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目的を手段化すべき理由 〜目的と手段の考察〜

目的の手段化という言葉を聞いて、ポジティブに受け取る人はあまりいないと思います。
何故?何のために?を見据える目的が、何を?どのように行うのか?のやり方を明確にする手段にすり変わることで本末転倒となってしまう。とのネガティブな文脈で語られることの多い「目的の手段化」ですが、実はそんなに単純なものではありません。

ちなみに、辞書を引いてみると、以下のような説明文を見ることができます。

目的を見失う失敗

私が主宰している実務者向けのイントラプレナーシップ研修、職人起業塾のカリキュラムには「目的と手段の考察」が組み込まれています。

講義の中で、「目的と手段を履き違えててしまい失敗した経験がありますか?」と塾生に問うと、毎回漏れなく全員が挙手します。(笑)

その多くは、工期や予算の縛りを守る真摯さ、真面目さを発揮するがあまり守るべき品質を担保できなかった、行うべきコミュニケーションが取れなくて、本来の目的であるはずの顧客からの信頼を失う事に繋がった等の失敗や反省を口にされます。

研修では目的を明確にし、絶対に見失うべからず。との原則論を伝えていますが、それは本質的な問いを持つ学びのほんの入り口に過ぎません。

目的と手段を混同する理由

手段自体が目的ともなる。との辞書の一文は、多くの人が反省される「本末顛倒が可なり」との意味ではもちろんありません。
しかし、全く違う概念であるはずの「目的」と「手段」を多くの人がが混同してしまい、目指すべき道を見失い、本来の目的を達することができない失敗を繰り返すのも致し方ないと思えるほどの難しさを示しているように思います。

対語に近い全く違う言葉であるはずが、実は目的は手段を内包しており、手段は目的の性格を有しているが故、混同してはいけない場合でも切り分けられずに本来なすべき事が出来ない状況を生み出してしまいます。

辞書に書かれている、「手段自体が手段を必要とする目的となる。」とはどういうことか?非常にわかりにくいのですが、目的の定義を深掘りしてみることと、レイヤーに分けてみるとその意味が少しわかりやすくなります。

目的と手段一体論

例えば、事業の目的は「経営理念の実現」だとよく言われます。そして、そこに定められているのは「社員の物心両面の幸福と地域社会への貢献」だったりします。

この理念が悪いとは思いませんし、その実現に向けてメンバーが力を合わせて仕事をするのは尊いことだと思います。
しかし、自分達だけが良ければ、幸せになればいいのか?と問われたら、それだけでは事業の目的として少し寂しい感じも否めません。

だからこそ、「地域社会への貢献」というもう一つのタスクを理念に掲げるのですが、この理念は並列されている様に見えて実は、地域社会への貢献はまず自分達が満足できる生活を手に入れられた後に取り組む、2段階のレイヤーに分かれていることがわかります。

そのように考えれば、社員の幸せは、地域貢献するための手段との位置づけだと考えることもできます。

そして、貢献自体も目的にはなりえません。目的として掲げるべきは、貢献すること自体ではなく、貢献して達成すべき理想の状態があるはずです。

目的を手段化する意味

このように、目的と手段は、複雑に絡み合いながら、深く深く掘り下げることで、一歩先、もう1段階高いレイヤーを見出す構造になっていることがわかります。

人としての在り方、人生の意味を考えれば、自分たちだけが良ければそれで良いのではなく、世の中に対して貢献し、理想の世の中を実現すべきとの志が浮かび上がってきます。孟子の言うところの「良知」を人は誰しも持っています。
その理屈を突き詰めると、世界平和や誰しもが生きがいを持って生きられる真の民主化といった大きな概念に突き当たります。

しかし、実際にそれらを目的として掲げるには、スケールが大きすぎてリアリティーが薄くなり、そのために何をなすべきかとの手段もぼやけてしまいます。

このように考えれば、まずは身の丈に会った手が届きそうな目的を掲げ、その実現に向けて手段を講じる。その目的の実現が手に届く様になった時点で、その目的の先に、本当は何を叶えたいのか、何を目指すのかを考え、目的を手段化してしまうことで1つずつレイヤーが上がり、大きな志を掲げることができるようになります。

志が大きければ大きいほど多くの人からの共感が得られます。目的のレイヤーを上げることで、事業のスケールも大きくする必要がありますし、自ずとその可能性も高くなる構造になっています。

目的の手段化は決して悪いことでは無いのです。重要なのは、志を何度も何度も繰り返し練り上げる。問いを立て、自分の中にある内なる声に耳を傾け続ける姿勢を持つこと,天に与えられた命の役割を考え続けるなのだと思うのです。子供達に、子孫に恥じる事ない生き方ができる様、限りある人生の時間を使いたいものです。

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志教育を軸に据えたキャリア教育の高校を全国に普及させる運動をしています。


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