自動操作のその先へ【上級者になるためのTCG練習論】
1 自動操作の獲得
自動操作(自動化、自動操縦、オートメーションなど)が非常に重要であり、獲得すべき技能であることは以前にも書いた。
noteの記事としてはかなり長いので要約すると“練習を重ねて手に入れられる自動操作という技能はミスを減らすうえで非常に重要である”ということ。
何度も練習を重ねていくことで、平坦な道を歩くように自然かつ適切にゲームを進めることができるようになる。自動操作という技能は誰もが手に入れるべき素晴らしい技能であるということだ。
2 自動操作の罠
今回は、自動操作が必ずしも正しいとは限らないという話をしたい。
「いやいや、お前、自動操作は素晴らしい技能だって言ったじゃないか!嘘だったのか!?」と思うかもしれないが、そうではない。自動操作だけでは到達し得ない領域に到達しようという話だ。
自動操作は非常に便利で、TCGをプレイするうえで誰もが獲得すべき技能であることに変わりはない。ただ、万能ではない。
正しいと思い込んでしまうと、その考えを改めるのにはかなりの労力が必要になる。認知バイアスなど自動的な判断では抜け出すことができないものもある。
例えば・・・
論理で間違っているとわかっている場合でも、直観的に生み出される最初のイメージは間違ったものになってしまう。
人間の認知能力に欠陥がある限り、経験から獲得される自動操作に盲従すべきではない。
3 自動操作とプラトー状態
先日読んだ本に“プラトー状態”という単語があったので活用させてもらう。単語としては初めて聞いたが、体感として認識していたある状態を的確に表していた。
MTGプレイヤー的には「一番安いデュアルランドのこと?」となるかもしれないが、ここでいうプラトーとは本来の“高原・台地”の意味で、ある程度の訓練を積んだ際に一定のレベルから上達が停止する状態のことである。
タイピングを例に挙げてみる。最初は人差し指1本で一文字ずつ入力していたのが、両手で入力が可能になり、気付いたらほとんどキーボードを見ることなくスムーズに入力することができるようになる。しかし、その段階から成長することはなくなる。仕事で毎日キーボードを操作していても、それだけで競技タイピングの選手にはなれない。
プラトー状態に至ると、文章を打ち込むのに思考する必要はなく、ほとんど自動で手指は動く。理想的な自動操作は獲得できているが、その時点で成長は停滞してしまう。
自動操作に任せて脳内の意識的な論理思考が停止してしまうことで、次に進むための負荷がなくなってしまう。そこから先に成長するためにはそのための努力が必要になる。
これらの段階について心理学者(ポール・フィッツ、マイケル・ポスナー)は・・・
と名付けたそうだ。
4 プラトー状態を抜ける
この「自律段階」、つまり自動操作状態から脱し、競技的なタイピングの選手になろうとするのであれば、自動操作に流されているだけではいけない。
タイピングだけではない。自動車や自転車の運転、短距離走やゴルフなどのスポーツ、言語の習得など様々な分野でこの現象は発生する。もちろん、TCGにおいても。
「認知段階」や「連合段階」においては、回数を熟すことが重要になる。何度も繰り返すことで、自動操作を獲得して「自律段階」に至るのが先決である。
TCGの場合、ローテーションや新セットの追加により環境の変化が起こり、その度に部分的に「自律段階」から「認知段階」まで引き戻されるため、「認知段階」から「連合段階」を行き来している人がほとんどではないかと思う。
「自律段階」に至ったうえで、それを突破しようとするのはプロプレイヤーなどのごく一部だろう。
5 訓練の量と質
プラトー状態を抜けるには、ただ自動操作に任せるのではなく、意識的に自分の能力を超えるように訓練しなければならない。「自律段階」に腰を据えるのではなく、意図的に「認知段階」にとどまるようにしなければならない。
引き続きタイピングを例に挙げるのであれば、ある文章をタイピングするのに現在30秒かかるとしたら、20秒で完了するなど具体的な目標を設定して練習を行う。ただ漫然と入力し続けるのではなく、自分の限界を超えるための具体的な練習方法を考え、実施し、その結果を見て再度調整を行い、再び実行することが必要になる。20秒でタイピングするための指の動かし方を考え、無意識に指を動かした際の無駄な動きを調べ、表示される文字への認識速度の向上のための思考方法と視線の動きを開発する。
