アスリートのセカンドキャリアを考える
先日、アスリートのセカンドキャリア構築の支援をされているアポロプロジェクトなる団体の元Jリーグの山内理事長、元ラグビー日本代表キャプテンの広瀬専務理事とご縁を頂き、私たちが行っている職人育成とコラボレーションできないかとの話で大いに盛り上がりました。アスリートと職人、肉体と技術を研ぎすますと言う意味で非常に共通点も親和性も多くあり、志の教育を中心に据えている共通点も相まって大きな可能性を感じました。ご縁をいただけたことに深く感謝とともに、新たな可能性を見出すことができました。そして、このような機会をいただけたのは、今までの建築業界になかった人材育成のスキームを我々が構築しているからに他なりません。
人材育成に欠かせない2つのファクター
私が長年、職人育成に取り組んできた中で、重要視してきたファクターが2つあります。それは、これまでの国土交通省や業界団体が推し進めてきた職人育成のプロジェクトではあまり注目されず、見逃されてきたことであり、現在の深刻な職人不足の根源となっていると私が考えているものです。
2つのファクターとは、明確な目的意識を持つ志の教育と、キャリアパスの構築です。この2つは現在、立ち上げを行っている職人育成の高校「マイスター高等学院」でも基本的なスキームの柱として導入しています。そして、これらは職人育成のみにかかわらず、あらゆるジャンルの人材育成に欠かせないものであり、決して簡単に作り上げられるものではありません。私たちは長年の実証を元に職人のキャリアパスを組み立てており、その部分が評価されて今回アスリートのセカンドキャリアの相談を受けることになりました。
非常に厳しいプロアスリートのセカンドキャリア問題
一般的にはあまり認知されていないですが、トップアスリートのセカンドキャリアの構築は以前からスポーツ業界では大きな問題として取りざたされています。幼い頃から過酷な練習を積み重ね、フィジカルと技術を極限まで高めたものだけがトップアスリートとして活躍できますが、厳しいプロの世界で活躍できるのはほんの一握りであるとともに、スポーツの世界でプロとして活躍できる期間は非常に短いのが現実です。長年の夢を叶えてプロ選手になっても、短期間で契約解除される事は珍しいことではなく、スポーツだけに打ち込んできた若者が20歳そこそこで社会に投げ出されることも少なくありません。現役引退後に指導者として活躍する道もありますが、それも決して広き門にはなっておらず、ごく限られた人だけがスポーツ業界に残って生計を立てることができるのが現実です。ほとんどの若者はそれまでのスポーツの世界とは全く違う職業に就いて仕事を覚えなければならないのです。
才能を発揮して活躍できる場所
ジャンルを問わずアスリートとしてプロになるのは並大抵の努力では無いのは容易に想像がつきます。たとえプロ選手にならなくても学生時代にスポーツの世界で全国レベルで活躍する選手は大きな才能と類い稀な集中力、努力を積み重ねる継続力を持ち合わせています。出来ることならその才能を遺憾なく発揮してスポーツ以外のジャンルでも活躍してもらいたいと誰もが思いますが、なかなかそんな活躍の場がないのが現実です。そんな若者たちにしっかりとした教育システムと将来までの明確なキャリアパスを備えた職人への道は大きな可能性を示せると思うのです。
これまでの一般的な職人は個人事業主として何の社会的保証もなく、下請けの作業員として道具のように扱われてきました。しかし、私たちが現在取り組んでいるマイスター高等学院の立ち上げに参画される企業は職人を正規雇用し、単なる作業員ではなく付加価値を生み出せる教育を施してリーダー層やマネジメント層へのステップアップを可能にする人事制度を導入してもらっています。また、未来創造企業認定と言う第三者機関によるガバナンスの整った持続可能な事業所とのお墨付きをもらった事業所に限定しており、そこの職人になるのは今までの日雇い人夫のような職人の働き方とは1線を画した誇りとステータスを持てる技術職との位置づけになります。そのような全国に広がる職人育成のコミュニティーの企業でアスリートを引退する若者のドラフト制度を整えられる可能性さえあると思っています。
社会課題解決を経済のエネルギーに転換する
このような職人育成の新たな取り組みは私が経営実践研究会に入って、元総合格闘技の世界チャンピオンで現在戦う校長としてプロレスの世界で活躍されている池本さん、プロスポーツの世界で初めての上場を果たした琉球アスティーダの早川社長、またプロ野球選手のセカンドキャリアを構築すると淡路島に球団を設立される野村社長などと交流を重ね、学ばせていただく中で見出した社会課題解決のモデル事業です。社会課題とは目の前の人の困り事の集積であり、民間の小さな企業や団体が決して解決できないことではなく、志を立て、熱くそれを語り、同志を募ることで少しずつ解決への歩みを進めることができると信じています。そして、社会課題の解決こそ混迷を深める日本経済を立て直すエネルギーの元になるもの。アスリートのセカンドキャリアの問題解決にも何とか寄与できるように精一杯努力してみたいと思います。
____________________
建築業界の実務者向けに志教育とキャリアプラン構築のサポートを行っています。