若者が職人を目指すべきシンプルな3つの理由。
先日、九州から客人が来られました。私が主宰する一般社団法人職人起業塾の研修に社員さんを派遣された事業所の社長で、工務店ではなく国産木材×金物工法で許容応力度計算を行い住まい手の安心を担保しながら日本の山、森を守る循環を強く推し進められている唯一無二の構造材の供給を実現されている方で私が尊敬している経営者の一人です。その方は家を作る材の森林資源も大事ですが、作り手である大工を守るべきだと強い信念を持っておられ、実際に事業として取り組まれています。事業内容は違いますが目指す方向、目的は私とほぼ同じでお会いする度に大いに学ばせて頂いています。
経営者の嘆き
そんな佐藤社長から「家を作るのも、地域の暮らしを守るのも職人がおらればならん。職人が価値を生み出せる、それが認められる環境を整えなければいかん、高橋さんがそれを全国に広げてくれ。」との力強い言葉をいただいて、いっそうの精進をせねばと気を引き締めた次第です。私は一般社団法人職人起業で行っている研修事業やワークショップ、セミナーなどに参加される工務店を始めとした工事を生業とされている事業所の経営者に対して職人の正規雇用と新卒採用を強く勧めています。また、それを実現、継続できるような人事制度やキャリアプランの構築などのサポートを行っています。そんな中で経営者からよく耳にするのは、職人の雇用をしようと思うが、入社希望者が集まらないとの嘆きです。受け入れ先がどんなに意識を変えて体制を整えたところで職人になりたい若者がいなければ確かに話になりません。
大工なんかやめておけ
若者の建築業界離れ、職人離れは今に始まったことではなく、30年ほど前からその深刻さは加速し続けているのが現実です。私も起業した当初、いとこが高校卒業して大工になりたいと言ってきてくれた時は「職人になるなんてやめておけ。」と止めた経験があります。その時は、自分自身が大工をやりながら全く先の見通しが立たない暮らしに不安と焦燥感を募らせていた頃で、とてもじゃないけど新卒の若者を受け入れてしっかりと給料を払える自信がありませんでした。何の保証もないその日暮らしと変わらないような働き方に若者を巻き込むわけにはいかないと思ったのです。今では顧客の数も増え、会社としての体を成すようになって積極的に新卒採用を行っておりますが、それも先行きの見通しが立っているからに他なりません。そう考えれば1人親方の職人に職人育成を任せるのは厳しいどころか不可能は変わっておらず、事業所が職人を内製化するしか職人不足を解消する道はないと改めて思います。
職人として就職出来る時代
私が大工になろうと志した当時は正社員として就職する先等ありませんでした。しかし、現在は私が代表を務めているつむぎ建築舎を始め、大工をはじめとする職人を社員として受け入れる会社も少しずつですが増えてきています。そのような環境が整ってきたこともあり、私としては若者に職人になることを強く勧めます。以下に私が若者たちに是非とも職人と言う生き方を選んでもらいたいと考える理由を述べてみたいと思います。学校を卒業してからどうしようかと進路に迷っている若者が近くにいたら選択肢の1つとして伝えていただければ幸いです。
1.モノづくりは面白い。
私はよくイベントなので木工のワークショップを行うのですが、そこに参加される人は老若男女問わず皆さん楽しそうに作業をされます。単純明快すぎる理由ですが、大工に限らず職人仕事は全て面白い上に達成感もあり、技術を身に付けること自体が非常に嬉しいものです。そして、自分の体を使ってものを生み出せる力と言うのは何があっても生き抜いていける強さにつながります。
2.圧倒的な売り手市場
職人不足問題は今現在でもすでに大きな問題として取り上げられておりますが、実はそれはまだ序の口でこれから加速度的に圧倒的な職人不足の時代がやってきます。いくら仕事を受注しても、おしゃれなデザインができても、実際にものづくりができなければ建築の仕事は一切価値を生み出しません。夏は暑いとか、冬が寒いとか体力が必要だとかよく人として働くには乗り越えるハードルがいくつかあります。それらを乗り越えて働けること自体が全て才能であり、その才能を持っている人が圧倒的に少ない時代になっています。それは同時に全産業見渡しても稀な売り手市場でもあり、ガッチリ稼げる環境が整いつつあるということです。建設業界は決して成長産業ではありませんが、常に一定の需要が担保されている業界でもあり、これからの職人には大きなチャンスがあります。
3.本質の時代の到来
情報革命がどんどん進む中、世の中はありとあらゆる情報に溢れ、人々がより本質を求めるようになります。ものづくりの答えはすべて現場にあり、現場を知っている者だけがすべてを把握することができます。職人からキャリアをスタートさせたらその後は設計でも営業でも施工管理でも人材育成でも大きく選択肢は広がります。もちろん本人の心構え、意識次第ではありますが職人は底辺ではなくトップに上り詰める入り口でもあるのです。
タレンティズムの時代の職人
以上がシンプルに私が若者に伝えたい、職人になるべき3つの理由です。今、世界は大きな転換期を迎えています。格差が広がり続ける新自由主義的経済は社会課題を解決するどころか増幅することが知れ渡り、行き詰まりを見せ始めています。強欲資本主義にとって変わるのは共感型資本社会と言われており、そのシフトに最も重要なのは数多くの人たちの才能を開花させるタレンティズム(才能主義主義)だと言われています。職人と言う生き方は(江戸時代の棟梁のがいまだに語り継がれているように、)そもそもタレント性の高い職業であり、これからの時代の主役に躍り出ても何らおかしくありません。閉塞感あふれるこの時代、職人を目指す若者はきっと明るい未来を評価できると思うのです。
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