こういった自動操作だけではたどり着けない領域に踏み入るための努力は、人によっては苦しいと感じるだろう。だが、本気で上達したいと思った時には必ず乗り越えなければならない重要な壁である。
6 TCGにおけるプラトー状態
これらの考え方をTCGに当てはめてみる。
まず大半の人は自動操作に至るまで懸命に練習量を重ねていく。この段階では練習の量が重要になる。リアルでの練習に限度があるのであればオンラインでの対戦も活用して練習量を重ねて「自律的段階」に至るだろう。
「自律的段階」に至ったとしても、デッキの変更やメタゲームの変化によって「認知段階」に引き戻されるので、その度に「自律的段階」まで引き戻さなければならない。
一般的には、ある程度安定してこの「自律段階」に留まることができれば中級者と言って良いだろう。
「自律段階」に至りプラトー状態になった人は、タイピングの例のように、漫然とこれまでの練習を繰り返していても上達はしない。単純に同じような選択や判断を繰り返したところで、デッキのポテンシャルの80%引き出すことはできても81%になることはない。練習の量だけでは解決しないため、質を向上させることが不可欠になるのである。
指の動きの無駄や視線の置き方を検証するように、自身のプレイングについて個別具体的に検証していく必要がある。
いつもやっているプレイングや通常検証しないような常識的と呼ばれる判断を疑って、より良い選択肢を生み出していく作業になる。
これらは、通常のプレイ状態における思考ではほとんど生み出されることがない。自動車の運転中にサイドミラーを見忘れたことに気付かないように、自動操作による間違いをゲームの最中に見つけるのは諦めるべきだろう。
そのため、客観的な視点から自分のプレイについて考える必要がある。
こういった基本的な手法だけでなく、相手の対処手段の枚数やタイミングを仮で想定した具体的な状況をイメージして反復練習をしたり、認知の歪みに惑わされないようにプレイに関するデータを収集して判断したりと、様々な方法が思いつく。
※こんな方法が良いとか自分が実践している手法があるという方は、コメントに残していってください。
7 まとめ
今回は、成長が停滞(プラトー状態)しやすい中級者が上級者に向けて歩み出す方法について書いてみた。なるべくMTGに限らずTCG全般に援用できるようにしてみた。
この文章の中で覚えておくべきことは・・・
の3点である。
最後は、この記事の内容に最も合致するダルビッシュ有のあの言葉で締めくくろう。
8 参考文献
今回書いた内容は、以前から体感して考えていたことだったが、イマイチ言語化できていなかった。それが先日読んだとある書籍によりブレイクスルーを与えられたので書き留めてみた。
といっても、その書籍のごく一部、3~4ページ程度の短い部分でしかない。本題から少し離れた枝葉部分に「プラトー状態」や3つの「段階」について書かれていた。
これまで感じていた自分の思考に他者から名前を付けられたことで、一気に脳内の整理が進み言語化ができたので書くに至ったので、一応該当書籍を紹介しておく。なお、何の許可も採っていないし、自分に利益があるわけでもない。
『ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由』ジョシュア・フォア
本の概要は、記憶とは何か、どんな歴史や価値があるのかということを記憶力競技に挑戦して掘り下げていくというもの。
その中で、競技としての記憶力に相対する中で直面したプラトー状態の壁について書かれていた。本文で書いたタイピングの例は本書に書かれた内容を少し発展させたものである。
その部分だけでなく、この本のそのものも面白いしすごく読みやすいのでオススメ!
後は、プラトー状態から脱する方法やその先のレベルについても定義や名前が欲しいなあ。
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