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唯一無二の川・柿田川

 静岡県沼津市と三島市に挟まれた清水町に日本三大清流の一つとされている柿田川があるのをご存知でしょうか。私はこれまでこの柿田川についてはほとんど認識していませんでした。国道1号線で通りかかった際、柿田川公園という石に刻まれた文字が気になった程度でした。しかし、今回、車で正月帰省の際、実際にこの公園に立ち寄って柿田川が神秘の川であることを知りました。

 柿田川は市街地の近く、国道1号南側の脇からこつ然と地下水が湧き上がり、その湧水だけで川幅が30~40mにもなる立派な川が生まれているのです。その湧水量は、日量100万立米以上と東洋一を誇るそうです。これは、東京ドームの容積である124万立米に匹敵することから、この湧水量の多さに驚かされます。この水源の湧水は、「湧き間」と呼ばれる数十か所から噴出しているそうです。

川底の湧き間(第1展望台より)
旧製紙工場の井跡(舟付場と呼ばれる湧き間)

 柿田川は、延長約1.2kmで狩野川に合流するまでの日本で最も短い一級河川でもあります。源頭部の全細菌数は殺菌済みの水道水よりも小さいくらいの値と微生物学的にみても非常に清澄であるとのことです。昭和58年には「21世紀に残したい日本の自然百選」、昭和60年に「日本の名水百選」、さらに平成23年には「国指定天然記念物」などに選定されています。Wikipediaによりますと、この湧水は約8500年前の富士山噴火による三島溶岩流に浸透し、その先端部から湧き出でたものであるとのことです。国土交通省が行ったトリチウム濃度の分析によると26~28年で湧き上がるという結果が出たそうです。

 この清流は、古くは縄文・弥生時代から生活用水となってきました。1952年(昭和27年)頃までに豊富な湧水を求めてこの地域に工場が進出しました。その結果、水質が悪化して魚が住めなくなるほど環境が悪化したそうです。一方で、1975年(昭和50年)に住民による保護活動が始まり、市民団体によるトラスト運動や清掃運動も行われてきているそうです。清水町ではこの貴重な自然の保護と生活環境への調和を図るため工場の移転や土地の買い上げを進め、そして1986年(昭和61年)に「万民の憩いの地」として「この自然の恵みと美観を後世に継承して親しみ愛される自然公園となることを願い」柿田川公園が建設されたとのことです。その経緯は公園内にある「柿田川公園建設の記」の石碑に刻まれています。

「柿田川公園建設の記」

 柿田川公園には、第一展望台や第二展望台、木製の八つ橋がある散策路、そして水に触れられる湧水広場などが整備されています。また、多くの湧き間や、柿田川の源流から中流にかけての美しい流れと豊かな自然を楽しむことができます。
 第一展望台は柿田川の最上流部であり、川底の砂の動きから水が湧きだしている様子を見ることができます。

第一展望台より中流を望む
川底の湧き間(第一展望台より)

第2展望台では、井戸跡から湧き出す水が見え、高い透明度のおかげで水が美しい青色になっている様子が確認できます。

旧紡績工場の井戸跡(第2展望台より)

木製八つ橋を歩いて公園内を散策すれば、柿田川の中流や豊かな自然を楽しむことができます。

木製八つ橋
柿田川の中流

 柿田川には、固有種ミシマ バイカモ等の湧水環境に依存する貴重な生物が生息・生育する特有の自然環境を有しています。今回は見られなかったですが、カワセミ、アユ、アオハダトンボをはじめとした多くの重要種が生息しています。このいわば唯一無二の美しい川と流域の自然環境を守るために、トラスト運動やさまざまな自然保護団体が提携し、環境保全活動が活発に行われているそうです。そのような活動のおかげで、今回の訪問では言葉に尽くせないほどの感動を味わうことができたと感じています。
 
 今回の訪問を通じて、地道な環境保全活動に対する深い感謝の気持ちを抱きました。また、この貴重な体験を多くの人に伝えるために、自分にも何か支援できることがあればと思っています。皆さんも近くにお越しの際は、ぜひ柿田川公園を訪れてみてはいかがでしょうか。その美しい自然と湧水の魅力を体感してみてください。

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