【おしえて!キャプテン】#41 魔王がいきなり生えてきた! 邪神ヌール特集!
もう季節も秋から冬に近づき、肌寒くなってきた今、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
さて、いよいよ本日から、マーベルの最新映画『ヴェノム:ザ・ラストダンス』が公開中です!
マーベルが誇る人気ヴィラン、ヴェノムのシリーズ最終章ともなる本作の予告トレーラーでは、とあるキャラクターに似た姿が少しだけ映されており、一部ファンの間では大きな話題を呼んでいました。
気になるそのキャラクターとは……宇宙支配を目論む、シンビオートの創造主“ヌル”(コミックスでの表記は「ヌール」)です! まだ、公式サイト等で明確に言及こそされてはいませんが、ほぼ確定情報といっていいでしょう。
しかし、「ヌールとは何者で、どんなキャラクターなのか?」と、思う方も少なからずいらっしゃるはず。
そこで今回、『ヴェノム:ザ・ラストダンス』で登場が噂されているヌールについて、ライター・翻訳者の吉川 悠さんに詳しく解説していただきました!
国内では、10月25日から3日間のみ先行上映が行われ、本日から本公開となる映画『ヴェノム:ザ・ラストダンス』。そのファイナル予告編が先日公開されました。
映像には玉座に座る白髪の人物が現れ、さらに“ヌール”の名前が出てきたので、ファンたちのあいだでは大きく盛り上がっています。そこで、今回はこのヌール(ヌル)について、彼のコミックへの登場をリアルタイムで体験した者だからこそ語れる視点で解説しようと思います!
闇の支配者、虚無の神、黒衣の帝王(キング・イン・ブラック)!
邪神ヌールは、過去の宇宙が滅んでから現在の宇宙が誕生するまでのあいだに存在した虚無の闇、アビスから生まれたという、まさに宇宙的スケールのヴィランです。
ヌールが登場したのは、2018年にスタートした『ヴェノム』上でした。ライターはドニー・ケイツ、アーティストはライアン・ステッグマン、どちらも人気のクリエイターが担当するシリーズです。
実はこの『ヴェノム』、創刊前だというのにライアンが当時Twitter(現・X)で、「調子に乗ったことは言いたかないが、俺たちの『ヴェノム』は…...『ウォッチメン』を超えた!」などという思い切った発言をし、その勢いに押されて購読を開始したのを今でも覚えてます。
そこで当の『ヴェノム』を読んでみたところ、「シンビオート*はずっと過去から地球の神話や歴史に関わってきた。シンビオートの創造主は、この宇宙が生まれる前の虚無を統べる暗黒の邪神だった……その名はヌール! そして、ヌールの使徒として、最凶最悪のシンビオートであるカーネイジが復活する!」という壮大なプロットを提示され、筆者はそのままグイグイと物語の勢いに引っ張られていったわけです。
その頃の正直な感想は、「そんなぁ……2014年の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』で、シンビオートは宇宙のあちこちで正義のために奉仕する種族だったって設定されたばかりじゃん……」でしたが、でもツジツマはちゃんと説明されているし、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』でのエピソードを初めて読んだときも「宇宙を守る種族なら、カーネイジを生み出した責任とってくれよ!」とは思っていたので、それなりに「なんか腑に落ちた!」という気持ちになったのでした。
そもそも元を辿れば、ヴェノムの起源はスパイディが宇宙で拾ってきた
“エイリアン・コスチューム”。そう考えれば、いわゆるコズミック・ホラー路線へと繋がるのも納得の展開だったのです。
マーベル・ユニバースに落ちるヌールの影
いきなり邪神とか言い出した…...という印象を抱いてしまいそうになりますが、既存のマーベル・ユニバースへヌールを導入し、馴染ませるためにとったドニー・ケイツの手法は、なかなか考えられたものでした。
まずは2012年創刊の『ソー:ゴッド・オブ・サンダー』において実際の戦いでも思想の戦いでもソーを追い詰めた強敵、ゴア・ザ・ゴッド・ブッチャーとの関連付けです。
二柱の神々の戦いに巻き込まれて全てを失ったゴアは、共倒れになった神の片方が持っていた黒い剣ーー「漆黒無窮の剣(オール・ブラック)」を拾って“神を屠る者(ゴッド・ブッチャー)”へと変貌を遂げるのですが、その「神の片方」が実はヌールであり、魔剣オール・ブラックはヌールが原初の闇から鍛え上げた武器だった……という設定が、6年ほど経った後の『ヴェノム』誌で語られたのです。
さらに、オール・ブラックを作る際に、ヌールは自分で切り落としたセレスティアルの首を鍛冶場に転用していたのですが、この鍛冶場が、のちにガーディアンズ・オブ・ギャラクシーが本拠地とする宇宙ステーション、ノーウェアになったとも明かされました。ヌールは虚無を生命で埋めようとするセレスティアルズを憎み、終わりのない戦争を目論んでいたわけです。
この他にも、ドニー・ケイツは『ウェブ・オブ・ヴェノム』でシンビオートを巡る物語を補完し、『シルバーサーファー:ブラック』(邦訳版はShoProBooksより刊行)では古代のヌールを出したり、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』にヌールを追うキャラクターを登場させたり...…と、ヌールとの決戦に向けて様々なアプローチを打ち出していきました。
