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シンプル構図、モノクロ、スローシャッターで風景写真のひとつの完成型を構築した「マイケル・ケンナ」

「SHOOTING」編集長の坂田です。

代官山ヒルサイドフォーラムで開催されていた「JAPAN / A Love Story 100 Photographs by Michael Kenna」を観ました。

マイケル・ケンナ氏は、世界的に人気のある風景写真家。日本でも風景写真好きの間では、知名度の高い方です。彼は親日家でもあり、北海道を中心に日本各地を訪れて撮影をしています。

展示風景

彼の作品を見て「キレイ」「美しい」と誰しも思うことでしょう。そこには日本の風景系投稿サイトに上がっているようなギラギラした色はなく、静寂な時間が流れています。


会場スナップ

ではなぜケンナ氏の写真を美しいと思うのか、なぜ日本人の琴線に触れるのか。
感覚的な部分を分解して考えてみます。

1. シンプルな構図
2. 奥行きを感じる撮影場所
3. モノトーン(モノクローム)
4. スローシャッター(時間の凝縮)

1. シンプルな構図
どのような撮影場所であれ、彼の写真はすごく整理されていてシンプルな構図が多い。1枚の写真に多くの情報を詰め込み過ぎないので、視点が誘導されやすくその写真の風景に吸い込まれるように見入ってしまう。

メッセージ性を強くするわけではなく、またノイズ的な情報をできる限りそぎ落とすことで、誰もが自分の中に「一つの美のイメージ」を思い描けるような画面構成になっている。

会場スナップ

2. 奥行きを感じる撮影場所
ケンナ氏の作品には「木」「柵」「朽ちた木々」がよく出てきます。あと鳥居(笑)。

遠方に配置されているものもありますが、手前から奥に木や桟橋を入れることで、奥行き感がグッと増します。写真という平面の世界で、彼の写真は手前から無限遠までの広がりを感じる。これは超広角レンズで視野角を広げる手法ではなく、人間が裸眼で見たような焦点距離のまま奥行きを感じさせるので、長くみていても違和感を生じません。

レンズの焦点距離ではなく、構成によって広がりや奥行きを感じさせるのは正統派な風景写真な気がします。

会場スナップ

3. モノトーン(モノクローム)
ケンナ氏の作品は、モノトーンやセピアトーンなどが多い。これは「日本の水墨画」を意識しているからと、様々なところで言われている。

でも日本だけではなく、モンサンミッシェルもノートルダム寺院もモノクロで撮ってます。だから日本で撮る時だけではなく、モノトーンは、彼の作品のベースなんです。

モノクロの良さも、先ほどの話と重なり、「情報をシンプルに整理して提示できる」というメリットがあります。

構図もシンプル、色もシンプル。普段人間はカラーで見ていますし、今はスマホもPC、タブレット、テレビ等、あらゆるモニターの色域や彩度が向上し、豊富な色情報に慣れています。

それゆえ、整理された空間を作ることで作品性や個性が強調され、より作家性を印象づけることができます。何より「見ていて心地よい」とほとんどの人が感じるのではないでしょうか。

Michael Kenna ©Tsuyoshi Kato


4. スローシャッター(時間の凝縮)

これもケンナ作品には欠かせないポイントです。

スローシャッターや長時間露光は風景写真ではよく使われるテクニックであり、技法的に珍しいものではありません。滝の水や水面が美しく流れているのはよくありますね。

日中はなかなかスローシャッターが切りづらいため、ケンナ氏もNDフィルターで入射光量を減らしていたりします。

このポートレート写真もレンズ前にNDフィルターを付けていますね。

技法はさておき、スローシャッターで露光することで、湖や海水面は膜を貼ったような、時には鏡面のような表情になり、細かなディテールが消滅します。さらに長時間露光をすれば、雲や星も流れます。

そうすることで、画面が整理されてよりシンプルになり、見せたい部分にだけフォーカスがきて写真独自の美しさが際立ちます。

構図をシンプルに、色を抑えてシンプルに。スローシャッターでさらに画面をシンプルに。「写真を構成する要素」をできるだけそぎ落としたのが、ケンナ氏の作品です。

冬の北海道は雪に覆われます。

春夏には豊かな自然を感じる北海道。北海道といえば、前田真三さんの美瑛町の写真を思い浮かべる人もいると思います。

冬は雪がそれらを全て覆いつくすことで様々な情報が雪の中に隠されます。それがケンナ氏の作風にぴったりと合致するためか、日本では特に冬の北海道の写真が多いのだと思います。

今はスマホのアプリでも簡単に彩度が上げられ、誰でもドラマチック風な写真が作れます。そういう時代だからこそ、シンプルな彼の作品はより印象に残るのでしょう。

Michael Kenna
1953年英ランカシャー生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・プリンティングで学び、卒業後は米西海岸に拠点を移した。現在はシアトル在住。2022年にはフランス政府から芸術文化勲章「オフィシエ」を授与さ れた。日本では京都・奈良・北海道などの風景写真で知られており、日本をテーマにした写真集も数多く出版している。2019年には45周年記念写真展も東京都写真美術館で開催。多くの欧米、日本企業のCMにも写真が使用されている。
所蔵美術館:ビクトリア&アルバート博物館、フランス国立図書館、サンフランシスコ近代美術館、東京都写真美術館など。
https://www.michaelkenna.com/
https://www.instagram.com/michaelkennaphoto/


https://shooting-mag.jp/

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