【おしえて!キャプテン】#43 2024年総まとめ!心に残った海外コミック6選
2024年も残すところ、あと5日!
皆さん、今年はどんな1年だったでしょうか。
ShoPro Books年内最後のコラムは、「おしえて!キャプテン」の吉川悠さんおすすめの海外コミックのご紹介です。
ぜひ最後までお読みください!
文:吉川 悠
さて、今年も年末が近づいてきました。
2022年、2023年に続き、2024年に読んだコミックから「これは!」と思った6冊を紹介していきたいと思います。引き続き、ランキングにはせず、刊行年度を問わずリストアップしていきます。
なるべく多くのジャンルから紹介していきたいと思いますが、「まだまだこんな未知のコミックがあるんだ……」と思って読んでいただければ幸いです。
【2023年版 総まとめ】
【2022年版 総まとめ】
『Local Man Vol.1 Heartland』
イメージ・コミックスの『Local Man』は近年ヒーローコミック周りで目立ってきた、90年代リバイバルブームの一環と言える作品です。当時、コミック読者だった若者たちが第一線で活躍する作家になった現代だからこそ生まれる作品群ですが、その中でもユニークな試みがされています。
と、このあらすじだけでも気になるのですが、ただの負け犬ヒーローの話で終わらない、驚くべき展開が待ってました。
殺されたヴィランの死体が、1992年の『スポーン』#5でスポーンによって処刑された殺人鬼、ビリー・キンケイドと同じように吊るされていたのです。
そのオマージュ場面を読んだ瞬間、このコミックのコンセプトは「泡沫のように消えていった90年代イメージコミックスのヒーローたちが、そのまま2020年代まで活躍を続けていたら?」ということだと、筆者は感じました。
登場するヒーローたちの多くは実際の90年代には存在していなかったけれど、当時いたとしても全くおかしくないキャラクター造形になっています。また、シャドウホークやサイバーフォース、マレボルギア(メルボージャ)といった、実際に90年代に出版されていたキャラたちのカメオ出演・言及もあります。
当時のコミックに微妙に入り込んでいた宗教臭さ(スポーンなんて、天界と魔界の戦いが主眼だったわけですし)をネタに、クロスジャックが田舎の神父に対して「俺……神に会ったことあるんだよ! 何かすごいクロスオーバーイベント中に!」と教えようとする場面など、当時と現代のコミックにおけるリアリティラインのズレでユーモアを醸し出しているのもうまいところです。
アートやセリフも90年代風と現代風が使い分けられ、過去と現在がうまく交錯するよう演出されていました。
思えば、1992年に『スポーン』を興奮しながら読んでいた10代の読者は、今年は40代からアラフィフになってるんですよね。話の構造と現実を重ね合わせることで読者の心をつかむ、いいアイデアだと思います。
昔と違ってヒーローたちもヴィランたちも作家も読者も「疲れた大人」になった世界で、どんなヒーローが描けるのか?という試みに挑戦したコミックと言えるでしょう。
『DUCKS(ダックス)仕事って何? お金? やりがい?』
『DUCKS』は、Webコミック『ハーク! ア・バグラント』で有名になったケイト・ビートンの自伝的グラフィックノベルです。
『ハーク!』のほうは、単行本がコミックショップの受注カタログに何度も掲載されていたのでタイトルだけは知っていたのですが、ケート・ビートンの作品を読んだのはこの『DUCKS』の邦訳版(インターブックス刊)が初めてでした。
そんな採掘工場で働いた2年間の思い出が、日々の労働のエピソードを積み重ねつつ、あっさりした絵柄でユーモアを交えつつ淡々とつづられていきます。
一方で、作者の視点は非常に複雑です。周りのクソみたいな連中もこの現場に来なければ、ごく普通の男性のままだったのではないか……そう感じるがゆえに、センセーショナルな記事にしようと取材してくる都会の新聞記者も信用ならない。
かといって、現状を訴えて改善を求める記事を封殺しようと足を引っ張る連中には苛立つ...…といった具合に、後書きの言葉を借りると「単純な特徴づけを拒んでいる」ようにも感じられます。
このコミックの先に透けて見えるのは、我々の社会が誰かの犠牲の上に成り立っており、しかもその問題は複雑に絡み合って簡単な解決ができないという現代の抱える矛盾でしょう。バラク・オバマ元大統領が2022年のベストブックの一冊に選んだというのも納得の一冊です。
『Boy Island』
