オールドルーキーに思ったこと

他チームサポーターの知り合いが「今度、サッカーのドラマやるらしいよ」と教えてくれたのは数ヶ月前のことだった。


私は普段、ほとんどドラマを見る習慣がない。たまたまその回は見られたとしても、次の回から見られるか分からないし、じゃあ初めから見なくてもいいかな…という感じで、知り合いにドラマの話をされた時も、「サッカーの」と言われなければ、正直おそらく心にそんなに留まることはなかっただろう。


なんとなく、ものすごく人気があって活躍してる選手を主人公にしたドラマなんだろうなと勝手に思った。でも「サッカー選手のセカンドキャリアをテーマにしたドラマらしい」とどこで知ったのかその知り合いは言った。


現役のサッカー選手ではなく、元サッカー選手のセカンドキャリアにスポットを当ててることに興味を持って、このドラマは見たいと思った。今の私にとってはリアルタイムで見るのは難しい時間帯だけど、Tverで見られることも分かって、どんな内容だろうと楽しみに、この間第一回目の放送を見た。


もしかしたらこれから第一回を楽しみに見る方もおられるかもしれないし、そういう方にとってはこれから私が書く感想はその楽しみを奪ってしまうかもしれません。


主人公の新町亮太郎は37歳の元日本代表のJリーガー。所属してたJ3のジェンマ八王子がある時突然チームごと消滅してしまう。


正直に言うと、ここに関してはドラマならではの話だなと思った。Jリーグにはライセンス制度が取り入れられてて、あまりにも経営不安があるクラブはライセンス自体もらえない。J3に存在しながら、ある日突然社長が練習場に来て「このチームはなくなります」は、おそらくJリーグで現実にはないはず。

でも、ドラマはあくまでもフィクションだから、そこにこだわりすぎてると話に集中できなくなるんだろうな。


その新町さんは、所属クラブがなくなってからも「俺は元日本代表だぞ、すぐに次のチームは決まる。できればJ1がいい」と楽天的に考えてる。でも、実際にはなかなかチームは決まらない。知り合いのJ1クラブの監督に電話しても「うちがお前を獲ると思うか?」と言われてしまう。


このあたりは、競技は違うけど野球で戦力外通告を受けた選手を取り上げた番組でよく見る、次のチームからの誘いをずっと待ってるけどなかなか電話が鳴らない、というシーンを思い出した。

野球とはチーム数も違うし、サッカーはコーチをするにもライセンスが要るし、またいろいろと細かい事情が違うので、同じものとして並べることはできないんだけど。


新町さんは代理人について調べて、ビクトリーという代理人事務所に自分を売り込みに行く。そこでも新町さんは「代理人に頼めばチームはすぐ決まる」と考えてる。だけど、その事務所の人たちから「37歳という年齢では…」「現実を見てください」と言われる。


私は年齢で選手を見ることはしたくないと思う。確かに体力的には、若手のほうが一般的に有利だし、選手としての伸びしろもあるのは分かるけど、年齢だけでこれまでそのチームに貢献した選手を切っていく考え方は私は好きではない。ベテランだからこその視点も大切だし、チームが苦しい時に若手も含めチームを支える存在に大いになるとも感じるから(年齢的には若くても、いつも前向きにチームメイトに声掛けしてチームを支えてる選手もいるのも知ってるし、それこそそこは年齢だけでこういう存在だと決めつけたらいけないけど)。


その一方で、どこのチームも限られた予算でチームを構成していかなければいけない。先々のことも考えて若手も育てていきつつ、ベテランと融合させて結果も残すというのは、ただ応援してるサポーターには分からない大変さもあるだろう。例えば、私がどんなにベルマーレを愛してても、ベルマーレの強化部に入ってやっていけるかというとまた別問題だと思う。


新町さんは代表でも活躍したくらいだから、選手として素晴らしい人だったんだろう。でも、客観的に見て自分を高評価しすぎじゃないかなとは思った。

確かに代表に選ばれてゴールを決めるというのは限られた人にしかできない貴重な業績であるのは間違いない。ただ、日本全国の全員がサッカーを好きなわけでも、サッカーに興味があるわけでもなく、前職が何にせよ社会人として最低限のことができなければ、セカンドキャリアはやっぱり難しいと思う。


前に他競技の元選手が言ってたことがある。「現役の頃は、ずいぶんと年上の人も自分に頭を下げて『サインください』と言ってきた。現役を辞めたらそんなふうに誰も扱ってくれなくなるし、逆に年下の人に自分が頭を下げて仕事を教えてもらわないといけなくなる。プライドが高い人には正直屈辱的だと思う」

自分に自信があって前向きじゃないと、きっとプロ選手は務まらない。だけど、その競技というずば抜けた特技があってそれを仕事にしてるというのは、人として他の人たちより位が高いというわけじゃない。友達みたいに選手に接するなれなれしい人もどうかと思うけど、心の中で一般の人(プロ選手以外の人)を「何だ、この一般人が」と思う気持ちがある選手は、きっとセカンドキャリアで社会人として仕事で人に頭を下げることができない人じゃないかなと思う。


新町さんが「5歳からサッカーしかやってないんです。現役が無理ならコーチになります。解説者になります。サッカータレントになります」と言うシーンがあった。

現役選手もとても責任が重い大変な仕事。だけど、コーチや解説者、サッカーに特化したタレントに、現役選手だった人ならすぐになれるようなニュアンスにも聞こえるそのセリフは、新町さんが現役時代に多少なりとも「自分は一流選手だから他の人より高い場所にいる人間なんだ」と思ってたんだろうなと感じさせられた。

