【連載第3回】『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』大研究 「パワー・ブローカー」
ドラマシリーズ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』を、アメコミライターの傭兵ペンギン氏に解説していただく本コラム。連載第3回目の今回は、エピソード3「パワー・ブローカー」で再登場したヴィラン、ジモについて解説してもらいましょう!
※この記事ではドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』第3話の内容に触れています。未視聴の方はご注意ください。
文:傭兵ペンギン
ついにジモが再登場
『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』の第3話。予告編から登場していたジモ(ダニエル・ブリュール)と協力体制となり、超人血清の出どころを突き止めるため、物語の舞台は東南アジアのマドリプールへ。
そこで『シビル・ウォー』での一件の後、姿を隠していたシャロン・カーター(エミリー・ヴァンキャンプ)とも合流。彼女は追われる身での生活であったのが長かったからか、S.H.I.E.L.D.のエージェントだった頃とはだいぶ違う雰囲気になっていましたね。
フラッグスマッシャーが使った超人血清の製作者としてウィルフレッド・ネイゲル博士が出てきましたが、こちらは前回紹介した『Truth: Red, White & Black』(未邦訳)でアースキン博士の研究を引き継ぎ超人血清の再現するために人体実験を行っていた人物。年代こそ違えど同じような設定を匂わせていました。
『エンドゲーム』後に人口が急に元に戻ってしまったことによる影響と共にフラッグスマッシャー側の事情や、彼らにパワーを与えたパワー・ブローカーは姿を表さず、謎は深まるばかり。そして突然ワカンダの親衛隊ドーラ・ミラージュのアヨ(フローレンス・カサンバ)も登場して、なんだか大変なことになりそうな予感がしますね……!
マドリプール登場!
今回突然登場した架空の国マドリプールには、ファンとしてはワクワクしましたね。これは1985年の『New Mutants』誌で初めて登場した国で、それ以降、主にX-MEN関連のエピソードには頻出で、特にウルヴァリンと関わりの深い国として描かれてきました。
本来は海賊の隠れ家だった場所という設定で、現在でもドラマで描かれていた通りの無法地帯となっています。高層ビルが立ち並ぶハイタウンと薄汚れて悪いロータウンの2つに別れているというコミックでの設定もあり、ドラマではそのまま描かれていましたね。
そして実はキャプテン・アメリカの宿敵バイパー(『ウルヴァリンSAMURAI』にも登場したキャラクター)が長らく治めていた国でもあるので、このドラマともそこまで遠い関係というわけではなかったりします。
いずれX-MENがMCUに登場したら再び物語の舞台になるかも? その時はぜひ、今の映画『ジョン・ウィック』みたいな雰囲気は残していただきたいですね!
ジモはやっぱり男爵だった!
キャラクターとしては過去作に登場したキャラがガッツリ出て来た回ではありましたが、個人的に一番盛り上がったのはやはりヘルムート・ジモ……いや、バロン・ジモの登場なんですよ!
MCUではジモは『シビル・ウォー』で初登場した元ソコヴィア暗殺部隊の隊長というキャラクターで、ウルトロンとアベンジャーズとの戦いの中で祖国ソコヴィアとそこに暮らしていた家族を殺されてしまったことでアベンジャーズを逆恨みし、その復讐のためアベンジャーズを分裂させようと暗躍した人物でした。
『シビル・ウォー』では復讐に狂いながらも冷静沈着で影のある人物として描かれていましたが、今作では(かなり急に)実はソコヴィアでは男爵(バロン)だった金持ちで、裏社会にも通じる人物であるということが明らかになりました。死んだ妻からのボイスメールを空港のラウンジで聞いていた悲しい男はどこへ……と思った人も少なくないと思いますが、これはかなりコミックでの設定に寄った形。やっぱりジモはバロンでなくっちゃね。
そんなバロン・ジモことヘルムート・ジモのコミックでの設定を語るにはまず、その父であるハインリッヒ・ジモのことを語らねばなりません。ハインリッヒ・ジモもまたバロン・ジモを名乗り、第二次世界大戦中に活躍したナチの天才科学者にしてドイツの男爵。
彼は研究所をキャプテン・アメリカに襲撃された際に、自ら作り出した超強力接着剤「アドヒューシブX」を浴びてしまい、それ以来その時に着用していた紫のマスクを脱げなくなり、キャプテン・アメリカを恨み、数十年後にキャプテン・アメリカとその当時結成されたばかりのアベンジャーズに戦いを挑み続け、結局は命を落としたというヴィラン。
そんなハインリッヒの息子ヘルムートはそんな父の遺産だけでなく復讐心も引き継ぎ、当初はフェニックスと名乗って彼もまたキャプテン・アメリカへ戦いを挑むも、自分が投げたキャプテン・アメリカの盾を受け止められず、キャプテン・アメリカを沈めようと準備をしていた「アドヒューシブX」の中に落ちて顔面が焼けただれてしまい、それからは父と同じ紫のマスクを被って新バロン・ジモとして活動を始めるというヴィラン。
ドラマでは車の中に置いてあって、ジモが突然かぶり始めたあの紫のマスクには、コミックではこんな設定があったのです。ちなみにドラマではなんかマスクをかぶると人格が変わったような感じになっていましたが、あれは父がマスクを脱げなくなったことで人が変わってしまったという設定のオマージュなのか、それとも別の意味があるのかは、今のところ不明。果たしてドラマの中で明らかになるかな……?
