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ドブ鼠ヨーロッパ紀行② ブリュッセル (ベルギー編)

「Is here the right place for the bus?」「バス停はここで合ってる?」
Googleマップを頼りにメールに記載された場所へ来ると、若い男性に話しかけられた。同じように大きな荷物を背負い、一人。自分と同じで一人旅に来ているのかもしれない。
「Maybe…」「たぶん…」と答え、近くにあるインフォメーションデスクの場所を教えてあげると「Thank you!」と、笑顔でそちらへ去って行った。
その ”笑顔の訳” が何だか今の僕なら分かるような気がした。




バスという選択


ここはFlix Busのバスステーション。このバスはヨーロッパ全土をほぼ網羅しており(たぶん)、料金もかなりリーズナブル。ネットからすぐ予約でき、割と直前でも取りやすい。
僕も最初はユーレイルパスポートという、簡単に言うと ”ヨーロッパ版青春18切符” みたいなお得に鉄道が利用できるパスを使って旅する予定だったが、Flix Busの存在を知り、調べてみるとこちらの方が安く融通が利きやすかった為直前でバス移動に切り替えた。
結局僕は一部のルートを除き、今回の旅のほぼ全ての移動でFlix Busを使った。
個人的には鉄道でヨーロッパを巡る方がロマンはあるが、とにかく費用を抑えたかった僕は、敢えて泥臭い長距離バス移動を選んだ。

金はないけどヨーロッパを鼠の様に駆け回りたい方は是非使ってみてほしい。ただし欠航したり、遅れることが多い。

この日も相変わらずバカ暑い。周りではバスを待つ人たちが階段で腰を下ろしている。アムステルダムの地元の人もいるんだろうが、見た感じ外からの人が多い気がする。
バスとは言え、これから向かうのはベルギー。全くの違う国。陸路を使って、高速バスで名古屋から東京へ向かうといった感じで国境を越えるなんて何だか奇妙な感じだ。そう考えると地元民が少ないのも何ら不思議ではない。

動かず、ただそこに居るだけで体力が奪われるその場所で、座ってボーッとしていると数分後「FLIXBUS」と書かれた緑色のバスが到着した。待ちくたびれた人々が一斉に立ち上がる。バスのフロント部には「BRUSSELS」「ブリュッセル」の看板。
メールに添付されたQRコードを運転手に見せ、荷物を預ける。指定された席につき、ホッとしていると数分後にバスは動き出した。

アムステルダムの街が車窓を流れてゆく。見覚えのある場所もない場所も。 ”キチっと” 同じ高さで綺麗に並ぶ建物の間を運河が流れる。この地特有の街並みを最後に大切に焼き付けながら、僕はバスに揺られた。

バス停を出て中心部を離れていくにつれ、周りから建物も人も何もかもが無くなっていき、代わりに増えてきたのは ”緑” 自然の景色だった。出発してから30分もすれば周辺はもうすっかり庭園風景となり、穏やかな景色が続く。つまらないと言えばつまらない景色かもしれないが、僕は好きだ。
そんな変わり映えのない外の様子を見ている内、気づかず僕は眠りに落ちていた。

目を覚ますと相変わらず自然の風景が広がっているが、何だか少し違った様子だ。マップを見ると、僕は既にベルギーにいた。
こんなに呆気なく国境を越えたのは、越えていたのは初めてだった。

過去に一度、ベトナムのハノイからラオスのビエンチャンまでカーブの多いガタガタの山道を長距離バスでおよそ30時間のロングラン。その末にやっとの思いで陸路でラオスへ入国したことがある。
あの時は本当にしんどかった。おまけにラオスの検問所の周りにはよくわからん動物の骨がたくさん落ちていたり、目つきの鋭い大きな犬がいたり、チップを払わないと入国スタンプを押さないという検問員がいたりと疲れ切った身体にほんと散々な思いだった。

それに比べ割と快適なバスの中で、入国するのに面倒な手続きなどもなく、気づいたら入国までしてしまっている。
同じ地球上に存在する場所なのに ”国” という人間が作り出した概念的区域が違えばこうもルールが変わるのか。と、ベルギーの街外れ、バスの中で更ける。
そして、気づけば目的地まではあと10分を切っていた。

