新たなる「インフィニティ」サーガを目撃せよ! 三部作の見どころを解説
全アメコミファン必読のクロスオーバー三部作『インフィニティ・カウントダウン』(発売中)、『インフィニティ・ウォーズ』(2022年12月22日頃発売)、『インフィニティ・ワープス』(2023年2月16日発売/一部流通限定)。その刊行を記念して、同シリーズの翻訳者である石川裕人氏の解説をお届けします。往年のアメコミファンも、映画やドラマをきっかけにアメコミに興味を持った皆さんも、話題の大作をぜひ手に取ってみてください!
文:石川裕人(アメコミ翻訳者)
※本記事は『インフィニティ・カウントダウン』と『インフィニティ・ウォーズ』の解説書を編集部で再構成したものです。一部、作品の内容に触れている箇所があります。
『インフィニティ・カウントダウン』
年に一度のクロスオーバー大作がマーベルの恒例となって久しいが、マルチバースの破壊と再生を描いた超大作『シークレット・ウォーズ』(2015)以降は、再度の超人同士の内戦がテーマの『シビル・ウォーⅡ』(2016)、秘密結社ヒドラの全米制圧を描いた『シークレット・エンパイア』(2017)と、地球を舞台にした、ある意味で"地に足のついた"作品が続いた感がある。そんな中、大宇宙を舞台に、マーベルのクロスオーバー大作の嚆矢である『インフィニティ・ガントレット』(1991/邦訳は小社刊)の遺伝子を受け継ぐ形で登場したのが『インフィニティ・カウントダウン』と、それに続く『インフィニティ・ウォーズ』『インフィニティ・ワープス』である。
一連のデッドプール作品で知られるジェリー・ダガンがライターを務める本作は、同じく彼がライターを務めた『オールニュー・ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』誌(途中で『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』に改題)の後を受ける形でスタートし、各々の事情に振り回されるメンバー達の葛藤をはじめ、彼らのライバル的存在のノヴァ・コァ、敵対するラプター兄弟団など、様々な要素が引き継がれているが、中でも最も注目すべき点は、『シークレット・ウォーズ』直前に消滅した「インフィニティ・ストーン」の復活だろう。ソウル、マインド、パワー、タイム、スペース、リアリティと、宇宙を統べる6つの力を司るインフィニティ・ストーンと、それらを嵌め込んだ「インフィニティ・ガントレット」は、MCUシリーズで世界的に有名になったが、コミックスの劇中ではマルチバースの崩壊阻止に用いられた挙句、失敗して粉々に砕け散っていた。本作では、そのインフィニティ・ストーンが宇宙の再生と共に復活するのだが、同時に、ストーンとは切っても切り離せないアダム・ウォーロック、その宿敵であるサノスも物語に絡んでくる。ストーン、ウォーロック、サノスと、かのジム・スターリンが手掛けた初代「インフィニティ」三部作(ガントレット、ウォー、クルセイド)の中核を成す三要素がそろった上に、ガーディアンズやノヴァらも加わるのだから、本シリーズは21世紀版の「インフィニティ」三部作と呼ぶに相応しい作品だと言えるだろう。
『カウントダウン』では、宇宙各地で発見されるインフィニティ・ストーンを我が物とすべく殺到する各勢力の衝突、ソウルストーンへの異様な執着を見せるガモーラに翻弄されるガーディアンズ、ストーンの行く末をさらなる高みから見つめるアダム・ウォーロックといった複数のドラマが同時進行しており、それらが一つに収束する『インフィニティ・ウォーズ』への期待を煽っているが、複数のドラマを象徴するようにアーティストも、マイク・オールレッド、マイク・デオダート、マイク・ホーソーン、アーロン・キューダーと4人が参加しており、多彩なアートを楽しめる点も、一種の"お祭り"であるクロスオーバーらしい。数々の『デッドプール』作品で知られるジェリー・ダガンは、『ノヴァ』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』と、過去の担当作の流れを汲んだ上で、さらに多くの要素を盛り込んでいるが、少々詰め込み過ぎて、説明不足な面も否めない。ただ逆に言えば、それほどまでに変化に富んだ物語だとも言え、新たな「インフィニティ」三部作を目指す意欲の表れだとも言えよう。
『インフィニティ・ウォーズ』〜『インフィニティ・ワープス』
『インフィニティ・カウントダウン』では、激しい争奪戦の末、6つのストーンがそれぞれ異なる持ち主の手に渡るまでが描かれた。6つのインフィニティ・ストーンが登場した以上、今後は、かつて名作『インフィニティ・ガントレット』で描かれたように、誰が全てのストーンを一手に握り、何を願うのかに焦点が移っていくが、本作『インフィニティ・ウォーズ』は、『〜ガントレット』を強く意識した上で、ひと捻りを加えた展開を見せる。『〜ガントレット』でストーンを手にしたのは狂えるタイタン人サノスで、愛する死の女神デスのために、6つのストーンを嵌め込んだインフィニティ・ガントレットで宇宙の全生命の半分を消し去ってみせた。本作でサノスの役割を果たすのは、前巻では名前のみが登場した新キャラクター、レクイエムになる。
現状の世界に絶望したレクイエムの望みは、世界の完全なる再生であり、目的はサノスとは大きく異なっているものの、その過程でサノス同様、生命の総数を半減させる手に打って出る。本作と同じ2018年に公開され、記録的な大ヒットとなった映画『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』でもおなじみになった、いわゆる「指パッチン」だが、ライターのジェリー・ダガンも、『〜ガントレット』『〜ウォー』と2回も繰り返されたシーンを再三なぞるような野暮ではない。極めて独創的な方法で半減策を実行に移すのだ。もちろん、その方法は本編を読んでのお楽しみだが、ダガンが編み出した方策は思わぬ副産物をもたらす。ある意味、本シリーズ最大の見どころとも言えるアイデアで、この手があったのかと誰しも膝を打つに違いない。
『インフィニティ・ガントレット』を下敷きに、アイデアを縦横に膨らませたダガンの手腕の冴えは、キャラクターの演出でも際立っている。前作の中心人物だったアダム・ウォーロック、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーに代わってストーリーを回していくのは、前作では思わせぶりな登場に留まったロキである。冒頭でロキは、なぜ自分の物語はいつも同じような展開で、いつも自分の敗北で終わるのかと、スーパーヴィランの宿命をメタ的に嘆いてみせるが、本作で何度も登場する「世界は変わった」という言葉の通り、物語が進むにつれ、ロキは従来の悪役のイメージを凌駕する意外性を幾度も発揮してみせる。その変貌ぶりはマーベル・コミックスそのものの変化を実感させ、物語のパターンを崩してでも、魅力的なキャラクターを追求する時代が到来したのだと実感させられる。
変化に富んだダガンのストーリーを支えるのは、アメリカンコミックス伝統の重量感のあるタッチが持ち味のマイク・デオダート。1990年代にデビューした彼も今ではすっかりベテランだが、変わらぬパワフルなアートを披露してくれている。
さて、21世紀の「インフィニティ」三部作は、ストーリー的には『インフィニティ・ウォーズ』でひと段落がつくわけだが、本作の“見どころ”の部分を抽出した『インフィニティ・ワープス』が次に控えている。マーベルのマニアならマニアであるほどに楽しめる文字通りの娯楽作、ぜひご期待いただきたい。
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