【おしえて!キャプテン】#14 映画『THE BATMAN -ザ・バットマン-』公式タイイン作品『バットマン:エゴ』『バットマン:インポスター』を深堀り紹介!
キャプテンYことアメコミ翻訳者・ライターの吉川悠さんによる連載コラム。今回は、3/11(金)公開予定の映画『THE BATMAN -ザ・バットマン-』に先駆けて、2/25に発売される映画公式タイイン作品『バットマン:エゴ』『バットマン:インポスター』の2タイトルを詳しくご紹介いただきます!
新作バットマン映画『THE BATMAN -ザ・バットマン-』公開目前!
連載コラムも14回目になりました。いまアメコミ関連の話題で大きな注目が集まる話題となると、来月3月11日公開の映画『THE BATMAN-ザ・バットマン-』でしょう。
バットマン単体を掘り下げる映画となると2012年の『ダークナイト・ライジング』以来、約10年ぶりの映画作品になります。そこで、今回は先駆けて今月2月に刊行されるバットマン作品2タイトルについて、深掘りしてご紹介しようと思います!
天才クリエイター、ダーウィン・クックの傑作『バットマン:エゴ』
1冊目はダーウィン・クックによる『バットマン:エゴ』です。
ダーウィン・クックは『DC:ニュー・フロンティア』で特に高い評価を得た、天才的ライター兼アーティストです。
『DC:ニュー・フロンティア』では、戦後が終わりアメリカが希望に満ちていた時代、「ニュー・フロンティア」と、スーパーヒーローコミックスの復権の時代「シルバーエイジ」を重ね合わせ、DCコミックスにおけるオールタイム・ベストのひとつと数えられるようになりました。
しかし、残念ながらクックは2016年に53歳でこの世を去ってしまいます。創作に対してなんら妥協がなく、衝突も起こす反骨の作家でしたが、まさにコミック界の巨星が墜ちた日でした。
傑作ぞろいの短編集
今回刊行される『バットマン:エゴ』の原題は『Batman: Ego and other tales(バットマン:エゴとその他の物語)』。タイトルにある通り、本書は表題作の「バットマン:エゴ」だけではなく、DCにおいてクックが手がけた傑作選にもなっています。
今回の収録作品の多くが、『バットマン:ブラック&ホワイト』『ソロ』『ウェンズデー・コミックス』などを企画した伝説のDC編集者マーク・チアレッロと、クックが組んで作られたもの。そのため、メインのDCユニバースの流れから少し離れたところで、クリエイターの才能を存分に発揮させた傑作ぞろいになってます。
表題作「バットマン:エゴ」はブルース・ウェインと“バットマン”の対話を通じて彼の内省を描いた短編です。2020年のDCファンドームが開催されたさいに、『THE BATMAN -ザ・バットマン-』のマット・リーヴス監督がインスパイア元のひとつとして今作の名前を挙げていました。
さらに本書には、クックがこよなく愛した名作犯罪小説『悪党パーカー』シリーズへのオマージュになっている「キャットウーマン:セリーナズ・ビッグ・スコア」も収録されています。
非情な犯罪者の世界で一発逆転を狙うセリーナ(キャットウーマン)が、クセ者たちの様々な思惑が交錯する中で大仕事に挑む、スリルあふれるノワール作品です。
この2編以外にも『バットマン:エゴ』には様々な短編・カバーイラストが収録されていますので、ぜひ手に取っていただき、巨匠ダーウィン・クックの技を感じ取ってください!
ダーウィン・クックのおすすめ作品
またクックのDC以外で手がけた作品では、マーベルでは『Spider-Man's Tangled Web』誌の#21が特にオススメです。
クリスマスのトラブルに巻き込まれるスパイダーマンの姿を、ジャック・カービーのファンタスティック・フォーにオマージュを捧げつつ描いた作品です。
さらにクックのDC作品を追求したい方には、一部『バットマン:エゴ』と収録作品がかぶっていますが、『Graphic Ink: The DC Comics Art of Darwyn Cooke』もお勧めです。
そして彼の全キャリア中の最高傑作と自分が信じる、コミカライズ版『悪党パーカー』シリーズも、ぜひいつか手に取っていただきたいところです。自分は特大愛蔵版を所有しているのですが、まさに珠玉の一冊です!
全世界同時発売の公式タイイン作品『バットマン:インポスター』
今回、もう一冊ご紹介する『バットマン:インポスター』は、単行本が世界同時発売という異例のタイトルです。
ライターのマットソン・トムリンは、生まれて間もない頃に1989年のルーマニア革命が起きて、アメリカに引き取られたという数奇な出身の脚本家。その背景をいかし、映画『マザー/アンドロイド』の監督・脚本を手がけています。
実はトムリンは、『THE BATMAN -ザ・バットマン-』の脚本執筆にも参加していたそうです。しかし参加したころには脚本の大半が完成していたため、映画本編にはクレジットされなかったとのこと。しかし、その作業中に湧いてきたアイデアを基にDCコミックスに企画を持ち込み、出版にこぎつけたのが、今作『バットマン:インポスター』というわけです。
映画と同じ世界かははっきりしませんが、そういった背景から雰囲気やイメージは共通しているようですね。
かつてないほどのリアルなバットマン
本書『バットマン:インポスター』で描かれるのは、活動3年目のバットマンです。今回登場するバットマンはひたすらリアル。神出鬼没に見えて、実は街じゅうに隠したバイクやワイヤーを使っており、何か正義を為したと思っても、その社会的影響で大事な味方を失ってしまう。普段見ているバットマンの姿と比べても、かなりつらそうです。
今までも「バットマンをリアルに描こう」という試みは色々とありましたが、今作のバットマンのリアルさはかなり例を見ないものとなっています。そうしたリアルな世界のバットマンが、ヴィランがいたとしてどう対処するか? 本当に人を助けるとはどういうことか? その答えを示すラストシーンには胸を打つものがあります。
そして今作のもう一つの見所は、『ジョーカー:キラー・スマイル』『シークレット・エンパイア』(共にヴィレッジブックス刊)などで知られるアンドレア・ソレンティーノの手がけるアート。暗く、イメージを喚起するスタイルがリアルなバットマン世界とマッチする作品になっています。
『THE BATMAN -ザ・バットマン-』の公開前の予習にもよし、鑑賞後改めて噛みしめるために読むもよし、素晴らしい出来のコミックですので、ぜひ手に取ってください!
今回ご紹介した本
◆筆者プロフィール
吉川 悠
翻訳家、ライター。アメコミ関連の記事執筆を行いながらコミック及びアナログゲーム翻訳を手がける。訳書近刊に『コズミック・ゴーストライダー:ベビーサノス・マスト・ダイ』『スパイダーマン:スパイダーアイランド』(いずれも小社刊)など。Twitterでは「キャプテンY」の名義で活動中(ID:@Captain_Y1)。