『デーモン・デイズ』日本語版刊行記念! 桃桃子スペシャルインタビュー
世界が注目する日本人アーティスト、桃桃子(ピーチ・モモコ)。2021年のアイズナー賞で最優秀カバーアーティストに選ばれただけでなく、マーベル期待の新鋭作画家を集めた「ストームブレイカーズ」の一員に選ばれるなどして快進撃を続ける彼女は、どのようなキャリアを辿ってきたのでしょうか。本人がアートとストーリーを手がけた話題作『デーモン・デイズ』の日本語版刊行を記念して、特別インタビューを実施しました。
取材:中沢俊介(『デーモン・デイズ』翻訳者)
編集・構成:三浦修一(編集部)
アディ・グラノフとの出会い
──いわゆる「アメコミ」の世界で桃子さんのお名前をよく見かけるようになったのは、2020年頃だったと思います。当時、たくさんのバリアントカバーを手がけていらっしゃいましたね。桃子さんはどのようにしてアメコミ業界でお仕事をするようになったんでしょうか。
桃子:2015年に、初めてロサンゼルスのコミコンに参加したんです。その時にアメコミの世界に関わるようになり、コミッションを通じてファンの方と交流することで、どんどんのめり込んでいきました。その当時は、まさか自分がコミックを描くことになるなんて思っていませんでしたけどね。
──どのような流れでマーベルなどのメインストリームの出版社に関わるようになったのでしょうか?
Yo(桃桃子マネージャー):2017年に雑誌『ヘビーメタル』の40周年記念のためにイラストを描いてほしいという依頼をいただいて、ロサンゼルスで開催された個展に参加したんです。そこで桃子のイラストが関係者の目に留まって、本格的に出版業界に関わるきっかけになりました。
桃子:当時は業界内で認知もされていなかったんですが、地道に活動を続けていくなかでアディ(・グラノフ)さんに出会ったんです。彼が以前から私の作品をInstagramで見てくれていたそうで、東京コミコンで初めてお会いした時に私が「絵を描かれているんですか?」と聞いたら「アイアンマンの仕事をしてます」と自己紹介されて、驚いたのを覚えています。そこからだんだんアディさんと仲良くなっていって、編集長のC.B.(セブルスキー)さんを紹介していただきました。
Yo:アーティスト同士のつながりがゆっくりと広がっていったんです。
イラスト制作の流れ
──バリアントカバーの制作はどのような流れで行うんでしょうか?
桃子:出版社からそのキャラクターの資料をいくつかいただいて描く、という感じです。細かい設定を提示されることはあまりなくて、いただいた資料をもとにイメージを膨らませて描いています。
──1カ月に20作ほどバリアントカバーを手がけていらっしゃる時もありましたね。1作品の制作にどれくらい時間がかかるものなんでしょうか。
桃子:1作品につき、3日から4日くらいですね。2〜3作品を同時進行していた時期もありますし、ものによっては3日かからない場合もあります。ちなみに制作には水彩絵の具と色鉛筆を使っています。
──『デーモン・デイズ』に関してお話を聞かせてください。桃子さんはライターと組まずに、日本の漫画家に近いスタイルでイラストとストーリーを手がけておられます。「ライターと組んでほしい」というオファーはなかったんですか?
桃子:そういうオファーはなかったですね。というのも、マーベルでコミックを描くという話が来た時、最初に「ライターなしでやりたい」というお願いをしたんです。
Yo:実は2018年頃、桃子がマリコ・ヤシダというキャラクターに興味を持って、彼女を主人公にした30ページのコミックを自主制作したんです。シカゴのイベントに参加した時、C.B.さんと彼の部下であるリッキーさんに「これを描きたいんです!」と言ってその本を渡しました。それから2年経って、正式に『デーモン・デイズ』のオファーをいただきました。ちょうど桃子がストームブレイカーズに選ばれたのと同じタイミングでしたね。
桃子:言葉で説明するより、実際に描いたものを見ていただいたほうが早いと思ったんです。
──(自主制作のコミックを見ながら)たしかにここまで完成した作品を見せられたら、マーベル編集部が「ライターは必要ない」と判断するのにも納得です。ところで桃子さんがマリコ・ヤシダに興味を持ったきっかけはなんだったんでしょうか?
