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【おしえて!キャプテン】#40『バットマン:マントの戦士』配信決定記念!活動初期のバットマンに迫る!

もう7月も終わりそうな夏真っ盛りのいま、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

さて、明日8/1(木)ですが、Amazonオリジナルのアニメーション作品『バットマン:マントの戦士』シーズン1が、プライムビデオにて独占配信されることはご存知でしたか?


本作では、活動を始めて間もない頃のバットマンが描かれるのですが、今回は、この『バットマン:マントの戦士』配信開始を記念し、コミックスで描かれる活動初期のバットマンについて、ライター・翻訳者の吉川 悠さんに詳しく解説していただきました!


連載コラム40回目です。今回は、Amazon Prime Videoで配信がスタートするアニメーション作品『バットマン:マントの戦士』に関連して、「活動初期のバットマン」というテーマについてお送りします! 

待望のシリーズ『バットマン:マントの戦士』

8月1日に配信されるアニメ―ション作品『バットマン:マントの戦士』、個人的に非常に楽しみにしていたシリーズです。先日発表された予告編は、何度もリピートして見てしまいました。

ゴッサム・シティへようこそ。ここは犯罪が横行し、法を守る市民が絶え間ない恐怖の中で暮らす街だ。悲劇の炎で鍛えられた裕福な社交界の名士ブルース・ウェインは、人間以上でもあり人間未満でもある存在、バットマンとなる。孤軍奮闘する彼はゴッサム市警察や市役所内で味方を得るが、彼の英雄的な行動は致命的で予期せぬ結果を招く。(公式サイトより引用)

このアニメ、ブルース・ティムが製作総指揮をとり、『THE BATMAN ーザ・バットマンー』(2022年公開)のマット・リーヴス監督や、J・J・エイブラムスなど、そうそうたる面々が集まって、1930年代を舞台に活動初期のバットマンを描く……という触れ込みでファンの間では話題になりました。ですが、2021年に同作の製作が発表されたときには、筆者としては実はそれほど期待してはいませんでした。

ところが2022年になって、コミックライターのエド・ブルベイカーが同番組のヘッドライターに就任したというニュースを知って、期待度が一気に上がったのです。

ブルベイカーによるバットマン作品といえば色々ありますが、やはり何と言っても『ゴッサム・セントラル』シリーズ(小社刊)でしょう。”バットマン、フリーク犯罪者たちが暗闘を繰り広げるゴッサムで、警官をつとめるというのはどういうことなのか?を描いた大傑作です。

【流通限定】『ゴッサム・セントラル:真実と欺瞞と』
エド・ブルベイカー、グレッグ・ルッカ[作]
マイケル・ラーク、ステファノ・ガウディアーノ、ジェイソン・アレキサンダー [画]
高木 亮[訳]

ブルベイカーは、2000年から2010年頃にかけて『イモータル・アイアンフィスト』(小社刊)や『キャプテン・アメリカ:ウィンター・ソルジャー』(小社刊)など、ヒーローコミックスで大活躍していましたが、ここ数年はずっとオリジナル作品やTVドラマに集中している様子でした。

『イモータル・アイアンフィスト』
マット・フラクション、エド・ブルベイカー[作]
デイビッド・アジャ[画]
中沢俊介[訳]
『キャプテン・アメリカ:ウィンター・ソルジャー』
エド・ブルベイカー[作]
スティーブ・エプティング、マイケル・ラーク、
ジョン・ポール・レオン、マイク・パーキンズ[画]
堺三保[訳]

特にオリジナルのコミックがどれも傑作揃いで、商業的にも成功していたため、「もうスーパーヒーローものの作品は手がけてくれないだろうな……」と筆者は勝手に思い込んでいたのでした。そこへ、こうした形でバットマン作品に復帰したというニュースを知ったので、番組への期待が急上昇したわけです。

さらに……このコラムを書くためにIMDb*を見ていたところ、9エピソード分の脚本に、なんと、ブルベイカーと『ゴッサム・セントラル』で組んでいたグレッグ・ルッカがクレジットされていました!

*IMDb……「Internet Movie Database」の略称のことで、映画・テレビ番組・俳優など出演者・ビデオゲームなどに関するオンラインデータベースのこと。世界中どこからでも閲覧可能で、ウェブとモバイルを合わせて毎月2億5,000万人以上のユニークビジターを抱えるほどの人気がある。

はい、勝ち確! 約束された神アニメ! もう(個人的な)今期の覇権アニメは確定です!

……と、まあ冗談は抜きにしても、脚本にブルベイカー&ルッカの2人が入っているというだけでも、コミックファンなら要チェックな作品と言えるでしょう。配信が非常に楽しみです。

活動初期のバットマン

さて、ここからは、人気の高いテーマである“活動初期のバットマン”について紹介していこうと思います。

普段の作品に出てくるバットマンは、キャラクターとしてすでに(一応)完成している状態ですが、“活動初期のバットマン”であれば、「バットマンとして完成するまでの過程」を描けるわけですし、お馴染みのヴィランたちとの遭遇を語り直すこともできるなど、様々な物語のポテンシャルがあります。いくつかタイトルを挙げてみましょう。

『バットマン:イヤー・ワン』

『Batman: Year One』

まずこのテーマでもっとも偉大な作品といえば、やはり『バットマン:イヤー・ワン』でしょう。1985年のDCコミック設定全刷新に合わせて発表された、バットマンの一年目を描いたコミックですが、まさに現代のバットマンを定義したと言える作品です。映画『THE BATMAN ーザ・バットマンー』にも、同作を彷彿とさせるシーンがありました。

『バットマン:ゼロ・イヤー』

『バットマン:ゼロイヤー 暗黒の街 (THE NEW 52!)』
スコット・スナイダー[作]
グレッグ・カプロ ダニー・ミキ[画]
高木亮[訳]