X(旧・Twitter)でちらっと流れてきたアートが非常に衝撃的で、出版されたら必ず読もうと決めていたコミックがこの『Boy Island』です。
あらすじ・内容など一切チェックせずに、いわゆるジャケ買いをしたのですが、読んでみるとFTM*のトランスジェンダー作家による作品で、奇妙な世界に住む奇妙な生物たちの物語を通じて、性別移行と親と向き合うことについての心情を描くコミックだったのです。
あらすじだけでもかなり不思議ですが、読むと非常に寓話的なコミックです。性を扱う内容なので、微妙に下世話なところもあります。
特に印象的だったのは、秩序の妖精がトランスジェンダーの子供を持つ親の気持ちについて滔々(とうとう)と語りつつ、結局は有害な家父長像を脱却できていないことを指摘される場面です。
荒唐無稽でシュールですらあるコミックなのですが、「親」から受ける圧がとても生々しい……。当事者でない筆者でも、その気持ちを想像せずにはいられませんでした。
なお、このコミックは当初は作者のInstagramで一コマずつ投稿されていたので、その気になれば全て無料で読むこともできます(絶対、書籍のほうが読みやすいと思いますが……)。
『Immortal Sergeant』
『バーバラと心の巨人』として映画化され、外務省主催の国際漫画賞最優秀賞を受賞したコミック『アイ・キル・ジャイアンツ』のクリエイター二人が手を組んで、2023年に送り出した新作がこの『イモータル・サージェント』です。もともと期待していた作品ですが、読んでみたらその期待を大きく上回る、エモーショナルなコミックでした。
映画『バーバラと心の巨人』関連リンク
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B07Z4N3K4Y/ref=atv_dp_share_cu_r
上記が同書のあらすじですが、内容はいわゆるバディ物のフォーマットを取りつつ、それぞれのトラウマを抱えた親子が立ち直っていく物語です。
引き摺り回される息子マイケルは、身勝手な父親であるジムを理解できず、疑問をぶつけ続けます。殴り合いにまで至る親子の衝突の果てに、ジムが未解決事件を追う動機が明かされるのですが、これが実に衝撃的なものでした。
そして親子の心が一つになり、ここからいかにもバディアクションとして盛り上がる……という瞬間、そんな安易な展開を許さないアンチクライマックスによって視点はジムに移り、彼の抱える脆さやレイシズムの自覚、そして犯人を追い詰めたときの決断が描かれるのです。
後書きによると、これは原作を担当したジョー・ケリーが自分の父親をモデルにした非常にパーソナルな物語だそうです。それに加えて、アートを担当するケン・ニイムラが、その原作を漫画にするため自分の物語として語り直す過程など、クリエイションの非常に深いところまで解説をしており、大変興味深いコミックスでした。
またレイシストの警官を主人公とする物語を、警察と人種差別の問題が浮き彫りになっている時期(要はBLM問題*)に、発表すべきかを迷ったとも吐露しています。際どい話題を本当の意味でうまく扱い、そしてパーソナルなレベルに落とし込んだ素晴らしいコミックでした。
『Captain America Epic Collection: The Captain』
これは80年代後半の『キャプテン・アメリカ』誌から、ジョン・ウォーカーの初登場と彼がUSエージェントになるまでの流れをまとめた単行本です。『ザ・ユナイテッド・ステイツ・オブ・キャプテン・アメリカ』(小社刊)の翻訳作業のため初めて触れたのですが、実に面白い一冊でした。
スティーブの後釜として登場したジョン・ウォーカーですが、彼は現代のコミックでもなかなか見ない複雑なキャラクターです。
当初はスティーブのキャプテン・アメリカへの反発心を抱いているのですが、政府によってキャプテン・アメリカの役割に就くことでスティーブが受けていた重圧を理解しはじめます。
政治的にも珍しく保守的なキャラクターで、右翼民兵組織ウォッチドッグスへの潜入任務を受ける際に「彼らは中絶、性教育、進化論の授業、ポルノに反対しているんだ」と説明を受け、「俺は基本的にこいつらと同じ立場じゃないか」と悩んだりもします。
それでいて、彼は成長しても思想的な転向はしないところがまた面白い。ですが、ウォーカーはキャプテン・アメリカになるために切り捨てた昔の仲間によって個人情報を暴露され、結果として家族を失ってしまいます。復讐鬼と化した彼は殺人もいとわなくなり、自分を見つめ直したスティーブ・ロジャースとの対決は避けられなくなっていきます。