2/11ヶ国目 ベルギー ブリュッセル🇧🇪


到着の直前、突然猛烈な雨に襲われた。
空襲の様に猛烈に降り注ぐ雨粒が、バスの車体で弾ける音がうるさい程に車内に響く。既にブリュッセル中心部に差しかかっていたバスの車内からは突然の出来事から逃げ惑う人々の様子が窺える。
自分もあと数分後にはあっちの世界へ放り出されてしまう。心の中のため息と共にバッグから折り畳み傘を取り出すが、これまた突然、空襲はピタリと止んだ。
その後すぐにバスは目的地に到着し、下車すると目の前の大きなビルの屋上でベルギー国旗が旗めいている。風は未だ強く、空は若干恐怖を感じてしまう程にドス黒い。
僕はベルギーで決めていた、たった一つの目的地 ”しょんべん小僧” へ向けて歩き出した。


傘を捨て、雨を踊る


歩き出してすぐ、再び強烈な雨が降り始めた。バスで弾けていたあの ”弾” が直で身体に被弾する。
貼り紙やテラスの椅子、その他強風に翻弄された様々な物たちが右往左往に舞い上がり、いつの間にか雨は横殴りへと変わっていた。
その時ちょうど中央駅前の広場を歩いていた僕はその混沌とした街の様子を心地よく感じていた。雨の防げるどこかへ急ぐ人々を横目に、傘も差さずに両手を広げ、空を仰ぎ見る。
映画のワンシーンに入ったかの様な錯覚を起こさせるには十分な、目の前に広がる非現実的な世界観に僕はどっぷり浸かっていた。が、雨はさらに激しさを増し、結局僕も駅の中へ逃げ込んだ。

改札へと続く細い階段を駆け下りる。小さな広間には突然の雨から避難してきた同じ様な何人かがいた。雨が地に打ち着く音が雑音を奏で、降りてきた階段を伝って上から下へと流れ落ちる水が小さな滝を作っている。

その時の気分や状況にもよるだろうが、こんな天気の中でも笑って楽しく過ごせる様になれたなら、毎日がハッピーで ”最強な者” になれる様な気がする。
そんな予感をぼんやりと考えながら、僕はその小さな滝を眺め、雨が弱るのを待った。


世界一の若き英雄


数分後、雨は再び止んだ。依然と分厚い雲は顕在しているが、、
地下鉄から地上に出、もう一度しょんべん小僧を目指す。
水を吸い、バックパックが重く感じる。前進する度、肩のへんが ”グショッ” と小さく鈍い音を立てる。
”また重くなってしまった。中の物は濡れていないか? 乾くのに時間がかかりそうだ。嫌な匂いを発しないか?” など、また余計な考え事が増えてしまう。

マップによれば目的地まではそれほど遠くはない。
にしても ”しょんべん小僧” と打てばちゃんとナビしてくれるGoogleマップは一体何基準で目的地を登録しているのか不思議だ。いつも旅路を示してくれ、なくてはならない唯一無二のツールだがこの疑問を抱いたのは今回が初めてではない。
「でもまぁ、そんなことはどうでもいい。きっと何かがあるのだろう。とりあえず目的地へ行こう」とまぁ、いつもの感じでマップを見ているとすぐ近くにもう一つ、気になる名が。

”しょんべん少女”

「まじか、、」
まさかこの世に ”しょんべん〇〇” を名乗るしょんべん系観光地が二つも存在しているとは。しかも同じ国。距離にして僅か数百メートル。
この時僕はベルギーが ”しょんべん大国” であることを初めて知った。

しょんべんgirl

人通りのある所で、高いとこから、少女は堂々と凛とした表情で腰を据えていた。
しかし立ち止まる人はそれほど多くはない。名も知らぬが、どっしり構えたその姿とは裏腹に、引きで見ると何だか少し ”スベった” 印象だ。
「ファイト」と僕は少女を見て思う。
そしてそこから一分ほど歩いて行くと、今度は世界一有名な小僧の姿が。

しょんべんboy

小僧の割に良い身体をしている。さすが世界一の小僧。もしかしたら夜深く、人々が寝静まった頃、夜な夜なトレーニングに励んでいるのかも知れない。だとしたらこのバカにしたようなポージングも、とても洗練された ”プロの技” のように思えてくる。
そして先ほどの少女とは対照的に、こちらの小僧の前には多くの人が集まっている。アムステルダムで観たあの数々の傑作同様、この小僧も世界中から多くの人々をかき集め、魅了するチカラを秘めているのかも知れない。

