無力すぎた地域木材活用の啓蒙活動と、ウッドショック後に持つべき視点
私が住まう兵庫県は瀬戸内海と日本海にまたがって位置しており、その中央部分には丹波や宍粟等の山々が連なっています。実は国内でも上位の林産県であり、杉やヒノキの豊かな森林資源を持っています。数年前に兵庫木づかい条例なる議員立法が可決された位、兵庫県でも森林資源の活用を重要な政策に掲げています。この度、兵庫県知事が長期政権だった井戸氏から若い斎藤氏に変わられたこともあり、今後、その部分にさらに力を入れられる方針があると聞いています。現在私が代表を務めているひょうご木づかい王国学校はそんな兵庫県が創設した子供たちに対する木育、そしてその親世代には木の家の良さを伝え、地元産の木材を使った住宅の需要を喚起する啓蒙団体で、4年前から運営を民間に委託されるようになり、同じ志を持つメンバーと地道な活動を続けています。昨日、2か月に1度の定例会議があり、山と街をつなぎ、豊かな森林資源が循環しながら、地域の経済を活性化する仕組みづくりについて改めてディスカッションを行い、これから行うべく活動について考えてみました。
ウッドショックがもたらすもの
今年になってから建築業界だけではなく、一般のニュースでも報じられるほど話題になっているウッドショックは、住宅取得者や住宅供給業者にとっては非常に悩ましく、困った問題として報じられておりますが、県産木材、国産木材の生産現場にとっては決して悪いニュースではありません。アメリカからの圧力によって為替変動性になり円高になったのと、外国産の木材価格に関税がかけられなくなった時から、平原ではなく急峻な山から木を切り出さなければならない日本の林業は価格競争に敗れ続けてきました。当然、数十年の年月をかけて山に育った杉やヒノキ、そして山自体もその価値を下げ続け、林野庁の補助金なくしては林道もつけられず山の手入れをする人件費も、木を伐採した後の植林も満足にできない状態になっており、事業としての林業は成り立たない状況で廃れていき、山は荒れ放題になる方向に進んでいたのが現実です。国の政策でも木材自給率を高めろと大号令がかかりましたが、建築用材としての国産材の活用はほとんど増えることなく、大規模バイオマス発電の施設が作られて、半世紀以上の長きにわたって育てられた樹木がチップにされて燃やされているのが現状です。この度のウッドショックは供給調整ではなく、まだ為替に反映され切れてない部分的なアメリカのインフレと市場原理での価格高騰ではありますが、国内木材市場にとっては競争力をつけるのと同じ効果があるのは明白で、あまり取り沙汰されてはいませんが、山主や素材供給の業者はほっと胸を撫で下ろしていることだと思います。ちなみに、この5年間、中国向けの木材輸出は増加の一途をたどっており、木材の価格高騰は長期トレンドだと認識せざるを得ない状況です。
国産材活用に是非無し
これまで確かに外国産木材に比べて国産材は価格が高いのは事実でしたが、日本の山で育ててきた杉やヒノキは香りが高く、空気をきれいにしたり、鎮静作用があったりします。それに比べて建築材として圧倒的に多く使われている米松やホワイトウッドはその効果が薄い事が研究の成果で明らかになっています。最近は、製材、製品化する際にスピードとコストのみを重視するのではなく、手間と時間をかけて付加価値を生み出す取り組みも多くなされています。もう少し視点を広げてみると、日本は資源のない国として子供の頃から教育されますし認知されておりますが森林資源に関しては世界有数の資源大国であり、その活用は間違いなく国内経済を活発にさせます。逆に、日本各地の津々浦々に存在する木や山に価値がなくなり、放置されるようになれば、今年も大きな問題なった地滑りや土砂崩れの原因になります。山や森、そこに育てられた木を活用できなければメリットを失うだけではなく、リスクを増大させることにつながります。
市場原理による強制
林野庁を始めとして国としても森林資源を活用し木材自給率を高めることを推し進めようとしてきましたが、それが一向に進まなかったのは実際に家を建てる消費者意識との乖離です。柱や梁等の構造が表されていた日本古来の和風住宅への需要が薄すまり、どんな木を使っても壁の中に隠れて見えなくなる洋風住宅が主流になった今、家を建てる住まい手が構造材の産地にこだわる理由はありません。その結果、材の選択は住宅の供給業者によって決められるのが実情で、住宅会社は少しでもコストを抑えて競争力のある住宅を建てなければならず、自然の流れで安い外国産材を使い続けてそれが完全に一般化しました。今回のウッドショック問題は、豊富な森林資源を適正価格で流通させるスキームが出来上がるいいキッカケになる可能性があります。実際、大手ハウスメーカーや全国的なパワービルダーが県産材良いようにシフトしたと言うニュースも報じられており、適正価格になっているかはさておき、住宅業界のスタンダードが変わりつつあるのは間違いありません。
無力で価値のない啓蒙活動
このように現在の状況を整理してみると、長年、県産木材(国産材)の活用を推進し、地域に循環型経済を根付かせようと啓蒙活動を行ってきた私たちの活動はあまりにも無力で価値のないことのように感じてしまいます。結局、市場原理に強制されるしか大きな変革をもたらす事はできなかったと言う事です。今回のひょうご木づかい王国学校の定例会ではそのような事実を正面から受け止めて、今後我々の活動は何を目指して、どのように行うかについて議論しました。様々な意見が飛び交い、明確な結論を導くには至りませんでしたが、1つだけ共通認識として確認できたのは、安くてたくさんあるから国産の木を使うと言う消去法的な選択ではなく、愛着と誇りを持って日本古来の伝統文化の一端を引き継いでいる木の家に住んでもらいたいとのメンバーたちの熱い想いです。世界的にも持続可能な循環型社会への移行が叫ばれる中、山や森と共に生きてきた日本人のDNAはきっとその価値に反応してくれると思いますし、そのように信じています。
木の住まいの価値を伝えたい
昨今の社会情勢の変化に対応して、今後の具体的な取り組みについては根本的に考え直す必要がありますが、これまでと変わらない基本的な方針として、住まい手に自分の家への愛着を持って、豊かな暮らしを満喫してもらえるように、山から街へとつながるそのプロセスの1つずつを顔の見える安心できる流通にしていくこと、木の素材の価値を最大限生かせるような家づくりの提案を加速させことが必要だと感じました。兵庫県を始めとする自治体とも協力体制をとりながら、地元の森や木に触れ合える機会を増やし、住まい手が知らない間に国産木材が使われていたと言うことではなく、自らその価値を認め、選択し、納得して家づくりを楽しめるような環境を高い志を持ったメンバーと力を合わせ作っていければと考えています。
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四方良しの循環型社会を目指しています。
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