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【SNS】XやFacebookの危険性
「―デマや差別を拡散しても、SNSの会社はそれで莫大な利益を得られる」
近年、SNSには大きな変化が起きています
Twitterはイーロン・マスクによって買収されてXとなり
Facebookのマーク・ザッカーバーグは先日、ファクトチェックの機能を廃止すると発表しました(注[1])
2人に共通する言葉は「表現の自由を守る」というものです
その言葉が正義に見えることからSNSでは称賛の声が目立ちますが
大きなリスクがあるどころか、その「自由な発信と拡散」が
差別やフェイクニュースだけでなく、すでに暴動や虐殺にもつながっていることを知らない人は多いように思います
はたして、今からの説明を聞いてもなお「表現の自由はすばらしい」と言い切れるでしょうか?
※こちらは、YouTube動画としても公開しています!⇩
①SNSによる甚大な被害
「自由」と聞くと、「人々が何でも発信できて、その結果、多様な意見が交わされ、最終的に真実にたどり着ける」というイメージを持つかもしれません
しかし、すでに現実のSNSではそのイメージが誤りだと証明されています
例えば、トランプはTwitter(当時)で、「自分が選挙に負けたことはでっちあげである」といった投稿をし
さらに
「2020年(大統領)選挙に負けたというのは、統計的にありえない。1月6日に(ワシントン)DCで大きな抗議デモを行う。そこに来てくれ、ワイルドになるぞ」
とツイートをして過激派をデモに駆り立てたことで、連邦議会で暴動が起きてしまいました(注[2])
さらには、ミャンマーでは、SNSが極めて悲惨な出来事を招いています
少数派民族のロヒンギャへのデマとヘイトスピーチがフェイスブックで拡散されたことが一因となり、なんと何千や何万とも言われるロヒンギャの大規模な虐殺が起こってしまったのです(注[3])
それはあまりにも悲惨で、子供も老人も関係なく、撃ち殺されたり、生きたまま焼かれたりしていることが確認されています
つまり、表現の自由は、選挙結果という重要な情報を捻じ曲げたり、人々を虐殺したりすることにつながりかねないのです
②原因は何なのか?
では、なぜこんなことが起きているのでしょうか?
そもそもSNSは広告収入で莫大な利益を得ているため、ユーザーの利用時間が長くなるほど、もっと言えば、ユーザーを引き付けるほど利益を得られます
ユーザーに良い情報を与えるほどではありません
そのため、SNSのアルゴリズムは「ユーザーの利用を増やすこと」を最優先につくられているのです
その結果、Facebookでは、過激なデマや差別や憎悪が拡散されることでユーザーのエンゲージメントが増加し、結果として、大きな利益につながっているのです(注[4])
さらに、Facebookの内部告発者、フランシス・ホーゲンによると、Facebookは、若者のメンタルヘルスや誤った情報などの悪影響を知りつつも対策を取ってこなかったうえに(注[5])、人々のためになることよりも、会社の利益を優先してきた(注[6])というのです
加えて、「表現の自由」を強調するイーロン・マスクがTwitterを買収した後
Xでは信用できないアカウントがより拡散されるようになり(注[7])、差別的な言葉やヘイトスピーチは激増してしまいました(注[8])
そもそもSNSを見ると、有害な投稿が広がる傾向は明らかです
冷静で正確な情報はたいして注目されないし、拡散もされません
しかし、過激な発言、誤っているけれど引きつけられる発言、差別的な発言は目を引くのです
そして、人は、たとえ正しくなくても、目にした情報をうのみにして信じてしまいやすいのです
SNSでは、例えば、新型コロナウイルスについては、「正確な疫学の説明や統計データ」はほとんど見かけることはありません
むしろ、より見かけるのは「主観的で語弊のある感想」、そして「フェイクニュースや陰謀論」です
似たようにして、政治の話では、「政府の支出の詳細な内訳」や「国交の客観的な説明」よりも
むしろ、「事実に基づかない怒りの声」や「誰かへの差別」を頻繁に目にします
事実は難しくて多くの人は理解できないこともある一方で、デマは誤っていても分かりやすいので、飛びつきやすいのです
③表現の自由のジレンマ
これらを聞くと、「やはりSNSは厳しく規制すべきだ」と思えてきます
「“表現の自由”、もっと言えば“差別やフェイクニュースを垂れ流す自由”と“人々の安全”を天秤掛けするなら、後者を選ぶべきなのは間違いない」と
しかし、現実はそう単純ではなく、そこにも難しいジレンマあることを最後に説明します
・検閲の難しさについて
1つには「検閲の難しさ」です
露骨な暴言であれば規制しやすいものの、事実確認が難しい内容であるほど、偏った判断により「正しい」「誤り」と決められてしまう可能性があります
マーク・ザッカーバーグも「1%のミスは(世界で)何百万ものミスにつながる」と懸念を示しています(注[9])
これについての反対意見としては、表現の自由を守りつつ、有害なコンテンツをなくすというバランスを保つなら、やはり従来のようなファクトチェックや規制が必要になるということになります
当然、規制には誤りも起きますが、そもそも完璧な解決策がないからこそ、議論になっているのが現実です
・利益について
では、マーク・ザッカーバーグなどのSNSのCEOは完全に悪なのでしょうか?