またドラマではバロン・ジモになってから毛皮のついたコート(?)のようなものを着るようになりましたが、あれはコミックでバロン・ジモが着用している方に毛皮がついてるクラシックなコスチュームをベースにしたものなのでしょう。MCUは、コミックのデザインを実写化用にアレンジする塩梅が抜群にうまいですよね。
ヴィランチーム・メンバーとしてのジモ
ちなみにバロン・ジモは以降もキャプテン・アメリカの宿敵で居続けるのですが、様々な悪の計略を巡らせたことでも知られ、その中でも偽ヒーローチームの「サンダーボルツ」を生み出したことが有名です。
そのサンダーボルツはアベンジャーズがオンスロートとの戦いで死んだ(と思われていた)頃、バロン・ジモが率いていたヴィランチームの「マスターズ・オブ・イーヴル」にヒーローの格好をさせ誕生したチーム。ジモは自らそのリーダー「シチズンV」として活動していきます。
そしてアベンジャーズの代役のような形で人々からの信頼を獲得したところで、世界を征服しようとするも、サンダーボルツの面々はヴィランではなくヒーローであり続ける道を選び、ジモは裏切られる形となるのですが、そしてそれからいろいろあって最終的にジモもまた世界を救うことの魅力を彼なりの形で解釈し、後にアベンジャーズと共闘した際にはキャプテン・アメリカを庇うなど、ヒーローとしての素質も見せるのでした。
結局のところ、ジモはヒーローになりきることができず、最近は完全なヴィランとなっていきますが、この「サンダーボルツ」周りのストーリーは彼の長い歴史の中でも屈指の面白さなので、ジモのストーリーを読みたいという人はまずは1997年から始まるカート・ビュシークの『Thunderbolts』シリーズをチェックするといいでしょう!(単行本では『Thunderbolts Classic』というタイトルで展開されています)
そのサンダーボルツはジモが抜けた後も活動を続け、あるタイミングではウィンター・ソルジャーがリーダーになったこともありました。歴史も長くいろんなストーリーがありますが、個人的にお気に入りのチームの一つです。
一方、ジモはヴィランとして活躍をしており、5月中旬に邦訳版が発売予定の『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』でも、ファルコンとウィンターソルジャーの前に姿を表します。敵となるのか味方となるのかは……読んでのお楽しみ!
俳優ダニエル・ブリュールの魅力
それにしてもダニエル・ブリュールは本当に素晴らしい役者であることを再確認させられましたね。ぜひジモは死亡による退場ではなく、接着剤を浴びていただいた上で末永くキャプテン・アメリカの敵として活躍していただきたいところ。
コミックの話題からはそれますが、ダニエル・ブリュールと『マイティ・ソー』でおなじみのクリス・ヘムズワースがダブル主演の、F1レース映画『ラッシュ/プライドと友情』(2013年)はダニエル・ブリュールの映画が見たいという人はまず観ていただきたい一本。実在した二人の正反対な性格のレーサーのライバル関係を描いた物語で、F1レースに興味がなくとも熱くなれる良作です。
さて、『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』は全6話の予定なので物語としてはここで折返し地点ではありますが、果たして第4話はどうなるのか。 フラッグスマッシャー、ジモ、パワー・ブローカー、新キャプテン・アメリカ、ワカンダ、一気に広げた風呂敷を畳みきれるのか……! 次回までコミックを読みながら楽しみに待機しておきましょう!
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