Short 15 「さんかく」

今日もご主人様はどこかにお出かけする。
私はそれを静かに見送る。
一緒について行きたい気持ちを抑えて。

ご主人はとてもおもしろい人だ。
私によく話しかけてくれるし、一緒にあそんでくれる。
私はご主人のことが大すきだし、ご主人もきっと私のことが大すきなんだろう。
ほら、今日もおいしいものをくれる。

ご主人様と一緒にいる時間はまるで泡沫のようにあっという間に消える。
それでも、私は待つしかできない。
どこまでも従順にならなければいけない。

今日はご主人と一緒におでかけした。
あそびに行くのかなって思ったけど、こわいところだった。
ほら、しろい服をきた人がまた痛いことをするんだ。
かえって来た時は、ご主人をうらんだけど。
おいしいものをくれたから仲直り。

ご主人様と一緒にいられる時間が、こんなにも楽しいだなんて。
私はいつも大好きを伝えているけれど、きっとこの思いは届いていない。
それでいい、この思いはどこまでも一方通行だから。

「ワン！」
「お、何だ？」
『大好き！』

犬語翻訳機は今日も届かぬ思いを叫び続ける。