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あっという間に逝ってしまったご利用者様

訪問マッサージの仕事をしていると、色々な傷病の方に出会います。

彼女は、私と同い年の末期癌の女性でした。

ターミナル病棟から出て、マンションで最後の自立した生活をはじめ彼女。
訪問診療、訪問看護、訪問マッサージ、訪問入浴サービス、ヘルパーさんなど、利用できるサービスは、フォーマル、インフォーマルサービスと色々使い、余命宣告されている自分の終の棲家として、一人暮らしを始めたのです。

同市内に自宅はありますが、古い大きな家より、ワンルームマンションの方がすべてのことが手の届く範囲で出来て、便利だったのでしょう。

弊社の訪問マッサージは、当初週1回から週2回にして、施術中は体調を見ながら進めておりました。
しかし、下腹部には腹水がたまり、腰の方まで膨らみが広がっています。両下肢は、パンパンに膨れ上がり、浮腫という言葉では言い表せないくらいになっておりました。
そのため、体重が20Kg以上も増え、歩くのもしんどい状態です。そして、膀胱が圧迫されるため頻尿になったいるのですが、ベッドから降りるのも大変な状態でした。

4月から始めた施術。体調の良い時は、にこやかな笑顔で色々お話をされます。1回の施術で体重が3kg減ったのよ、と嬉しそうにお話になっていた時もありました。

訪問診療の先生と看護師さんと丁度出くわしたとき、彼女は「こんなに大勢の人が私の為に良くしてくださり、私、幸せだわ」と話されていたのが印象的でした。

ある時、アロマのお話になり、ご本人はローズウッドの香りがお好きで、お母様は食欲不振なので、ブラックペッパーのエッセンシャルオイルがよいと話されておりました。

AEAJのアロマセラピストの資格を持っている私は、次回、ハンドマッサージをして差し上げる約束を致しました。

ローズウッドは、リナロールの作用からリフレッシュやリラックス効果が期待できます。そして、免疫力を高める作用もあり、鎮痛作用もあるとされています。

私は、癌の方にはフランキンセンスとの組み合わせが良いと考えておりましたが、香りはその人、その人のその日の体調によっても、使いたいと感じる香が変わりますので、いくつかの精油を持っていき、嗅いで頂いて決めました。

その時は、グレープフルーツと組み合わせました。あまりない組み合わせですが、さっぱりとした香りと落ち着いた香のブレンドがワンルームの部屋中に広がり、私もリラックスできたことを覚えています。

しかし、彼女の腕は、枯れ木のように細く白く、本当にそおっとエフルラージュ(軽擦)で行いました。

「とっても気持ちいい。ありがとうございます。こんなに良くして頂いていいのかしら?〇〇さんと知り合えてよかった」と何度も仰っていただきました。

もう暫く彼女の施術は続くだろうと思われた6月上旬。トイレに行くのが辛くなり、ポータブルトイレを前日に入れた翌朝。朝のもうろうとした中で、トイレに腰かけようとして態勢を崩し、大腿骨を骨折してしまったのです。

急きょ、近くの病院に入院されましたが、末期のお体の状態から手術はできず、骨折の痛みと発熱で、言葉にできぬ苦しみを味わうことになってしまったのでした。その時、お電話を頂き、近く県の病院に転院するというお話をしてくださいました。「私、二度と戻ってこれないと思うの…」と途切れる声で言われた時、私は言葉に詰まり、何とも答えようがありませんでした。

そして、県立の癌専門のターミナル病棟に転院しました。そちらに入院してからも、一度、私の携帯にお電話がありました。

「あ、間違ってかけてしまったかしら」息絶え絶えにスマホ越しから聞こえる彼女の声。もう、声になっておりませんでした。痛みに耐え抜いて、モルヒネによりもうろうとしている彼女に「頑張って」とは絶対に言えず、「大丈夫ですか」でもなく、でも、かける言葉が見つからず「〇〇です。▲▲さん、声が聞けてよかったです。ご無理なさらずにお大事になさってください」というのが精いっぱいでした。

これだって、「ご無理なさらずに」ってどういう意味!と自問自答してしまいました。

その3日後、彼女は亡くなりました。骨折しなければ、もう少し生きられたのに、との思いもありましたが、それは私の勝手な思いかもしれません。
死は、彼女にとって苦しみからの解放ですから。

唯一の救いは、彼女は少なからず、自分の最期を「こうありたい」との思いから始めた一人暮らしで、幸せを感じる事ができたこと。

彼女を囲んで、笑い声が起きていたあの時間は、かけがえのない時間でありました。

ろうそくの炎が消える前に一度一段と明るさを増し、その後、スッと消えますが、彼女はそのように自分の輝ける時間を自分で作り出すことが出来たのだと。

訪問マッサージというと、高齢者の方々とのお付き合いが殆どですが、今回、同年代の方がご利用者となり、また、一つ勉強をさせて頂きました。

彼女のご冥福を心からお祈りいたします。

                             合掌



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