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疫病、戦争、暗殺… 世界は暗黒に向かっているのか?

大きな悲劇に見舞われて

新型コロナウイルスが世界的なパンデミックになってから2年ほど。
ロシアのウクライナ侵攻から5か月近くで、安倍元首相が暗殺されたのは2日前のことです。

2019年末に中国の武漢で確認された、通称新型コロナウイルス(Covid-19)は、世界中の人々の生活を変えました。
何百万もの命を奪ったのに加えて、国同士の行き来はおろか、通勤や、商業施設への出入りすら阻むこととなったのです。

2022年2月末には、あらゆる人々の推測を裏切り、ロシアはウクライナへ侵攻しました。ロシアの残虐かつ浅はかな行動に、世界中から非難と制裁が集まっています。

先日、2022年7月8日には、日本で元首相が公の場で殺害され、国内はもちろん、国外においても大きな衝撃を与えました。バイデン大統領は怒りと悲しみの声明を発表し、米タイムズ誌は、次回号の表紙を安倍元首相とすることとしています。

世界は悪くなっているのか

現在、多くの人が世界は暗黒に向かっていると認識しています。
たしかに、日々が暗いニュースで溢れているように感じます。
しかし、実際には暗黒に向かっているでしょうか?
実は、この質問の答えは思ったよりも単純にはいかないのです。

著書『サピエンス全史』で世界的に有名となった歴史学者・哲学者、ユヴァル・ノア・ハラリは、現在の世界情勢を、以下のように表現しています。

状況は、かつてないほど良い。
状況は、未だに劣悪だ。
状況は、さらに悪化する可能性がある。

"21 Lessons for the 21st Century" p311

非常に端的に世界の現状を表していると思います。
おそらく、後半の2文はすんなりと理解できるかと思います。

争い、事故、病で苦しみ、亡くなる方は大勢いて、経済的に大きな格差があり、自殺者も、大気汚染が原因で亡くなる人も毎年、数多くいます。

また、もし、ロシアが軍事力でウクライナを完全に制圧することに成功した場合、その後の世界はどれほど悲惨なものになるのかわかりません。
ロシアがさらに暴挙に出るのか。他の国も、力にものを言わせるようになるのか。
未来については、より良くなるのか、より悪くなるのか、誰にもわかりません。

では、「状況は、かつてないほど良い」とはどういうことなのでしょうか?

今は「史上最悪」なのか?


今、世界は混沌に陥り、「史上最悪だ」と錯覚している人も少なからずいます。中には、あらゆる陰謀論を信じ込む人もいます。

しかし、「史上最悪」というのは本当でしょうか。
もちろん、「悪いことは起きていない」という主張をするつもりはありません。悲劇は毎日、あらゆる場所で起きています。

ただし、歴史を振り返れば、人間社会は、もっと、はるかに劣悪だったことに気づかされます。

5000年前や1000年前と言わずとも、たとえば、たった100年前、世界は比較にならないほど劣悪でした。

第一次世界大戦が勃発し、その被害は推定によって様々ですが、1000万人前後もの命を奪ったとされています。しかも、当時の人口は現在の4分の1程度であるため、現在の人口比率で考えると、4000万人ほどが亡くなった計算になります。

さらに同時期に、通称スペイン風邪が世界中に蔓延して、当時の政治的・疫学的理由から対処がうまくいかず、2000万人とも5000万人ともいわれる死者を生んでしまいました。現在の人口比率で考えると、8000万人から2億人が亡くなったような規模になります。

つまり、たった4年ほどの間で3000万人から6000万人もの人々が戦争と疫病によって死亡したのです。
現在の人口比で考えると、80億人の世界人口のうち、1億2000万人から2億4000万人ほどが死亡したことになります。

悲惨な死を数で扱うことが極めて不謹慎にうつりかねないことを承知で比較すると、現在までのウクライナ侵攻での死亡者は1万人とも2万人とも言われており、新型コロナウイルスでの死者は634万人ほどです。

第一次世界大戦は4年続き、スペイン風邪は2年続いたということで期間は違いますが、この数字が1億や2億に達するとは、考えにくいように思えます。

戦争については、現在のところ、世界規模に拡大しないように、あらゆる国が最善の配慮をしているように思えます。
また、新型コロナウイルスが確認されてから1年足らずでワクチンが開発され、今では世界中に提供されているのも、現代だからこその迅速な対応です。歴史上ずっと、人間が疫病に対してできたことは、せいぜい祈ることくらいでした。

人は、災難の渦中にいるとき、今が「最悪」の状況だと錯覚しやすいです。
しかし、歴史を振り返ると、悪いことは常に人間社会に降りかかっていることがわかります。

他にも、たとえば、試しに自身の生まれた年を調べてみてください。その1年だけでも大きな事件はいくつもあるはずです。私自身の生まれた1996年では、原発事故、旅客機の墜落、有名人の殺害事件などの物騒な出来事がありました。

現在は、決して完全に平和で理想な世界ではありません。むしろ悲劇は世界中で常に起きています。けれど、歴史というスパンで考えると、世界は幾分と「まし」にはなったのです。

ただし、今後、さらに良い世界を見れるのか、それともより悲惨な世界を見ることになるのかは、まだ誰にもわからないことです。

歴史が今後どのように進んでいくのかを見届けたいと思います。





【筆者の詳細について】

―加藤将馬:著者、講演家、幸福学&ビッグヒストリー研究家

・加藤将馬のウェブサイトはこちら

【著書の紹介】

宇宙と人類、138億年ものがたり ―ビッグヒストリーで語る 宇宙のはじまりから人間の未来―

紙の書籍:1260円→電子書籍版:0円(変更の可能性あり)


本書は、宇宙と人類の歩みを考察する一冊です。
「宇宙が生まれた頃はどのような姿だったのか?」「なぜ19万年間も狩りをしていた人間は、今では宇宙進出を始めているのか?」「気候変動やAIなど、これからの人間社会はどうなってしまうのか?」といった大きな問いについて説明します。
 そして、本書の最大のテーマは、「人間は文明を発達させて地球の覇者となったのにもかかわらず、なぜ世界には数多くの自殺者がいて、不幸が消えていないのか」というものです。
 138億年にわたる壮大な物語を堪能していただくと同時に、人間社会のあり方にまで思考を巡らせてもらうことを本書では目的としています。そして、私がなぜ本書を書き、ビッグヒストリーを通じて何を伝えたいのか。ぜひ、最後まで見届けていただけると幸いです。

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