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夢消防団

「あ、あそこにもまたひとつ」
「よし、こっちは私に任せろ」
そういうと、黒スーツの男は、ある家の窓からこども部屋に忍び込み、寝ている男の子の頭上にホースをかかげ、燃え上がっている夢を「消火」した。それは、その子がパイロットになって空を飛んでいる夢だった。2軒となりの家では、また別の黒スーツが、バレリーナになりたい、という女の子の夢を消火しているところだった。

彼らは夢消防団。こどもたちの夢をパトロールし、無謀だとおもわれる夢は発見しだい消火していく。出動するのは夜だが、ときどき残業として日中も働き、授業中にぼうっと白昼夢を見ているこどもたちの夢も片っ端から消していく。「火消し」ならぬ「夢消し」だ。
あ、今日もあの子はあんな無茶な夢を見ている。やれやれ、また消しに行かなくては。夢消防団があらわれた町では、こどもたちの顔から、どんどん輝きが失われていった。
「これだけしらみつぶしに夢を消していけば、無謀な夢を見て、大人になってそれがかなわず傷つくこともなくなるだろう。ふう、今日もよく働いた。この仕事はまさに人助けだ」消防団員たちは満足げに黒い笑みを浮かべる。彼らの正体がお分かりだろうか。そう、かつて夢をあきらめた大人たちだ。

ところが、別の町では、いくつになっても夢いっぱいの大人たちが暮らしていた。他の町で夢消防団によって消された夢は、実は夢救助隊によって密かに収集され、ほかの町でばらまかれ、火を灯されていたのだ。その町の大人たちは、こどもの頃の夢をかなえた者も、かなえられなかった者も、常に新たな夢を描いて、目をキラキラさせて生きている。そんな大人の姿を見ているこどもたちの目にも、もちろん輝きが宿っている。
「ふう、今日もよく働いた。この仕事はまさに人助けだ」白いユニフォームに身を包んだ夢救助隊員たちは、美しい笑みを浮かべ、お互いをねぎらいあった。

S.S


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