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SAFE(Simple Agreement for Future Equity)の米国会計基準における扱いにつて

最近では、円安などの兼ね合いもあり、日本のスタートアップがアメリカに会社を作り、米国の投資家から資金調達を行うケースも増えてきたように思います。

そこでスタートアップのシード期の資金調達手段として近年広く利用されている「SAFE(Simple Agreement for Future Equity)」について会計的な目線で説明していきます。

SAFEは、法律的には株式や社債とは異なり、将来の株式発行時に優先的に転換される契約書ですが、会計上は「必ずしもエクイティ(資本)とはみなされない」ことがポイントです。
以下では、米国会計基準(US GAAP)の視点から、SAFEが「資本」として扱われるのか「負債」として扱われるのか、主な論点をまとめます。


1. SAFEとは?

  • 将来の株式を受け取る権利
    投資家が資金を提供し、次回のエクイティ・ファイナンスやM&Aなどのイベントが発生した際に、一定の条件で株式に転換される権利を得る契約。一般的には、最初のプライスラウンドを転換のタイミングとするケースが多いです。

  • 利息や満期がない
    従来の「転換社債」とは異なり、利息や返済期限を設定しないのが一般的。

利息や返済の定めがないからといって、会計上すぐに「資本」扱いになるわけではありません。US GAAPの考え方では、契約条項の内容(例:将来の現金支払義務や転換価格の算定方法など)により、「負債」か「資本」かを厳密に判断します。

2. 米国会計基準(US GAAP)の該当指針

SAFEを会計処理するうえで、主に以下の基準を確認します。

(1) ASC 480「Distinguishing Liabilities from Equity」

  • 発行体にとって、強制的に現金などの資産を渡す義務(償還義務)がある場合や、「実質的に特定の金額を将来支払う(株式を使ってでもその金額に見合う価値を渡す)義務」がある場合は、負債に計上しなければならない。

(2) ASC 815-40「Contracts in Entity’s Own Equity」

  • ASC 480で負債と決定されない場合、今度は「デリバティブ負債」か、もしくは「自己株式に分類できるか」をチェックする。

  • 株式でのみ決済され、かつ(変動要素を含む場合でも)発行体側が現金支払いを強制されないなど、複数の要件を満たせば「資本」扱いできる。

3. 多くのSAFEは「負債」として扱われる

(1) 実質的に一定の最低価値を投資家に保証している場合

  • たとえば「20%ディスカウント」で転換するSAFEでは、投資家が必ず出資額以上の価値を株式として受け取ることが約束されます。

  • US GAAPでは「特定の金額相当(または最低額)を将来渡す義務があるなら負債」という考え方が強いため、こうしたディスカウントSAFEは負債計上されやすいです。

(2) 企業買収(M&A)などで現金が返ってくる条項

  • 多くのSAFEには、「M&AやIPOなどが起きたとき、投資家が現金を受け取れる」条項があります。

  • 発行企業がコントロールできない事象(買収など)で現金支払い義務が生じると、US GAAP上は資本ではなく負債や「一時的な資本(メザニン)」に分類される可能性が大きいです。

(3) 変動株数の発行条項 & 十分な承認株数の問題

  • 転換時の株式数が将来の株価や評価額で変動する場合、会計上「企業が負担すべき価値を株数で調整する契約」とみなされれば負債として処理されやすくなります。

  • また、必要な株数を確実に発行できるか(承認株数の不足リスクなど)も、自己株式に分類できるかの判断材料です。

4. 実務上の扱いと注意点

(1) 多くのスタートアップでは「負債計上」が主流

  • 現実には、ディスカウントやキャッシュでの清算権など、投資家保護の仕組みが盛り込まれたSAFEが大半。

  • そのため、監査法人などの指導のもと、ほぼ負債(デリバティブ負債)扱いとなるケースが多いです。

  • 負債として計上すると、時価評価による評価損益が毎期P/Lに計上され、企業価値の変動などで収益・損失が大きく振れる点に留意が必要です。

(2) 「資本」扱いを狙う場合のハードルは高い

  • たとえば、将来一切現金で払わず、株式のみで決済されるよう契約を工夫し、かつ投資家に保証するディスカウントやリクイディティ優先権を設けない…など、実質的に純粋なエクイティの形に近づける必要があります。

  • しかし投資家保護の観点から、そこまで譲歩したSAFEはあまり一般的ではありません。

(3) 将来のFASBガイダンスを注視

  • SAFE普及後、実務での混乱や多様な処理があり、FASB(米国財務会計基準審議会)やPCC(Private Company Council)でも議論が続いています。

  • いずれ何らかの簡便的措置や新ガイダンスが出る可能性がありますが、現時点では既存ルールに従い、個別契約の内容を厳密に分析するしかありません。

(4) 開示の重要性

  • SAFEが負債計上される場合、「企業がなぜそう判断したのか」「どのような再評価方法(公正価値評価)を採用しているか」などを財務諸表の注記で丁寧に説明する必要があります。

  • 株主や投資家へも、SAFEは「形式上は株式ではない」「決算上は負債に見える」ことをあらかじめ周知しておくとよいでしょう。

5. まとめ

SAFEはスタートアップにとって資金調達をシンプルにする魅力的な手段ですが、米国会計基準では“ほとんどの場合、負債として認識”されるのが実情です。

  • ディスカウント条項や買収時の現金受取権など、投資家保護機能を盛り込むほど、会計上は負債になりやすい

  • 負債計上する場合、時価評価損益によるP/Lの変動や財務指標への影響に留意が必要

  • 将来のガイダンス変更も視野に入れながら、現状は契約条項を慎重にチェックしつつ、正しく開示することが重要

実務においては、発行企業と投資家双方が契約内容を理解し、あらかじめ「会計上どう扱われるか」「その結果、財務諸表やバリュエーションにどのような影響があるか」を共有しておくことが不可欠です。SAFEだからといって自動的に“資本”になるわけではありません。「どのような条項で契約しているか?」が最大のポイントだといえるでしょう。

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