電車の中で落ちた恋 #ファーストデートの思い出
「ねぇ、どうしてご飯誘ってくれたの?彼女さん、いなかったっけ?」
そう問いかけられ、僕は一瞬目を逸らしてしまった。
『ミックス』と呼ばれる男女混合・フットサルカテゴリーのチームに入っていた僕はよく、汗をかいた後に皆で居酒屋で仕事の話などで盛り上がって楽しんでから帰宅する、という事が週末の過ごし方だった。
レベルは高く無いので、怪我をしない程度にゆったりと出来る。初心者の女性も気軽に参加でき、SNSなどでもよく募集されている。
チームに入り、半年ほどたった頃だろうか。
「俺、ユキさんの事が気になるねん。」
仲良くしていた連れが酒の入ったテンションで、僕にもたれかかりながらそう言った。
「ユキさんって、大人びてて気高い感じ?けど全く『お高くとまっている』感じでないから、良いんだよな〜」
ユキさんとは、チームによく参加するミカが、何度か連れて来ている友人だ。確かに外見的に綺麗な人。話した事も無いが。
「俺、デートに誘いたいんだけど、どうしても踏み出せないんだよなぁ〜」と、天井を見上げながら彼はこぼしていた。実際に女性の前では黙ってしまうような奴だった。
それから半年近く経った頃だろうか。春になり暖かくなり始めた時期だったと記憶する。いつもの如く酒を飲んでいた時、ミカからLINEで「合流して良いか?」との連絡が来た。ユキさんの誕生日を祝っていたようで、店の近くにいるとの事。
「絶好のチャンスや!話せる〜!頼むで、色々と情報引き出してや?」連れは鼻息交じりに俺の背中をバンバンと叩く。
「任せろよ」
そう言ってユキさんと同じ席に座ったものの、気付けば連れとミカは別の席に座り、他のフットサルメンバーと盛り上がるという始末。
こちらの席はユキさんに興味のある野郎ばかりで途方に暮れそうになったが、連れの為にと己を奮い立たせ、
「来月、飯でも行きません?」
と誘い、野郎たちを敬遠させる事しか出来なかった。
翌週、連れに来月の飯の件を誘うと、
「すまん、彼女が出来たねん!」
と満面の笑顔で報告する始末。先日盛り上がっていた席の女性と良い感じになり、そのままくっついたとの事。
「来月の飯行く予定どうするん?キャンセルなんてしたらミカに何言われるかわからんのやけど、俺。」
「悪いな、宜しく頼むわ!」と笑顔一杯に答える連れに、僕は肩を落とすだけだった。
ユキさんが来るのを、駅のホームで1時間ほど前から待っていた。ここで言うのもあれだが、僕とユキさんが連れ立って歩く事は、外観的にもふさわしく無いとプレッシャーを感じていた。僕は顔が整っている訳でもなく、これまで散々な人生だった上に、2ヶ月ほど前彼女と別れたばかりだった。取り敢えず彼女に粗相が無いようにと思いつつ、心のどこかでは少しでも仲良くなれればと考えていた。
身長が高めで、1つ年上の彼女は仲のいい友人と以外はあまり話さないと聞いていた。
営業で培ってきた『話を引き出すトーク』で今日は進めていこうと考えていたが、アテが外れた。
「どこに住んでるの?」
「フットサルはいつからしてるの?」
「彼女いたんだよね?どうして今日誘ったの?」
質問責めに合い、それに答える事で終始終わった気がする。兎にも角にも、無言が続くような気まずい食事ではなかった。
帰りの電車の中で、彼女は座席に座り僕はその前に立っていた。笑顔で話し続ける彼女に僕は、酒の勢いに頼りながら
「今後もユキさんに、アプローチしても良いですか?」
と頭をポンポンと2回叩いてみた。
それまで余裕一杯だった彼女は急に赤面し、黙って2度頷いた。
綺麗な彼女の、その突然の可愛さに、僕も恋をしてしまった瞬間だった。
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