイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!! 来たよ、来ましたよ「暁のつどい」!!!!!!!!!!!!!! やっぱりガヴァドン不明曲って完全に『白い魔魚』じゃん!!!!!!!!!!!!! こうなりゃガマクジラもありそうじゃん!!!!!!!!!!!!! じゃあ自動的に「深海のファンタジー」も『白い魔魚』じゃん!!!!!!!! 裏取れたじゃん!!!!!!!!!!!!

M12…母に手紙を書く竜子(51" C/O)

うっひょぉおおおおおおおおおおおおおおお!!! ガヴァドンのテーマの聞いたことないバリエーション!!!!!! 新アレンジ!!!! 新曲!! 宮内国郎・純正のガヴァドン新曲来たコレ!!!! いや60年前のドラマなんだけど!!!!!

主題歌と共通するメロディの、『ウルトラ』では使用されていない未知のバリエーションです。バイオリンやサックスがメロを奏で、ゆったりとしたテンポで演奏されます。

この使用形態を見るに、主題歌や「朝と夜の間」は言わば“竜子のテーマ”であり、そして「暁のつどい」は“種夫のテーマ”なのではないかと推測しています。もっとも残りの話数も見てみなければわかりませんし、最終的には音楽メニューを見なければ確かなことは何も言えないのですが。

そしてラスト。

M13…ENDブリッジ(19")

これも『ウルトラ』での使用例はなし。ここまでで第1話は終わりです。思いの外、大きな収穫がありました。

見果てぬ夢

主題歌も劇伴音楽も、そして他作品からの流用曲すらも奇跡的にほぼ完全に見つかっている『ウルトラセブン』。それと比較してしまうと、どうしても『ウルトラQ』と『ウルトラマン』は「単体で」「全長を」聴くことの叶わない数々の楽曲達を想って切なくなります。

しかし、「宮内国郎の世界」が発売された2016年以降の8年間でも、「最終回録音M-9、M-10」[1]や「ウルトラマンのテーマA、Bステレオ音源」[2]など、驚くような新発見がありました。

どんなに困難に思えても、決して希望を捨ててはならない。初代マンと、彼に続く歴代のウルトラ戦士達に教わったことを胸に刻み、私も微力ながら『ウルトラマン』音楽の研究に今後も邁進していく所存です。

60周年までには、最終回録音の秘密を解明したいですね。いや、します。してみせます。

文献
[1]…ネコ・パブリッシング「エンターテインメントアーカイブ ウルトラQ/ウルトラマン」p.178、早川優氏・執筆「宮内国郎 『ウルトラQ』『ウルトラマンを奏でた人』」
[2]…TORI氏・著「TORIさんの特撮放談③ ウルトラQ/ウルトラマン のまき Part.Ⅱ」p.41

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