見出し画像

3人のレンガ職人の真実

イソップ童話に三人のレンガ職人の話があります。私が主宰する職人起業塾の研修でいつも紹介するその話は、仕事をする上で(人から共感を得られるような)目的、志、良き意図を持つことこそが最も重要で、しかもそれが稼げる人材になる条件になるとの原理原則をわかりやすく例えてくれており、研修等で良く引用しています。

三人の煉瓦職人の話

その寓話の内容を以下に簡単に説明しておきます。

とある街を通りがかった旅人が3人のレンガ積みをしている職人と出会い、それぞれに「何をしているんですか?」と問いかけます。一人目の職人は「私はレンガ職人で、レンガを積むことで生活の糧を得ているんです」と答えます。二人目の職人は「私はオーダーされた通りに大きなレンガの壁をキッチリと作り上げるのが仕事なんだ」と答えます。3人目の職人は「私はレンガ積みの仕事を通して、この街に無かった大聖堂を作って街の人達が幸せを感じる祈りの場を作っているんだ」と答えます。
イソップ童話三人のレンガ職人の要約

見た目的には全く同じ仕事をしている3人のレンガ職人ですが、「あなたが依頼するならこの3人の中で誰に仕事をオーダーしたいですか?」と質問すると、全ての人が、3人目の職人に頼みたいと答えられます。何のために?との問いに対する明確な答え、目的や志、良き意図を持つ事が信頼や信用、人望を集めて豊かな暮らしを手に入れられるようになるとの例えであり、職業人としての在り方を強く示唆しています。私が社会に飛び出してきた時には誰もそんなことを教えてくれませんでしたが、本来は若者が社会に出てくるタイミングで社会人の心得として全員に知っておいてもらいたいと思うのです。

目に見えない資本

情報革命が進み、誰もが情報を発信できる、あらゆる情報がインターネット上に流れ出す現在、良いことも悪いことも全てが白日のもとにさらけ出される様になり、評判資本という、実に見えない価値が今まで以上に重要視されるようになりつつあります。また、何のために働くのか?の問いの答えが1人目の職人の「金のため」、2人目の職人の「決められたことをやっているだけ」といった目的ではクライアントから反感を買うとまでは言いませんが、共感を得る事は難しく、「街の人たちの幸せのため」と明確な目的を持っている職人のところに目に見えない資本のひとつである共感資本が集まるのは明らかです。

purposeの時代

令和から平成に改元されたのと機を合わせるかのように世の中は「地の時代」から「風の時代」に移ったと言われています。平成の終わりに今後、価値観の大きな転換が行われる。と予言されていた通り、コロナによるパンデミックは世界の常識をひっくり返しました。畳み掛ける様にインフレ、エネルギー難、そして戦争までが起こり、私たちは真逆のパラダイムへの転換を余儀なくされました。風の時代には価値観が逆転し、これまで目に見えるもの(金)が中心的な価値として認められてきていたのが、目に見えないもの(共感、評判、信頼、経験や体験等々)が価値として認められるようになると言われておりました。まさに今その潮流が押し寄せてきているように感じています。以前にも増して「目的」や「意図」「志」が重要視される時代になったと思うのです。

ゴールデンサークル

知っていると出来るの溝

私は自身が代表を務める株式会社四方継の職人スタッフ、また一般社団法人職人起業塾の研修に参加される塾生にも、冒頭の3人の煉瓦職人の話を繰り返し伝えて、目的意識を明確に持つようにと何度も言い続けています。本質的な目的意識を持つことだけしっかりと押さえていれば、顧客満足を得る事はそんなに難しいことではないと思っていますし、実際に大きな成果を上げる職人は数多くいます。しかし、なかなか顧客から共感され、価値を創出するような目的を持ち切らずに成果に結びつかない者もいるのが現実で、「知っている」のと「出来る」もしくは「出来ている」の間には大きな溝があることを痛感させられます。

誰もが持っている良心と才能

私は基本的に誰もが良心を持っていると思っているし、信じています。表面的に利己的な考え方を持っているように見えたとしても、学びの場に足を運ぶ、もしくは自ら学ぶことで利他の心が必ず芽生えるし、そこにしっかりと向き合う事が出来れば、誰しも大きな価値を生み出す潜在的な力を持っていると思っています。そもそも、自分だけが良ければいい、金だけ儲かればいい、今だけ良ければそれでいい。との考え方の人に仕事を頼みたい人は皆無な事は誰しもが理解できることですし、良い人になるとかではなく経済的な合理性の面から見ても自己中心的な思考は持続可能性を低くすることは明らかです。なので、「なんのために仕事をするのか?」との問いに対して深く答えを考えれば、初めは「金持ちになりたい」「良い車に乗りたい」「楽して稼ぎたい」と答えていた幼稚な若者もそれでは金持ちにはなれないことに気づき、「お客さんに喜んで貰いたい」「関わる人たちに気持ちよく働いて貰いたい」「世の中のためになることをしたい」と言い始めます。誰もが必ず志を見出すようになるのです。

三人目の煉瓦職人の真実

しかし、誰もが「世のため人のためになりたい」と思うにもかかわらず、評価される行動に結びつかない、成果に結びつかないケースが頻繁に起こるのには訳があります。それは、三人のレンガ職人の話の奥に隠された真実に由来しており、その理解が出来ていないと理想や理念、志が上っ面だけのものになってしまい、実務に反映されることがないまま本質を忘れ、目先のことばかりに囚われてしまうようになってしまいます。
その真実とは目的や志は「役割」とセットだということで、自分の担うべき役割に応じた志を掲げなければ実務に落とし込む実践にはなり得ません。以前、このnoteにも書きましたが、人類最大の発明と言われる役割を認識してこそ目的や志は機能するようになります。例えば、新卒の社会人1年生の働く目的が世界平和だったとします。もちろん悪くはありませんが、見習いとして働く業務内容と掲げた目的があまりにもかけ離れ過ぎていると普段の業務で目的に対する意識を持つのが困難になります。自分が担う役割に応じた目的を定めること、そして表面的な役割だけではなく「本当の役割」について考えることで、自ずと果たすべき使命や志、仕事の目的を見出せるようになるのです。

目的と役割の変態

目的や志を掲げるのは自分自身の軸を固めて選択基準を定めることでもあります。自分が果たすべき役割を認識し、目指すべき理想は何か?自分はどのように在るべきかが明確になった時、人は正しい判断を下せる様になります。そのためには身の丈に応じた目的を見出すこと、綺麗事ではなく自分自身の原体験から紡ぎ出された言葉で何の為に?の問いに対する答えを模索することが肝要です。今の役割を全うすれば好む好まざるに関わらず、次の新たな役割が自ずと担わされます。そして役割には責任がついてくるもの。芋虫が蛹に、蛹が蝶に変態する様に徐々に大きな役割を背負いそれに応じた目的や志を掲げる事できっと物心両面の豊かさが増していくのだと思うのです。

____________________

職人をはじめとする現場実務者向けに目的と役割を明確にする研修を行ってます。

いいなと思ったら応援しよう!