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【全文公開】 聞き手に「話をもっと聴きたい」と思わせる、1分間スピーチの作り方

私が共同代表を務める産学連携「ユーザー・イノベーション・ラボ」が、2年連続で日本マーケティング学会のベストポスター賞を受賞しました。

受賞できた秘訣の一つに、約250名の参加者の前で行った「1分間プレゼン」があります。

1分間で、いかに「話をもっと聴きたい」と思ってもらえるか、そう考えてプレゼン内容を練り上げました。

今回は、1分間スピーチの原稿を全公開するとともに、相手に「もっと聴きたい」と思わせる5つのポイントを紹介したいと思います。

ベストポスター賞について

「ユーザー・イノベーション・ラボ」は、私が所属する広告会社と法政大学西川研究室が共同で主催している、産学連携の取り組みです。

近年注目を集めている「ユーザー・イノベーション」の世界最先端の研究を企業に伝えるとともに、企業の実践を研究の世界にもフィードバックしています。

(ユーザー・イノベーションについて知りたい方は、先日公開したこちらのコラムに詳しく書いていますので、ぜひどうぞ!)

そんなラボの活動の一環として、毎年10月に行われる日本マーケティング学会のカンファレンスで2年連続で発表を行っています。

昨年に引き続き今年も、約50本の中からわずか5本に贈られる「ベストポスター賞」を受賞しました!

2年連続で受賞するのはとても珍しいそうです。これも、西川先生やラボメンバーのおかげです。

受賞できた要因の1つに、「1分間プレゼン」というものがあります。

学会では、約50本のポスター発表が行われるのですが、限られた時間に全部見るのは不可能です。

そこで、ポスター発表の前に、多くの参加者が集まる会場の壇上で、発表者が1人1分で内容を発表する、ポスターレビューを行います。

ポスターレビューの様子(日本マーケティング学会WEBサイトより)

それを聞いた上で、興味があるポスターを絞り込み、いくつか見たり、話を聞いた上で、最も興味深いと感じたポスターに投票する、という仕組みになっています。

ポスター会場(日本マーケティング学会WEBサイトより)

ですので、最初の1分間スピーチで、参加者の「このポスターは見に行こう」というリストに入らないと、投票以前に、見てもらうことすらできません。

1分間で「もっと話を聴きたい」と惹きつけることがとても重要なのです。

そこで私たちは、ポスター発表の内容だけでなく、1分間スピーチの準備も入念に進めました。

スピーチ作り5つのポイント

スピーチの全文を公開する前に、まずは状況を簡単に説明します。

会場には約250名の参加者が集まっています。

手元には紙に印刷されたプログラムがあり、発表タイトルの一覧が印刷されています。

私たちの発表タイトルは「リードユーザー探索における『ダブルキャリア』の重要性 〜約80名の探索から得た先進類似市場に辿り着くコツ〜」でした。

でも、このタイトルだけだと、どんな発表か分からないですよね?

会場に集まった参加者の多くも、マーケティング関係者とはいえ、同じように「よく分からないな」と思う人が大半だったと思います。

そのような状況の中で行う1分間スピーチの作戦は、大きく2つありました。

1つ目は、知らない用語は一切使わないこと。

タイトルが既にわかりにくいので、それ以上新しい用語を出して混乱させないことを意識しました。

2つ目は、「自分に関係ありそう」と思わせること。

内容の詳細は伝わらなくてもいいので、「なんだか自分と関係ありそうだ」と多くの人に感じてもらうことを意識しました。

そのような作戦のもと作成した1分間スピーチがこちらです。

まずは、スピーチの全文を紹介します。

私たち、ユーザー・イノベーション・ラボでは法政大学の西川先生と、ユーザーと共創しながら製品開発をする方法を研究しています。

今回のポスターセッションでは、新規性のあるアイデアを持っているイノベーティブなユーザーと出会う方法に関する研究成果をご紹介しています。

日用品、食品、飲料メーカーとのプロジェクトを通じて、約80名のユーザー探索の実践を行う中で、なんと、皆さんの中にもいらっしゃるような、「ダブルキャリア」のプロフィールを持つ人を対象者に選ぶことが重要であるという発見をしました。例えばお坊さんであり、かつ臨床心理士の資格を持っている、公務員であり、農家の経験もあるなど、2つ以上の専門性を持つ人がイノベーティブなユーザーに導いてくれることがわかりました。

このような発見を通じて、ユーザーとの共創を容易にし、多くの企業に成果をもたらすものであると考えます。イノベーション、ユーザー共創、製品開発に興味がある方はぜひ見に来てください。

この原稿をゆっくり読むと、約1分になります。

次に、スピーチを5つのパートに色分けしていきます。

順番に1つずつ、解説していきたいと思います。

①身分を明かす

私たち、ユーザー・イノベーション・ラボでは法政大学の西川先生と、ユーザーと共創しながら製品開発をする方法を研究しています。

相手の素性がよくわからないと、話も耳に入ってきません。

まずは、自分たちの身分を明かすことを、1行目に持ってきました。

具体的には、「法政大学」や「西川先生」といった聞き馴染みのある名称が出てくることで、怪しい人ではなさそうだぞ、ちょっと耳を傾けてもいいかも、と思ってもらうようにしました。