ちなみに由来は諸説あるそうだが、最も有名なものの一つに、反政府軍が仕掛けた爆弾の導火線にしょんべんをかけて火を消し、街を救ったという少年の英雄的エピソードがあるらしい。
また後から知ったことだが、ここブリュッセルには第3のしょんべん系観光地 ”しょんべん犬” もあるのだとか。本当に、素晴らしい国だ。

ユーゴが愛した世界で最も美しい広場


しょんべん小僧以外の観光スポットを知らなかった僕はいつもの如く、街ブラする。にしてもブリュッセルは街並みが本当に美しい。誰もが想像する ”ヨーロッパの街並み” を体現している。
今回のヨーロッパ旅では計11ヶ国の国々を訪れたのだが ”石畳のヨーロッパ特有の街並みの美しさ” で言うとここブリュッセルが個人的には一番美しかった。
街は迷路の様に小道が枝分かれしており、どの道を選んでもその先に広がるのは素晴らしい景観。歩いてるだけで、見渡すだけで気分は上がり、こんなに贅沢な散歩はおそらく初めてだろう。
地面に散った雨がうっすらと雲間から差し込む陽光に照らされて、雨上がりの街の様子を少しだけ華やかなものにしてくれている。

また、石造りの大人しい色とは対照的に ”キラキラと” という形容がぴったりくるような華やかな場所がある。
白と金が多く施された空間で、立ち並ぶ店は全て高級ブランド店。間の中央には何やら立派な模様が描かれており、その頭上には大きなシャンデリアでも下がってそうな豪華な天井。
どこを撮っても絵になる、非現実的な世界。

そんな美しいブリュッセルの中でも特に感動させられた場所がグランプラス。ブリュッセルの中心に位置する大広場で、あのヴィクトル・ユーゴが「世界一で最も美しい広場」と称賛したことでも知られる。
バロック様式、ゴシック様式の歴史的建造物が広場を囲み、ヨーロッパの古き良き雰囲気が色濃く残る。1998年には世界遺産にも登録された。

路地を抜けた先に ”ドンッ!!” と広がる中世の世界。
絵本の世界に迷い込んだかと思えば、ここでさらにタイムスリップしたかの様な錯覚に陥る。
残念ながら何やら工事中で広場の中央は封鎖されていたが、尚、広場を取り囲む建造物たちの存在感は凄まじく、僕は暫くの間この広場から動かなかった。

これほどの迫力を放っている要因の一つに ”大きさ” が挙げられるのは間違いない。四方を囲むもの全てが大きく、それらのその先に広がる景色が一切見えない。建造物の一つをスマホカメラで撮ろうとしてもそれをスクリーンに綺麗に収めることが出来ないほど大きく、広角にしても結局ダメだった。

またその他の要因として僕が思うのは、細部まで行き届いた圧倒的なクオリティだ。遠目で見ると ”綺麗な石造りの大きいヨーロッパ特有の建築物” といった感じに纏まるが、近くで注意深く観察してみるとその ”大きい” の中には数えきれないほど膨大な ”小さい傑作” が埋め込まれているのが解る。
建造物に鎮座する小さな守護神たち(実際はキリストに纏わる神々たち?)
柱一本一本、壁一枚一枚に施された細かな模様、長い歴史を帯びてきた色合いと風味。姿形は同じでも、完成した当初と今とでは佇まいはきっと全然違うのだろう。

「良い歳の取り方をする」「オーラがある」などと僕らも人に対して使うが、そう言った意味では建物も人間も同じなのかも知れない。

「世界で最も美しい広場」の異名に恥じない、素晴らしい場所だった。


防空壕レストラン


再び、空襲が始まった。
広場周辺にいた人々が一斉に駆け出す。僕も一番近くの建造物に寄りかかり、一時的にやり過ごそうとするのだが、ちょびっと突き出たその屋根の下では心許なく、何もできず雨に打たれるばかりだ。周りに適当な場所もない。横に列をなす様に逃げ場を失った人々もただ茫然と空を眺めている。
「止んでくれ、、」
あの時、僕らは皆、そう願っていた筈だ。
出来ることと言えば、それくらいしかなかったのだから。

