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時をこえて

昨夜のこと

右のコーナーキックから馬渡和彰が蹴ったボールは、ニアサイドでの競り合いを経てペナルティーエリア中央に流れる。

「決まるッ…!」

そう思った次の瞬間、眼前のゴールネットが揺れる。
後半に入って21分、湘南ベルマーレに待望の先制点。

メインスタンドに向けて、一人颯爽と走り出す石原直樹の姿を見て、思わず叫んでしまった。

「タケェッ!!!」

これだけだと、重大な観戦ガイドライン違反になってしまうので、「心の中で叫んでしまった」と、念のため補足しておきます。
真偽のほどはさておき。(笑)

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ありし日の希望

ある晴れた週末の昼下がり。
大学の講義を午前中で切り上げて、原付に乗って平塚競技場に向かい、7ゲートをくぐり、階段を上がりスタンドに出た私は、いつもの場所に陣取る。

見渡すと、観客収容人数の制限はないのに、半分も埋まってなさそうなスタンド。
青いユニフォームやTシャツを身にまとったサポーター。
黄緑はあまり見かけない。
そして応援の中心は、近寄り難いぐらいの熱気が立ち込めていた。(かなりオブラートに包んだ表現・笑)

今度はピッチに目を下すと、相手のディフェンスラインに猛然とチェイシングをかける石原直樹と、相棒の原竜太がいた。

相手のディフェンダーが嫌がって味方にパスを出せば、今度はパスを出された先を追いかける。

とにかく、走る、走る、走る。

今やJリーグで「走るサッカー」といえば湘南ベルマーレことを指しているが、その礎は間違いなく、この2人のそんな姿にあったと思っている。

振り返れば13年も前、2007年のこと。
長い暗黒時代は終わりを告げようとしていたし、相手のDFを猛然と追い回す2人の姿を見て、近い将来、J1に昇格できると希望を持っていた。
特に、前年に9得点を挙げ、この年は12得点を挙げることになる、エースとして成長し始めた石原直樹こと「タケ」と共にJ1を戦えると信じていた。

さて、なぜ石原直樹のあだ名は「タケ」なのか。
それは…。

「ジョッキーの武豊に似ているから」

発祥はよくわからないし、よく見れば、あんまり似てないんだけど(笑)

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10年以上もの間

結論から言えば、タケと昇格することはできなかった。
2007年も、次の2008年も、あと一歩のところで届かなかった。

そして、2008年に18得点を挙げたタケは、その年の12月31日に、当時J1だった大宮アルディージャに移籍していった。

しかし、ベルマーレも翌年の2009年に悲願の昇格を遂げることになり、その後はエレベータークラブと揶揄されるぐらい昇降格を繰り返している。

そんなベルマーレを相手に、タケは何度も立ちはだかってきた。
最初は2010年8月に灼熱の熊谷で行われたアウェイゲーム(写真の試合)だったと思う。その試合で、ゴールを決められた記憶がある。
それからタケは、ユニフォームの色をオレンジから紫、黄色などに変えて、10年以上もの間、何度も何度も立ちはだかってきた。(赤色の記憶はない・笑)
そして、だいたいベルマーレが負けていた。

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時をこえて

月日は流れて昨年の暮れ、2019年12月30日。

私はここ数年間、毎年悩んでいることがある。
それはこのまま来年もサポーター生活を続けていくのかということについて。

それが昨年は結構真剣で、2018年に念願のタイトルであるルヴァンカップ優勝の瞬間を現地で観戦し、とてつもない達成感が出たていたことと、昨年は「あの騒動」があって、最終的にはプレーオフまでもつれたものの、生き残って最後はスタジアムで涙するという結末になり、本当にもう燃えつき感がすごかった。
おまけに昨年は職場で部署異動もして、がらりと環境が変わったので、どうしようかなと真剣に悩んでいた。(つもり)

しかし、この日の午後、手にしたスマートフォンに映し出された湘南ベルマーレ公式サイトを、何度もリロードするほど信じられないリリースが出る。

ベガルタ仙台 石原直樹選手 完全移籍加入のお知らせ

2008年12月31日にベルマーレを離れたタケが、ついに帰ってきた。
ついにタケとJ1を戦えるのだと、私と湘南ベルマーレの新たなステージが始まるのだと、これは運命なのだと…!

そんな都合の良い決意を胸に、すべての迷いは消え去り、”例年通り”やっぱり辞めることなどなく、このクレイジーな世界に再び身を投じていくことになった。

それからはご存じの通り、開幕戦での先制ゴールを皮切りに、昨日の決勝ゴールに至るまで、10年以上の時をこえても湘南のエースとして、タケは活躍を見せてくれている。
とにかくその活躍が、今風に言えば「エモい」なと。(笑)

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ありし日の私へ

10数年前に7ゲートにあったいつもの場所にいる私の隣に、どっかりと腰を下ろして、ここまでにあった数々のことを話してみたら、いったい幾つ信じるだろうか。

あと数年もすれば昇格すること。その代わり、何度も降格と昇格を繰り返すこと。
だけど、3大タイトルの一つを取ることができたこと。
日本を揺るがす大地震が起きてリーグが2か月近く中断したこと、それから10年後には、別の原因でもっと長い中断が起きたこと。

そして、石原直樹のゴールで、J1リーグで鹿島アントラーズに勝つことができたこと。だけどそれは、10年以上あとの話であること。

どれもこれも、信じてもらえないかもしれない。
それほどいろんなことがあった。

だけど今も、制限はあれど、そんな非日常的な日常が続いていることに感謝したい。

最後にひとつだけ、ありし日の私だけでなく、今の私にも信じられないことがある。

それはここ10日ぐらい、少しタチの悪い腰痛に悩まされているということ。(笑)

気持ちは当時と変わってなくても、身体は変化していると思い知らされる。

数日前よりは良くなったので、連休中にはなんとかしたいなあ。

ではでは、また次回。

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