②先に結論を伝える

今回のポスターセッションでは、新規性のあるアイデアを持っているイノベーティブなユーザーと出会う方法に関する研究成果をご紹介しています。

2行目は、ポスターの結論を簡単に伝えることに使いました。

ここで意識したのは、難しい専門用語は使わずに、「アイデア」や「イノベーション」といった、多くの人に興味がある言葉を使うことです。

これにより、「もしかしたら自分にも関係がある発表かも」と思ってもらうようにしました。

③具体的な業界名や数字

日用品、食品、飲料メーカーとのプロジェクトを通じて、約80名のユーザー探索の実践を行う中で、

研究の信頼性を高めるために、具体的な業界名や数字を入れました。

書籍や記事のタイトルも「数字を使うと目を引く」と言われます。

同様に、具体的な言葉を入れることで、「ちゃんとした研究のようだぞ」と思ってもらうようにしました。

④キーワードの強調

皆さんの中にもいらっしゃるような、「ダブルキャリア」のプロフィールを持つ人を対象者に選ぶことが重要であるという発見をしました。例えばお坊さんであり、かつ臨床心理士の資格を持っている、公務員であり、農家の経験もあるなど、2つ以上の専門性を持つ人がイノベーティブなユーザーに導いてくれることがわかりました。

今回の発表のキーワードである「ダブルキャリア」だけは、時間を使って強調しました。

また、「皆さんの中にもいるかも」と枕詞をつけることで、自分にも関係があるかもしれないと思わせつつ、「例えばお坊さんであり、かつ臨床心理士の資格を持っている」と具体例を出すことで、「あ、自分よりもだいぶ本格的なダブルキャリアだな」と思ってもらうようにしました。

マーケティング学会には、大学の先生などいわゆる研究者だけでなく、企業で働くマーケターが自己研鑽のために参加している人が数多くいます。つまり、「キャリア」に興味がある人が多いのです。

なので、「ダブルキャリア」を強調することによって、多くの人に関心を持ってもらうことができたと思います。

⑤関連ワードのダメ押し

このような発見を通じて、ユーザーとの共創を容易にし、多くの企業に成果をもたらすものであると考えます。イノベーション、ユーザー共創、製品開発に興味がある方はぜひ見に来てください。

最後に改めて、「こんな人に聴きにきて欲しい」と思うキーワード(イノベーション、ユーザー共創、製品開発)を並べました。


以上が、1分間スピーチで意識したポイントです。

ラボのメンバーに発表してもらったのですが、とてもうまく話してくれたおかげで、ポスター発表にたくさんの方が集まり、活発な議論を行うことができ、ベストポスター賞を受賞することができました。

発表内容は、近日記事になる予定ですので、また後日共有したいと思います。

ビジネスで必要な1分間プレゼン

改めて、1分間スピーチのポイントを紹介します。

①身分を明かす
②先に結論を伝える
③具体的な業界名や数字
④キーワードの強調
⑤関連ワードのダメ押し

今回は、ポスター発表を聴きに来てもらうための1分間プレゼンでしたが、短い時間で要点を伝える場面は、ビジネスの世界でもたびたび登場します。

例えば、スタートアップのピッチコンテストやデモデーでは、1分間プレゼンがよく行われています。

競合と競いながら、1on1で自社サービスを進化させる。その集大成が3カ月の最後に開くデモデーだ。時間は1分間。柴田氏もデセイン氏と、どこに焦点を当てるかプレゼン内容を練った。

プレゼンで相手にする投資家はその業界のプロになる。自社製品の内容は説明せずとも伝わるため割愛し、自分の連続起業家としての経歴などを強調する方針に決めた。1分間に具体的な数値を10個程度交え、投資対象としての魅力をアピールした。

また、社内の経営層へのプレゼンでも、短い時間で伝えなければならない場面もあるかもしれません。

例えば、アイリスオーヤマでは新製品アイデアを社長に、1分程度でプレゼンするそうです。

開発部門の人事評価では、自身が携わった商品がどれだけ売れて利益に結びついたかが実績となる。実績を上げるには新製品のアイデアを出し、大山晃弘社長ら経営陣にプレゼンしてゴーサインを得る必要がある。その時間は1分から3分程度しかない。

いずれの場合も、内容をくどくど話すのではなく、相手の理解度に合わせて内容を絞り込み、「あなたの話をもっと聴きたい!」「あなたに任せたい!」と思わせることが重要です。

そのためには、企画書を作る頭と、1分間スピーチを作る頭を切り替える必要があります。

例えば、映画の番宣は、映画監督ではなく、番宣専門の監督が作るそうです。

それと同様に、企画書(今回の場合でいえばポスター発表)の内容は後でじっくり伝えるとして、まずは相手に「もっと聴きたい」と思わせるための1分間プレゼンを、頭を切り替えて作る必要があります。

そんな時に、今回の5つのポイントが少しでも参考になれば嬉しいです。

※私も参加している武蔵野大学アントレプレナーシップ学部長でもある伊藤羊一さんの「1分で話せ」もおすすめです。

50万部超えとのことで、多くの人が自分の意見をコンパクトに伝えたいと感じているのではないかと思います。

※Twitterでは気になるニュースに一言そえて投稿しています。150文字で書くのも良い練習になっています。


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岡田 庄生 | ブランド戦略コンサルタント
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