結果、見たこともない大風呂敷を広げた『ヴェノム』は『アブソリュート・カーネイジ』で最初の山場を迎え、『キング・イン・ブラック』(邦訳版はShoProBooksより刊行)でクライマックスへとなだれ込んでいきました。
2018年にコミックに登場したヌールが、3年くらいコミックで活躍し、そして2024年に映画に登場するわけですから、かなりのスピード感ですね。突然生えてきたラスボスにも関わらず、ヌールは近年の新キャラクターの中ではかなり成功した部類と言っていいでしょう。余談ながら、筆者は未プレイですが人気のデジタルカードゲーム、『MARVEL SNAP』でも早々に採用されて強カードとして活躍中だとか……。
闇の神あれば光の神あり
『キング・イン・ブラック』のクライマックスではエディ・ブロックがキャプテン・ユニバースの力を得て、さらにマーベル最強ヒーローたちの力を借りて最終決戦に挑みます。このキャプテン・ユニバース、日本語版コミックの読者だと『スパイダーバース』や『スパイダーゲドン』、またジョナサン・ヒックマンの『アベンジャーズ』などでご存じかもしれません。神秘のエネルギー、ユニ・パワー(またの名をエニグマ・フォース)が、その時の脅威にあわせて適任者を選び、さまざまなパワーを与えることで誕生するというヒーローです。
キャプテン・ユニバースは版権物の『マイクロノーツ』でデビューし、その後『マーベル・スポットライト』で活躍しました(そのため、初登場号を読むのがやや難しくなっています)。
彼のキャッチフレーズは「君がこのヒーローになるかもしれない!」というもので、その言葉通り、一般人を含むさまざまな人たちがキャプテン・ユニバースの役割を担ってきました。
とはいえ、マーベル・ヒーローの中でも目立つ存在とは言い難く、だからこそ、闇の共生生物であるシンビオートと対になるのは、光の共生生物であるエニグマ・フォースであるという指摘には、まさに盲点をつかれました。刊行当時は度肝を抜かれて、持っていたデバイスを落としそうになったものです。
ドニー・ケイツは『コズミック・ゴーストライダー』シリーズ(邦訳はShoProBooksより刊行)や、『ドクター・ストレンジ:ゴッド・オブ・マジック』のように「あるヒーローの要素を取り出して、他のヒーローとマッシュアップすることで生まれるドラマ」を得意としています。その要素の一つとして、今回はキャプテン・ユニバースを取り上げたわけですね。
『キング・イン・ブラック』でも、エディ・ブロックが最強ヒーローの要素を合わせた超・最強ヒーローとして復活しました。子供のような発想ですが、その発想をドラマとして仕上げるあたりが、ドニーの手腕の証でしょう。
ちなみに、この時マーベルは非常に手の込んだこともしていたようです。「キング・オブ・ブラック」全体のプレリュードとして、ヴェノムが誕生する前のピーター・パーカーがシンビオートと結合していた時代を語る過去編シリーズ『シンビオート・スパイダーマン:キング・イン・ブラック』が刊行されたのですが、同誌にかつてキャプテン・ユニバースが戦った敵、ミスター・Eを登場させたのです。
このミスター・Eは、闇で出来たような生物で、彼もまたヌールの眷属と同誌で設定されていました。つまり、キャプテン・ユニバースが『キング・イン・ブラック』に出る伏線はプレリュードで張られていた……いや、そんな伏線を張られても、誰もわからないと思う……。
エディ・ブロックは負け犬じゃない
考えてみれば、エディ・ブロック/ヴェノムというキャラクターは、作中作外の両方で苦労してきたキャラクターだといえます。なにしろ現実世界で13年間もヴェノムの役割を外れ、作中ではボロボロの人生を送ってきました。
そんな、エディの苦悩や奮闘は、以下の作品でも、読むことができます。
『スパイダーマン:ニューウェイズ・トゥ・ダイ』
ダン・スロット、マーク・ウェイド[作]
ジョン・ロミータJr.、アディ・グラノフ[画] 光岡三ツ子[訳]
定価2,310円(10%税込)
ヴェノム・シンビオートをなくしたエディの苦しみが描かれる一編。
『スパイダーマン:ヴェノム・インク』
ダン・スロット、マイク・コスタ[作]
ライアン・ステッグマン、ゲラルド・サンドバル[画] 吉川 悠[訳]
定価 2,640円(10%税込)
こちらは、エディがヴェノムに復帰した頃の話。解説で『アブソリュート・カーネイジ』直前までのヴェノムの歴史をまとめています。
「負け犬」だったエディ・ブロックが、何度どん底に落とされようと、絶望的な状況に陥ろうと、不屈の意思でヒーローであろうとする…...このヒロイズムこそが『ヴェノム』、『アブソリュート・カーネイジ』そして『キング・イン・ブラック』のテーマであったと思います。
だからこそヌールも、エディを絶望させるためにここまで大袈裟なキャラクターになったのでしょう。映画『ヴェノム:ザ・ラストダンス』でも、その圧倒的な存在感が受け継がれているか、見ものですね!
ぜひ、今週末の三連休は、映画最新作とコミック『キング・イン・ブラック』などで、ヴェノムを楽しみましょう!
★最後までお読みいただき、ありがとうございます。アカウントのフォローと「スキ」ボタンのクリックをぜひお願いいたします!