桃子:まず日本人の自分がコミックを描くなら、日本人のキャラクターのほうが描きやすいと思ったんです。マリコはウルヴァリンというキャラクターがいるからこそヒロインとして輝くんですが、同時に自分のカラーを反映しやすい人物だとも感じました。『デーモン・デイズ』のまり子を10代という設定にしたのも、思春期というふわふわした年代のほうが自分の感情を込めやすいという理由からです。
──そんな理由があったんですね。
桃子:『デーモン・デイズ』より前に、トレーディングカード用にマリコのイラストを描いた時も「鎧のデザインをアレンジしていいですか?」とマーベルに聞いたらOKが出たりしたので、そういう意味でも自分のカラーを出しやすいなと思ったんです。そのイラストを描きながら、『デーモン・デイズ』のイメージが湧いてきました。
かわいらしさとダークさのバランス
──桃子さんの作品からは、アングラカルチャーや尖った表現からの影響を感じるのですが、アメコミ界ではメインストリーム中のメインストリームであるマーベル作品とのバランスはどのようにとっていますか?
桃子:そもそも私の作品は「死」をモチーフにしたものが多くて、そういう作品を見るのも好きなんです。作品を描くなかで、人体の傷の描写とか自殺行為を匂わせる演出を入れたりすると、編集部から「ちょっとやりすぎだから、表現を変えてほしい」と言われたりもします。そういう制約はありますが、その中で自分のスタイルを崩さずに表現できるよう努めています。
──桃子さんは『チェリー・ポップタルト』のバリアントカバーやTOOLのポスターも手がけていらしたりして、かわいいイラストの中にもセクシーさやダークな毒っけがあるのが魅力だと思います。
桃子:ありがとうございます。そういう表現は昔から好きなので、アメコミの仕事をしつつも、自分らしさは失わないように意識しています。
脚色担当者やレタラーとの共同作業
──今回、セリフのアダプテーション(脚色)をザック・ダヴィッソンさんが手がけていますね。ザックさんとの制作プロセスについて聞かせてください。
桃子:まず、ざっくりとしたセリフを書き込んだラフをザックさんに渡します。それをザックさんが海外の読者に伝わりやすいように修正してくれます。
Yo:ザックさんはマーベルの歴史にすごく詳しくて、マーベルファンなら気づくであろう小ネタを桃子の作品の中に入れてくれるんです。例えばクヤ(ナイトクローラー)が登場する時の“BAMF”という擬音とかがそうですね。
桃子:そういうザックさんやレタラーのアリアナ(・マハー)さんのサポートがあって、私のコミックがマーベルのファンに伝わりやすくなっていると思います。あと、日本の漫画と比べてアメコミはセリフが多い傾向があるんですが、私はセリフで説明するよりも絵の描写で伝えたいタイプなので、極論するとセリフはいらないと思っているくらいなんです。もちろん必要最低限のセリフは入れるんですが、ザックさんがそれに肉付けして、わかりやすい英語にしてくれました。ザックさんに「このキャラクターはおしゃべりな性格だから、もっとセリフを増やしたら?」と提案してもらったりもするんですけど、『デーモン・デイズ』のキャラクターは台詞回しよりも衣装やキャラクター同士の関係性で成り立っていると思っているので、そこはザックさんと相談しつつバランスをとっていきました。
Yo:『デーモン・デイズ』に関しては、1話から3話までは特にセリフがかなり少なめだったんです。桃子がザックさんとの作業でアメコミの描き方を学んでいくなかで、4話と5話、その続編である『デーモン・ウォーズ』以降はセリフが増えていきました。
桃子:私は日本で漫画家として活動せずにいきなりアメコミの世界に入ったので、慣れないことが多いなかで皆さんに助けていただいています。
影響を受けたクリエイター
──桃子さんが影響を受けた漫画家やアーティストについて教えてください。
桃子:高校生の時からカネコアツシさんのファンです。なかむらたかしさんのアニメーションにも影響を受けていて、特に『パルムの樹』とか『ファンタジックチルドレン』は大好きですね。キャラクターの表情で感情を伝える演出には影響を受けています。もちろん宮崎駿さん、ジブリ作品も大好きで、子供の頃から教科書のように親しんでいます。私は漫画を読むよりは、画集などでイラストを見るのが好きでした。
──アメコミの仕事をするようになって、意識するようになったアーティストはいますか?
桃子:好きなアーティストはすごくたくさんいます。アディ・グラノフさん、マッテオ・スカレーラさん、ジム・マフードさん、ジェイミー・ヒュレットさん、メビウスさん、ジョー・コールマンさん、フランク・ミラーさん、ビル・シンケビッチさん、デイブ・マッキーンさん、ダニエル・クロウズさん……。たくさんの方から影響を受けています。
──今日は興味深いお話をありがとうございました!
【お知らせ】
2022年11月25日(金)~11月27日(日)、幕張メッセで開催される「東京コミコン」。同イベントの小学館集英社プロダクションブースにて、桃桃子さんのサイン会を実施することが決定! 詳細は「ShoPro Books 海外コミック編集部」公式Twitterアカウントでアナウンスいたします。
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