待てど雨が止む気配はなく、ふとメールの受信ボックスを開くと予約サイトから今日の宿泊施設に関する知らせが届いている。見るとチェックイン最終時刻が20時と記載されている。
「到着が遅れる際はご連絡下さい」という一文、電話番号と共に。
現在の時刻が19:30。ここから宿までは電車を乗り継いで約40分程。
完全に見落としていた。
今まで泊まった宿はだいたい遅い時間まで対応してくれていたし、値段や口コミ以外は殆ど気にしていなかった。
現地の電話番号を持っていなかったのでちょっとの勇気を振り絞り、隣の若い男性に電話を貸してくれないか? と尋ねてみる。
が、それは呆気なく断られてしまった。

”海外で泊まる宿がなく、雨の中で野宿する” 可能性の危機感を感じた僕は雨で荒れるブリュッセルの石畳を20kgを背負って駆け出した。
電話を貸してくれる ”どこか” ”誰か” を求めて。

あるレストランに入った。特に選んだ理由はない。20時が刻々と迫っていたから。ただそれだけだ。
出迎えてくれたスタッフに事情を説明し、電話を貸してくれないか? と頼むと、彼は快く応じてくれた。
メールに記載された番号にかけてみる。しかし何度リダイヤルしても電話の向こうで家主と繋がることはなかった。時刻は既に19:55。
「仕方がない」
予約サイト経由でメッセージも送ったが返事はない。不安はもちろんあるのだが、一応やれることはやった。あとはもう、とりあえず宿へ行き、誰かがいることを願うしかない。少なくともその時の僕にはそれくらいしか思いつかなかった。
今思えば、真っ先に宿へ向かうのが残された選択肢の中で一番の最善策だった様に感じるが、電話を貸してくれた恩もあるし、全くの偶然で入ったこの店で食事をするのも、また旅らしくていいなと。僕はたまたま出会ったここで直感的に夕食を取ることに決めた。

郷土料理とローカルビール

”カルボナード”
ベルギーのローカルグルメを調べると、一見パスタ料理の一種か? と思わせる様な名が出てきた。しかし実際は牛肉をビールで煮込んだ郷土料理で、ベルギー北部のフランドル地方で親しまれているらしい。
”ビール煮” というワードに興味を唆られカルボナード。
そしてchysticというベルギー産のフルーツビールをオーダーした。

カルボナードは見た目も味もほぼビーフシチュー。若干ビールの苦味が残るが ”ほんのり” といった感じ。肉もホロホロ柔らかく、スプーンで軽く切れて、付け合わせのポテトとも相性の良い一品。
chysticはチェリー香るフルーティーな味わい。色味もチェリービールといった感じの ”薄い赤” でジュースみたい。がぶがぶ飲めちゃう。
どちらもとても美味しかった。


最悪のシナリオ、、?


夕食を終えた僕はマップに従い、宿へと向かう。
ドキドキと不安が渦巻く。しかし、行ってみなければ何も始まらない。
「多分これで合ってるだろう」の連続でバス、電車を乗り継ぎやっとの思いで最寄りの駅に到着。ここから歩いて20分程の所に宿があるらしい。

最寄駅から宿までの街並みも相変わらず美しく、中心街を外れたここは人通りも疎で、観光客を歓迎する様な ”誇張する派手さ” がなく静かなエリアだ。
そんな街並みを楽しんでいるとあっという間に宿の前に到着してしまっていた。建物の上に掛けられた看板は、メールで何度も確認した今夜の宿の名と一致している。ここで間違えない。しかし、
玄関の呼び鈴を鳴らしても、ノックしても何の応答もない。「ハロー!」と叫んでも誰も出てこない。
恐れていた事が、起こりかけていた。

時刻は既に22:00を回っている。
何も出来ず、暫くそこで立ち尽くす。

すると、今晩ここで泊まるらしい夫婦が宿へ帰って来た。
鍵を開け、宿の中へと入っていく。
「Sorry」と、それに便乗して僕も中へと入る。

とりあえず、中に入ることは出来た。部屋番号は分からないが幸い、共有スペースには大きなソファが数台置いてある。
また立派なデスクの上にはトーストとトースター、数種のジャムやカゴに入ったフルーツ、紙パックのオレンジジュースと牛乳。
その隣にチェックアウト時間の書かれた手書きの紙と、ルームキーを置いていく小さな箱が添えられている。
実際どうなのかは分からないが、基本全てセルフサービスで、
掃除に来るから時間までに出てってね!といった感じの様だ。