なかでも個人的に非常に面白いと感じたシーンがあるのですが、ウォッチドッグスが自分の地元で勢力を広げていると知ったウォーカーは一計を案じ、黒人の相棒バトルスター(レマー・ホスキンス)をヌード雑誌のスカウトに変装させ、地元でオーディションを行わせます。
モデル志望者の女性たちが集まったところでウォーカーが乱入し、大暴れすることでウォッチドッグスの信用を得るのですが、差別の底にある「異人種・他民族が俺たちの女に手を出そうとしている」という意識をこんなエピソードでさらっと扱うのが、実に生々しい(ついでに、ジョンの幼馴染がオーディションに参加していたので彼はショックを受けます)。
ジョンとレマーは配信ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』でもフィーチャーされてますが、あれでもまだ「お茶の間にお出しできる」くらいには手心が加えられていたことがよくわかります。
https://marvel.disney.co.jp/drama/falcon-and-winter-soldier
同作は80年代のコミックであるため、現代とは文章量や内容のペースがかなり違うのですが、次回への引きをスティーブやジョンの思索で終わらせるあたりもかなり印象的です。
原作を担当するマーク・グリュンワルドは非常に大きな功績を残したマーベル・コミックの編集者であり、また『キャプテン・アメリカ』誌のライターを10年の長きに亘って務めました。彼の担当した期間は非常に高い賞賛を受けており、後への影響も大きいのですが、その評価の正しさがわかる一冊と言えるでしょう。
『Birds of Prey Vol.1 Megadeath』
「バーズ・オブ・プレイ」はバーバラ・ゴードン(バットガール and/or オラクル)とブラックキャナリーを中心に緩やかに編成されてきた、歴史のあるDCの女性ヒーローチームです。
その最新版の2023年創刊シリーズが非常に高い評価を受けており、コミックファンの先輩から昨年より勧められていたのですが、読んでみると確かによくできたコミックスでした。
タイムトラベラーからの警告を受け、ブラックキャナリーはDC最強の女性ヒーローたちを集めてチームを編成し、救出ミッションを始める……というあらすじで、盛り上がるアクション満載の快作になっています。
バーズ・オブ・プレイというチーム自体、その時々でメンバーが変わるのですが、今回はDCユニバース最強レベルの格闘家であるバットガール(カサンドラ・ケイン)、ブラックキャナリー、ビッグ・バルダ、そしてイメージ・コミックスの「WILD C.A.T.S.」出身のゼロットと、戦闘能力に全振りしたチーム編成に加え、ワイルドカードとしてハーレイ・クインが参加。この危険なキャラクターたちのあいだに発生するケミストリーが非常に楽しい作品になってます。
同書のライターのケリー・トンプソンとアーティストのレオナルド・ロメロは、マーベルでケイト・ビショップを主人公とする『ホークアイ』を刊行していたのですが、かなり凝った見開きいっぱいのアクションを特徴としていました。このシリーズは16号で終わりましたが、その後『ウエスト・コースト・アベンジャーズ』シリーズ(小社刊)へと続いていきます。
そのトンプソンとロメロの二人がコンビとしてDCでデビューしたのがこのシリーズなのですが、シーンを印象的に見せる画面作りの手腕がさらにパワーアップしています。
ブラックキャナリーのアクションシーンでは、伝説のアーティスト、アレックス・トス*の手がけたキャナリーを彷彿とさせる演出があったり、ビッグ・バルダの登場シーンでは、画風やカメラ視点が彼女の創造者であるジャック・カービー風に切り替わったりと、非常に凝ったことをしています。全体的に、ロメロのレトロな絵柄と現代的な激しいアクションのギャップがとてもうまく働いていると感じました。
また、ワンダーウーマンとバルダというDCを代表する戦士ヒーローが対決したり、『ゴッサム・アカデミー』シリーズ(小社刊)から意外なゲストが登場したり……と色々なアイデアが詰め込まれているので、飽きが来ません。スカッとするヒーローコミックをお求めの人向けのオススメの一冊です。
というわけで、今年も印象に残ったコミックをまとめてみました。
やはりコミックは読んでこそ。読めば読むほど面白くなるメディアだと思います。皆さんも、コミックを通じて一年を振り返ってみるのはいかがでしょうか?
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