続いて、2冊で構成される『バットマン:ゼロ・イヤー』です。同作は、「New52」時代における活動初期のバットマンを描いた作品です。これはバットマンの初登場である『ディテクティブ・コミックス』#27や前述の『イヤー・ワン』の要素を取り込みつつ、リドラーの壮大な陰謀と戦うバットマンの姿を描いた、まさに野心作でした。

また、『バットマン:ゼロ・イヤー』が発表された時、バットマン読者がニヤリとしたのが、バイクに乗ったバットマンが身につけている紫の手袋です。この紫の手袋は、バットマンが『ディテクティブ・コミックス』#27で初登場した時のデザインが元ネタとなっています。

『バットマン:ゼロイヤー 暗黒の街 (THE NEW 52!)』より。
『Detective Comics (1937-2011) #27』

ついでに言うと、刊行当時はTVドラマ『ウォーキングデッド』に登場するバイクとクロスボウを使いこなすキャラクター、ダリル・ディクソンが大人気だったので、それに乗っかった可能性もあります……。

『バットマン:インポスター』

『バットマン:インポスター』
マットソン・トムリン[作]
アンドレア・ソレンティーノ[画]
高木 亮[訳]

お次は『バットマン:インポスター』。こちらは、映画『THE BATMAN ーザ・バットマンー』の脚本に関わったマットソン・トムリンがライターを務めるコミックです。

諸般の事情で映画の脚本にはクレジットされなかったそうですが、制作中に思いついたアイデアをDCコミックスに持ち込んだのがこの作品とのこと。そのため、映画が描いた活動初期のバットマンに非常に雰囲気が近い作品です(世界設定は別物のようですが...…)。

『レジェンズ・オブ・ザ・ダークナイト:マット・ワグナー』

『Legends of the Dark Knight: Matt Wagner』

最後に紹介するのは『レジェンズ・オブ・ザ・ダークナイト:マット・ワグナー』より、同作収録の『バットマン・アンド・マッドモンク』『バットマン・アンド・ザ・モンスターメン』です。こちらの2タイトルは少し毛色が変わっており、バットマンの初期コミックにおける冒険を語り直した作品で、どちらも、初期のバットマン作品に伴うおどろおどろしさを再現した傑作です。現在は作者のマット・ワグナーによるバットマン作品を集めた上記の合本で、2作まとめて読むことができます。

『〜マッドモンク』は1939年の『ディテクティブ・コミックス』#31に掲載されたコミックがベースになっており、恐るべき罠を次々と仕掛ける怪人マッドモンクに挑むバットマンの冒険を扱っています。この悪役のマッドモンクは、バットマンの歴史上で彼が戦った初めてのスーパーヴィランであるとも言われています。

『Detective Comics (1937-2011) #30-31』

現在kindleではDetective Comics #31は、なぜか#30と合本で配信されている。
#31のアイコニックな表紙が見せられなくて残念!

ザ・モンスターメン』の方は1940年に刊行された『バットマン』#1に掲載されたコミックを下敷きにした作品で、バットマンと悪の天才科学者ヒューゴ・ストレンジの戦いを描いたものです。1940年版の方は、まだバットマンの設定が固まり切ってなかった時代に刊行されたコミックなので、バットマンが機銃で敵を撃ち殺す(一部で有名な)シーンが含まれています。

『Batman (1940-2011) #1』

ヒューゴ・ストレンジ教授といえばもう一つ。バットマン誕生75周年を記念して、ブルース・ティムが製作したこちらのショートアニメがありました。

このショートアニメ『バットマン:ストレンジ・デイズ』は1940年の『バットマン』#1をベースに作られたものですが、先ほど紹介した『バットマン:マントの戦士』のビジュアルスタイルを決めるピッチ(プレゼン)としても使われたそうです。

"Batman: Strange Days" - Bruce Timm's Batman 75th Anniversary Short (Official)


Batman: Strange Days Exclusive Clip + Batman 75th (DCAA 210)

ちなみにマッドモンクの話もモンスターメンの話も、オリジナル版を日本語で読むことができました。1989年の映画『バットマン』にあわせて『BATMAN オリジナル・コミック日本語版』(近代映画社)として翻訳された、バットマン誕生50周年を記念した傑作選『グレーテスト・バットマン・ストーリーズ・エバー・トールド』に収録されていたのです。

現代の目で見ると素朴な作りの漫画で、一コマしか出ない謎のゴリラからバットマンが逃げるシーンが突然入ったりするのですが、だからこそ“ナマ”の創造性が感じられます。

しかも、なぜか2010年代になっても店頭で新刊が売られているという本だったので、できることならぜひ探してみてください。筆者にとっては、何度も読み返しなぜ傑作と呼ばれるのか考えることで、その後のバットマンの歴史への理解に大きく役立った本です。


いかがでしたしょうか。初期のバットマンについて語るだけで様々な切り口があることが、お分かりいただけたかと思います。その上で、『バットマン:マントの戦士』には単なるレトロ趣味にとどまらず、1930年代のバットマンが持っていた“ナマ”の創造性を掘り起こすことを期待したいですね。

それでは、明日からの配信に向けて全力で待機しましょう!


◆筆者プロフィール
吉川 悠

翻訳家、ライター。アメコミ関連の記事執筆を行いながらコミック及びアナログゲーム翻訳を手がける。訳書近刊に『スーパーマン:サン・オブ・カル=エル』『デッドプール VS. ウルヴァリン』『エクストリーム・ヴェノムバース』(いずれも小社刊)など。Twitterでは「キャプテンY」の名義で活動中(ID:@Captain_Y1)。


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