ちょっと微妙なラインだが、決済は事前にオンラインで済ませているし、今日寝る場所がないのはさすがにキツすぎるので「まぁ、いいよねっ!」と、僕は何とかギリのところで今晩の寝床を確保した。
「あぶね」

中心街で見つけたとある教会


旅人と荷物


忍び込みなのでロッカーがない。その為トイレに行くにもシャワーに行くにもリュック一杯分にもなる貴重品を携える。寝る時にはその貴重品袋を枕代わりにした。
今回に限らず、当たり前の事だが旅中は常に荷物の管理に気を張っていなければならない。特に海外。20kgにも及ぶ重量のアイテム達全員がちゃんと無事に集合しているかを定期的に確認する。金で買い戻せる物ならまだしも、高価なもの(カメラやパソコン、スマホ)や取り戻せない写真や動画のデータなどは失ったら終しまいだ。

「荷物は軽ければ軽いほど良い」
今回の旅全体を通じて僕が一番痛感したこと。

重い荷物は体力を奪うし、体力が奪われれば旅全体の質が低下する。
肉体的な面だけでなく、大きな荷物は必要な物を見つけ出すのも大変だし、一度広げてしまった物達は収納するのも一苦労。
僕のバックパックは常に破裂寸前だった為、余計に。
その都度「はぁ〜」とならずにいられない。

”必要なアイテムを厳選し、いかに身軽になるか”
旅を賢く、楽しく回す上でこの ”必需品以外を潔く諦めるチカラ”
は後の旅路で旅人を大いに救うこととなるだろう。

ふらっと立ち寄ったチョコレート屋さん。
店員さんも店内もとても可愛らしかった


旅人とお金


夜明け前、薄暗の中チェックアウトした。
”万一家主が帰って来たら” という事を懸念し、早めに宿を後にした。
「眠い」
昨晩は余りよく眠れなかった。
忍び込みの為、後ろめたさがあったというのもあるが、共有スペースで休んでいる時、若いカップルがやって来た。みんなのスペースなのでそこにいる分には特に何も思わないが、僕が休むソファの、その隣のソファでイチャイチャし始めたのだ。ベッドがあれば僕も空気を読んで部屋に戻っていたのだが、僕にはそのソファしか寝床がなかった為、図々しくそこに居座り続けた。
互いの「どっか行けよ」がぶつかり合う静かな共有スペースで、僕は出来る限りの「気にしてないよ」オーラで ”疲れ果て、部屋に戻ることも諦めた旅人” を演じ続けた。
暫くし、向こうが折れたのか彼らは部屋へ帰って行き僕はやっと安らかな気持ちで目を閉じた。

観光にはまだだいぶ早い。
適当なベンチで腰を下ろし、目の前にある教会をボーッと眺める。綺麗で立派な教会だ。

「money please. Im hungry」「お金をくれ。お腹が空いているんだ」
一人の老人に話しかけられる。旅路ではよくある出来事だ。
カードしかなく、キャッシュがないと咄嗟の嘘を伝えるとその老人はそれ以上は何も言わず、どこかへ去って行った。
この状況にはいつも参ってしまう。
渡すこともあれば、渡さないこともある。これは完全にその時の気分だ。
インドを旅している時もよく物乞いの子供達に言い寄られた。その時は割と積極的に渡していた。近くの露店へ行き、好きな ”食べ物” を買ってあげることもあった。別に人を選んでいる訳ではないのだが、やはり見るからに困ってそうな人であるとどうしても紐が緩んでしまう。例えそれが ”装いの貧困” であったとしても。

でも、だからと言って誰ふり構わず渡すことは絶対にしない。単純にそのお金は自分が働いて得たものだから。
”自分の時間を犠牲にして手に入れたもの” を見ず知らずの誰かに頂戴と言って回る彼らの行動はそれこそ図々しく感じるし「よくそんな事ができるな」とも思う。彼らには彼らの事情があるのだろうが。。