どんな仕事も大変だよ。現役とはまた別の大変さがどんな仕事にもあると思うよ。


プロ選手になる人は小さい時からサッカー中心の生活を送ってきてる人が多い。私もかつてサッカーをしてたから余計に思うけど、プロになろうと本気で思えば、ある程度サッカー漬けにならないと無理だと感じる。

でもそれは、「サッカー以外の人間教育はどうでもいい」ではない。他の子たちが娯楽に費やす時間、遊びに使う時間を将来のためにサッカーに懸けるとか、誘惑に負けずに一途に頑張り続けるというのは確実に必要な要素だけど、それと「サッカーさえできれば、人間性や社会生活に大切なものは欠落しててもいい」という偏った考えはまた別だ。


新町さんが元同僚と「なんか今の仕事には熱くなれないんだよね」と話して共感し合ってる場面にも、いろいろと考えさせられた。

私はサッカー選手になりたかった。選手は無理かなと思い始めてからも、いろんな側面からサッカーと関われる仕事を私なりに模索した。そのどれもが大好きなサッカーとつながりを持てる素晴らしいものであり、どれも尊いと思った。

いろいろ事情もあって、私はサッカーの仕事には就かず(就けず)に今違うことで生活してる。

どんな仕事でも、実際に就けば裏側も見えるだろうし、こんなはずじゃなかったと感じることもあるだろう。でも、そこまで仕事に熱くなれる経験をしたことがない私は、現役時代を熱く語る新町さんをうらやましいと思った。

生活のために、大好きなサッカーを見に行くために、お金を得る手段として仕事をしてる。言葉は悪いけど、どんなにしんどくても生活のために頑張るしかない義務という気もしてる。

だから、新町さんやその元同僚さんのように、人生の中で一回でもそこまで命を傾けられるものの中に身を置けたことはとても幸せでもある気がする。だけど、その幸せを経験したゆえに、他の仕事が熱意を持てないものとして冷めて見えてしまうんだろうか。

仕事に関する幸せとは何なのか、改めて考えさせられるシーンだった。


新町さんが再就職でガードマンをしてる時に、その仕事場の近くにスポーツバーがあって、川崎対FC東京戦(実在する選手やチーム名が出てくるのがまたリアルに感じられた)を放送してる中でサポーターたちが盛り上がってるのを仕事中の新町さんが遠目に見て、「俺何やってるんだろう」と涙を流すところは、新町さんの気持ちを思うと辛くて私も泣いた。


だけど、私がもし新町さんを応援してる立場だったとしたら、新町さんが日本代表だろうがJ1だろうがJ2だろうがJ3だろうが、サッカーに関する仕事をしてようがしてなかろうが、新町さんをずーっと応援するだろうな。

多くの人に名前を知られること、多くの人に自分を知ってもらうことも、プロとして現役生活を送る上で必要という考えも分かるけど、その人たちがいくらその選手の名前を知ってても、ただ名前を知ってるだけで無関心だったり、何かを機に歪んだ形での批判や否定をする側に回ってしまうとすれば、そういう人が100人いるよりも、本気でその人を応援する人が5人いたほうが、その人の人生において大きな価値や意味があることなんじゃないかなと私は思う。


私には、これまでベルマーレで応援してきた選手のみんながいる。ベルマーレに来てくれたから、いてくれるから、応援するのはもちろん自然なことだ。

そして、ベルマーレに在籍してなくても個人的にずっと応援してる大好きな選手もいる。この選手に関しては、湘南地域出身だけどベルマーレに在籍したことはなく、だからこそより思い入れがあるのも事実。

ベルマーレにいたことはなくても、私はその選手を心底応援したいと思うし、プレー面だけじゃなく人間性がたまらなく大好きだ。だからこの選手が将来いつか現役を引退してしまっても(プレーが見られないのは考えただけで辛いけど)、もし仮にその後サッカーから離れて全然違う生き方を選んだとしても、尊敬する気持ちや応援する気持ち、大好きな気持ちは変わらない。だってこれまでも今も、人間性が大好きでこうやって応援してるから。

湘南地域の駅でたまたま出会ったとしても、私がその人間性に惹かれてたのは間違いない。そこにサッカーとか現役とか試合に出てるとかは関係ない。応援するきっかけをくれたのは確かにサッカーではあるし、そこにすごく感謝はしてるけど。


この人を心から応援したいと真剣に思った時、チームの枠を私の場合は越える(もちろんそんな選手は何人もいることはなく、よっぽどこの人は!!と思えた人に限る)。


私自身、ここ数年で選手のセカンドキャリアに前以上に興味を持ってただけに、今回ドラマという(フィクションの)形とはいえ、セカンドキャリアについての番組を見られるのはとてもありがたい。

新町さんのこれからの人生を、第二回目の放送以降も応援していきたいと思う。


ベルサポとしては、新町さんと高校の後輩の矢崎さんのプレーシーンでレモンガススタジアムが出てきたことと、新町さんの代表時代のゴールシーンで秋元さん、坪井さんがチームメイト役で出てきたのも嬉しかった!

秋元さんと坪井さんが元気そうで良かった!


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