その答えは難しいところでしょう
フェイクニュースから虐殺まで、これほどの惨劇に関わっていることを知りつつも、「表現の自由」という考えや、トランプ政権への歩み寄り(注[10])で規制を弱めることは軽率であり、この観点では悪であると言えそうです
まして、利益のためとなればなおさらです
しかし、他方でマーク・ザッカーバーグもフェイクニュースや有害なコンテンツへの問題は当然認識しており、Xのコミュニティノートの仕組みの導入を公表し、「自殺や自傷行為、摂食障害を助長する内容の扱い方に変更はない」と述べています(注[11])
そして、Facebookは利益を優先しているのではなく、毎年50億ドルを安全性のために使い、善良なプラットフォームにすることに努めているとの反論もしています(注[12])
今後は、明らかに有害なコンテンツは規制し、それ以外の投稿についてはユーザー同士の検閲と意見交換で対応するということになります
また、Facebookの何兆円もの利益を犠牲にすれば、事業への支障や、数万人もの社員への影響や解雇にもつながります
「優良なプラットフォーム運営」と「利益」を考えても、どちらかを捨てることはできず、どちらも追及する必要があるのです
すると、今回のファクトチェック廃止の判断は、「表現の自由と規制のバランス」「トランプ政権との関係」「事業や雇用」などについて総合的に考えた結果の判断となりそうです
しかし、それは果たして十分な考察に基づいた判断だったのでしょうか?
そして、この変更は、もっと言えば、SNSの存在は、より良い世界につながるのでしょうか?
【自己紹介等】
【注】
[1] フェイスブックとインスタグラムのファクトチェックを廃止、米メタが発表 - BBCニュースhttps://www.bbc.com/japanese/articles/cgkxky4vvg3o
[2] 米議会襲撃、トランプ氏が「ツイートで扇動」 下院調査委で証言 - BBCニュースhttps://www.bbc.com/japanese/62145575
[3] フェイスブックはミャンマーで憎悪煽る「けだものになった」=国連報告 - BBCニュースhttps://www.bbc.com/japanese/43395890
[4] Myanmar: The social atrocity: Meta and the right to remedy for the Rohingya - Amnesty International https://www.amnesty.org/en/documents/asa16/5933/2022/en/ p38-
[5] Why Whistleblower Frances Haugen Decided to Take on Facebook | TIME https://time.com/6121931/frances-haugen-facebook-whistleblower-profile/
[6] Facebook whistleblower Frances Haugen details company's misleading efforts on 60 Minutes - CBS News https://www.cbsnews.com/news/facebook-whistleblower-frances-haugen-misinformation-public-60-minutes-2021-10-03/
[7] Twitter Misinformation Superspreaders See Huge Spike in Engagement Post-Acquisition by Elon Musk - NewsGuard https://www.newsguardtech.com/special-reports/twitter-misinformation-superspreaders-see-huge-spike-in-engagement-post-acquisition-by-elon-musk/?ref=factcheckcenter.jp
[8] The Musk Bump: Quantifying the rise in hate speech under Elon Musk — Center for Countering Digital Hate | CCDH https://counterhate.com/blog/the-musk-bump-quantifying-the-rise-in-hate-speech-under-elon-musk/?ref=factcheckcenter.jp
[9] Mark Zuckerberg announces the end of Meta's fact-checking program in the United States https://youtu.be/Q7y28SCzUhI?si=2nhhpyfxAE3jlxkP
[10] アメリカIT大手メタ 第三者ファクトチェック廃止 FacebookやInstagram トランプ氏の大統領就任踏まえたか | NHK | IT・ネット https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250108/k10014687371000.html
[11] フェイスブックとインスタグラムのファクトチェックを廃止、米メタが発表 - BBCニュース https://www.bbc.com/japanese/articles/cgkxky4vvg3o?utm_source=chatgpt.com
[12] Why Whistleblower Frances Haugen Decided to Take on Facebook | TIME https://time.com/6121931/frances-haugen-facebook-whistleblower-profile/
【筆者の詳細について】
―加藤将馬:著者、講演家、幸福学&ビッグヒストリー研究家
・加藤将馬のウェブサイトはこちら
・講演依頼はこちら
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【著書の紹介】
自殺大国ニッポン: メンタルヘルスと幸福学で分かる日本最大の課題
紙の書籍1188円→電子書籍0円!(今後変更の可能性あり)
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「身体的には平和になったものの、精神的には非常に危険な国である」というのが今の日本の実態です。そんな中で、いったい何が起こっていて、どのような対策がされているのか。それが本書の1つ目のテーマです。
そして、最大のテーマは「そんな日本は、いかにして幸せな社会になることができるのか」というものです。ある著名な論文では、「アメリカや日本は短期間で何倍も経済成長したのにも関わらず、幸福度は上がらなかった」という衝撃的な研究結果が公開されました。国連による「世界幸福度報告」では、「北欧の国々は幸福度が一貫して高い」「中南米諸国は、経済力に対して幸福度が高い」といった考察がまとめられたことがあります。果たして、これらは本当なのでしょうか。そして、本当ならば、果たして日本は、いかにして幸せな国になることができるのでしょうか。
【1時間で読める要約版】宇宙と人類の壮大な歴史-ビッグヒストリー
紙の書籍773円→電子書籍0円!(今後変更の可能性あり)
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宇宙と人類、138億年ものがたり ―ビッグヒストリーで語る 宇宙のはじまりから人間の未来―
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本書は、宇宙と人類の歩みを考察する一冊です。
「宇宙が生まれた頃はどのような姿だったのか?」「なぜ数十万年も狩りをしていた人間は、今では宇宙進出を始めているのか?」「気候変動やAIなど、これからの人間社会はどうなってしまうのか?」といった大きな問いについて説明します。
そして、本書の最大のテーマは、「人間は文明を発達させて地球の覇者となったのにもかかわらず、なぜ世界には数多くの自殺者がいて、不幸が消えていないのか」というものです。
138億年にわたる壮大な物語を堪能していただくと同時に、人間社会のあり方にまで思考を巡らせてもらうことを本書では目的としています。そして、私がなぜ本書を書き、ビッグヒストリーを通じて何を伝えたいのか。ぜひ、最後まで見届けていただけると幸いです。