中心街にて。
プロのパントマイマー


楽しい朝食


宿からくすねてきたパンと牛乳を取り出し、食べる。
目の前の広場にポツポツと鳩が集まり始める。
ちぎったカケラを放ると、遠くにいた仲間達もこちらへ一斉に群がり、半径数メートルが瞬く間に鳩の踊り場となった。
放ったカケラのその先へ、鳩達が競う様に猛追していく。
いつの間にか鳩団オーケストラの指揮者になった気分の僕は右へ左へ鳩達を操る。

”パンを食べる鳩達の姿が愛らしい” というのもあるが、純粋に ”誰か、何かと一緒に食事をする。時間を共有する” 事が嬉しかった。

旅を始めてまだ一週間も経っていなかったが、スーパーで買ったサンドウィッチを公園のベンチで食べたり、冷凍食品をチンして宿の共有スペースやベッドで食べたり。
朝昼晩と食事の時はいつも一人だった。いや、食事時間だけじゃない。思い返してみれば、テサの様な人といる時以外は誰かとまともに会話する事もなかった。

知らぬ間に一人時間が長くなっていた僕は、こんな些細な鳩達との交流からでさえ ”幸福” を感じる様になっていた。

「旅に出ると当たり前の事に感謝出来るようになる」
と、僕はこれまで何度か聞いた事があるが、その感じがちょっと分かった気がした。

周りにいる誰かがいてくれる事。
値段にそこまで注意深くならなくとも普通に買い物が出来る事。
治安が良く、安心して過ごせる事。
バカみたいに重い荷物を毎日連れて歩かなくてもいい事。
何の心配もなくバスや電車に乗れる事。
予約しなくても今日帰る場所がある事。

その事に気づけた僕は何だか少しだけ ”良い奴” になれた気がした。

万歳!

発祥の地で味わう


朝食を終え、周辺をブラブラしているといつの間にか日が昇り、世界が明るくなる。所々で休憩を挟みつつ、僕は昼便のバスが出る中心街へ戻った。
今日は天気も良く、街は一段と輝いて見える。相変わらず綺麗な街には多くの人々が行き交い、歩けど歩けど選んだ道の先には美しい街並みが広がる。

特に予定がなかったベルギーで、僕が唯一やり残していた事。
それは ”ワッフルを食べる事” だった。
別に最初から決めていた訳ではないのだが、そいえばベルギーと言えばチョコとかワッフルが有名だった様な、、?
と、ふとよぎり、調べてみるとやはり ”ワッフル発祥の地” だった事が分かった為、「せっかくだし」ということで食してみることに。

Googleマップで「waffle」「ワッフル」と検索するとやはり多くの店がヒット。その中で近くて割と高評価の店に入り、店内のメニューを見ると想像以上の種類の多さとその値段に驚いた。(特に値段、、)
一瞬店を出、空を仰いだが経験には代えられないという事で店内に戻り、僕はカードを切った。

コーヒーとセットでだいたい¥3,500-¥4,000くらい。
チョコ、キャラメルソース、ホイップがかかって上にはイチゴ。そんなに大きくはないが、甘すぎるのでこれで十分。
不味くはないが、決して値段を超えてくる様なものではなかった。

”本場ベルギーでワッフルを食べた” その経験が手に入っただけで結果オーライ。食べなきゃどんな味か分からないから。

ワッフル店にいた犬。
動物を見て久しぶりに癒された


次の街へ


一泊二日と短い滞在だったが、僕は今日、ベルギーを去る。
ブリュッセルの美しい街。その最後の道のりをバス停へ向け、ゆっくりと歩く。

珍しく余裕を持って到着した僕は、撮った写真を眺めながらバスの到着を待った。

予定時刻を少し過ぎた頃、バスがやって来た。
車番は合っている。行き先は、、
「Cologne」「ケルン」

これが自分のバスだと確信した僕は、静かにバスに乗り込んだ。
次の街へ向け。


        🎒ブリュッセル編 終わり🚌


ブリュッセルで出会った愉快なお土産



旅メモ


旅の道中でふと気付いた大事っぽい、忘れたくない僕の言葉。

・食事を楽しむ旅。を初めて知った。
(食事は極力節約していたから)

・バスには色んな国の人達が乗車するから色んな事が起こる。
大声で話す人。爆音で音楽をかける人。初めて会う相手なのにお構いなしに周りに話しかける人。立ち上がって踊り出す人。
様々な文化、考え方の違いが飛び交う。

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